Good bye Lance.

 ここ数年は有休取得のペースが鈍く、大体年を越すと慌てて有休消化を始めている。金曜日に休暇を入れて3連休にして、特に予定があるわけでもないのでちょっとしたトレーニングキャンプのつもりで、金曜日と今日は寒風吹き荒ぶ荒川CRで100kmLSD、昨日は多摩湖CRの南側半周を使って軽い登りの反復練習をした。しっかり走り込みができたので気分的にも充実した3連休となった。

 一昨日、ランス・アームストロングがアメリカのTV番組のインタビューの中でドーピングをしていたことを認めた。一言で言えば残念ということになるが、少々複雑な心境である。

 ランスが1999年から2005年までツールを7連覇した頃は、はっきり言ってアンチ・ランスだった。余りに強過ぎて面白くなかった。その時のプレイバックは全く観る気が起きない。更に気に食わなかったのは7連覇してそのまま引退したことだ。年齢的にもまだまだで別に故障があるわけでもなく引退するのは勝ち逃げ以外の何物でもないと、悪が勝ったままの未完の物語を読まされたようでがっかりした憶えがある。

 しかし2009年にカムバックしたのだが、3月のレースで落車して鎖骨を折るというアクシデントに見舞われたことが鮮烈に思えた(ランスはツール7連覇の間は一度も故障がなく完璧だったので怪我をするということ自体が意外に思えた)。その影響かジロでも精彩を欠き、その後のツールでも勝つことはなかった(それでも3位というのは凄いことだが)。この時初めて負けたランスを見てランスが”人間”に見えて、ようやく未完の物語の結末が見えた気がした。翌年のツールでもランスは落車し精彩を欠き優勝戦線から早々に脱落したが、大会終盤で見せたステージ狙いのアタックにロードレーサーとしての意地を見た。その”負けっ振り”を見てそれまでアンチ・ランスだったのが一転して贔屓の選手の一人になった。

 ランスに対するドーピングの疑いは7連覇の頃からずっと言われ続けていたが、普通の選手より遥かに多いドーピングコントロールを受けていながら陽性になったとは一度も聞いたことはなく、また、ドーピングをやっていた人間がリスクを冒して再び競技に戻ってくるはずはなろうと、強過ぎるが故につきまとうゴシップだと思っていた。

 2011年のシーズン初めで再び現役を引退して以降はドーピング疑惑が再燃し、チームメイトの証言が次々と出始め、物的証拠には乏しいものの結局はこのチームメイト達が証言したことによってランスは追い詰められて自白に至ってしまった。

 贔屓の選手が”クロ”だったことは残念だが、まあこっちが勝手にランスの人物像をイメージして信じ込んでいただけなので裏切られたとかいう感情はない。むしろランスが普通の人間で、ツール7連覇という”人間離れ”した事象が”人間業”でなかったということが分かってすっきりした気がする。

 サイクルロードレースの世界でなかなかドーピングが根絶できないのかと考えれば、一説にはEPOは選手のパフォーマンスを10%上げる効果があると言われ、そこまで絶大な効果があるのであればリスクを冒してでも手を出してしまう選手がいることは不思議なことではない。
 ドーピングが問題視される理由の一つは人間の健康を著しく阻害するリスクがあるということだが、現代のプロスポーツの中にはそのスポーツに特化して身体を鍛え酷使すること自体が健康を害することになっており、その意味合いが混濁しつつある。
 ドーピングは即ちルールと割り切るべきだし、ルール違反を犯した者へのペナルティーはその背景がどうであろうと均一であるべきだと思う。ランスのツール7連覇のタイトル剥奪に異を唱えるつもりはないが、他の事例にも同様に対処すべきである。(例えばビャルヌ・リースは1996年にツールを勝った時もドーピングをしていたと自ら告白したにも拘らず剥奪にはなっていないし、ツァベルやムセウもドーピングの告白をしたが獲得タイトルはそのままだ)

 ランスの7連覇が消えたことはサイクルロードレース界を大きく揺るがし、ドーピング問題はプロスポーツとしてのサイクルロードレースに大いなる影を落としている。しかし私的にはそれ程悲観していない。そういう汚れた部分も含めた全てがプロロードレースだしそこに様々なドラマが紡ぎ出されて多くの人を引き付ける。それが少なくともヨーロッパでは文化として定着しており、そう簡単に廃れるとは思えない。

 私的には無論ドーピングを容認する意識は毛頭なく、スポーツらしく己の身体と精神力で戦う姿を観たいと思っている。今までもそうだったがこれからも”性善説”に立って選手を眺め、全てはルールに忠実にプロサイクルロードレースを楽しみたいと思う。願わくばまた贔屓の選手がリストから消えることがないように。

 ランスが贔屓になってからLIVESTRONGのリストバンドを付けていたが、ランスの善の側面である財団の活動まで否定するつもりはないが、”ランスのイエロー”が虚構となってしまった以上付ける理由はなくなってしまった。

 ランスの周囲はこれから更に大変なことになるだろう。LIVESTRONG財団もスポンサーは次々と手を引き財政難に陥っていると聞くし、これからランスとタイアップしていた企業からイメージダウンを理由に訴訟を起こされたりするのだろうか。ナイキやトレックやオークリーなどは随分とランスで儲けただろうが、それでもやはり訴えるのだとしたらそれはちょっと違う気がする。それにしてもトレックは主力バイクの”マドン”という名前をどうするのかちょっと気になるな。(マドンという名前はランスが現役時代に登坂練習を繰り返したフランスのマドン峠に由来する)