日本縦断2700km:第10ステージ/BRM505埼玉600(函館スタート->増毛)

 5/5、3時起床。流石に疲れが抜けなくなって来た。もたもたと準備をしているとどんどん時間が過ぎて焦る。

 左膝の痛みは微妙。とにかくキネシオテープを貼って様子を見る。
 ホテルのロビーでバイクを組立て出発。

 函館の夜明け前は寒い。アームカバー&ロングレッグカバーを着ける。

 スタート地点の函館駅前に到着したのが3:45、既にブリーフィングは終わっていた。人数はかなり少ない。青森で止めた人はそこそこいる様だ。

 装備チェックが始まり、順次スタートして行く。

 今日のコースは函館から宿のある増毛までの380km。

 今回の日本縦断の中で1日の走行距離が最も長く、幾つかのちゃんとした峠越えがある言わばクイーンステージだ。事前予報では風向きは悪くないが夕方から夜にかけて天気が崩れ雨が降る見込み。このキツイステージをクリアできれば完走は見えてくる。23時増毛着が目標だ。

 スタートしようとしたら、スタッフカーの傍にフロアポンプがあるのを見つけた。鹿児島を出発してからちゃんと空気を入れ直していなかったし、前輪はパンクを経ているので空気圧はかなり低いはずと、ポンプを借りて前後輪とも通常の7気圧まで空気を入れた。
 さあ、いよいよ最終ステージと意気込んで定刻4時にスタートする。

 函館市街を緩々と走り出して1kmも行かないうちに、突然の破裂音。あっという間に前輪のタイヤがぺしゃんこだ。いきなり前輪のチューブが破裂した。これは拙い、出発直前に空気圧を上げたのが災いしたか?と頭の中が混乱しつつ兎に角バイクを止めて状況を確認する。
 前輪を外し、チューブを見る。裂けてでかい穴が開いている。見るからにバースト状態だ。直ぐにタイヤをチェック。タイヤの状況を見て、血の気が引いた。1000kmゴール前にパンクした状況と同じなのだ。同じ位置にやはりリムのエッジが引っ掛かる所に1cm以上のタイヤの裂け目ができていた。ここから高圧がかかったチューブがはみ出てバーストしたらしい。それにしてもなぜ新品のタイヤが同じ場所で同じ様に裂けてしまうのか?ひょっとしたらリムのエッジがやすり状に荒れていて走行中にタイヤを攻撃しているのではないかと思慮を巡らすが、とにかく走れるようにしなければならない。
 タイヤブートを使ってまず穴を塞ぐ。スペアチューブに交換するが、残り1本だった新品のチューブに空気が入っていかない。チェックするとバルブ根元から空気が漏れている。畜生、不良品だ。再びタイヤを外そうとした時、タイヤレバーが折れた。もう、気は焦るばかり。2本目は1000kmゴール後にパンク修理したやつ、これも空気がどこかで漏れていて使い物にならない。最後の1本もパンク修理をしたやつだ。これが駄目ならアウトだ。一縷の望みをかけて交換し、空気を入れる。タイヤが膨らんでいく。やった、取り敢えず走ることはできる。全身の力が抜けた。

 応急処理をした前輪。タイヤの裂け目から白いタイヤブートが見えている。空気圧は低めにしてこれ以上裂け目が広がらない様にする。

 1時間近くの悪戦苦闘、スタート時点はまだ暗かったのに辺りはすっかり明るくなっていた。
 いきなり大きなタイムロス、しかも前輪の空気圧が低いのでスピードは出せない。序盤で大きなハンデを背負ってしまった。ここまで来てDNFの恐怖がつきまとう。

 とにかく走らなければ、先に進まなければ、とバイクを走らせる。

 札幌まで271km。札幌にはサイクルショップがたくさんある。取り敢えずそこまで辿り着ければ上手くいけば650cサイズのチューブが、最低でも26x1インチのチューブは手に入るはずだ。事前調査で確かPC3手前のルート上に大きなサイクルショップがあったのを記憶している。そこまでは何とか持たせたい。
 しかし、271kmは遠い…。

 桜が満開。完全に桜前線を捕捉した。

 北海道らしい道。先は長い。

 海沿いに出てしばらく走っているうちに今度はサイクルコンピュータの調子がおかしくなって来た。昨日まではちゃんと動いていたのに何故だ?走りながら様子を見ていたらどうやら電池切れ寸前の様だ。気温の低さに電圧低下が顕著になっていよいよ動かなくなったということか。取り敢えずCR2032ボタン電池は所持していたので交換を試みるが、サイクルコンピューターCS500の電池サイズはCR2354と全然合わない。サイクルコンピューターが駄目になると距離計測ができなくなって進行状況が分からなくなるので厄介だ。しかし、動かなければ仕方ない。サイコンがなくても走ることはできる。ナビは健在なのですぱっと諦めて走り続ける。

 長万部を通過。取り敢えず100kmはクリアした。

 路面状況は余り良くない。空気圧が低いのでちょっとした路面の凹凸で簡単にパンクしてしまうので路面状況から目が離せない。スピードを落としてひたすら注意しながら走り続けなければならず、これが結構神経を使う。
 冷静に考えれば、もし、パンクしても取り敢えずパンク修理キットはあるし裂け目があるがタイヤはもう一本はあるのでタイヤブートで再生させることができなくはない。 ただ、タイムロスは少なからずあるので、PCタイムアウトのリスクは大きくなる。シビアな状況に追い込まれていることは間違いない。

 走りながら漠然とDNFした時の言い訳を考えていた。正直ここまで来れば完走できるものと思っていたのだが、こんな形で走行不能の危機が訪れるとは思ってもみなかった。メカトラと言えば聞こえはいいが結局のところ整備不良、自分のつまらない落ち度で2度とチャレンジする機会は訪れないかも知れないこの大イベントを落としてしまうなんて余りにも情けない。ここまで走って来た労力を思い返せばとてもリベンジなんて考えることはできず、この受け入れ難い事実を何とか飲み込もうととりとめもなく思慮を巡らせていた。

 海沿いを離れ、山がちな道に入りアップダウンを繰り返すうちに左膝の痛みが強くなって来た。悲壮感が更に増す。

 ずっとトイレを我慢していたのだが、休憩所を見つけたので立ち寄る。
 トイレを済ませ気分的にちょっとすっきりして先を急ぐ。兎に角PC1に時間内に到達することだけを考えて走る。

 北海道らしい道。少しだけだが風景に気を配れる余裕が出てきた。

 124km地点の黒松内のPC1に到着、チェックタイムは10:34。

 とりあえずクローズタイムまで少しばかりの余裕のあるうちに到着できたが、この先トラブルがあればあっという間にマージンがなくなることを考えればのんびり休憩している暇はない。買ったパンを咥えて直ぐに出発する。

 幸い左膝が痛いしスピードは上げられないので心拍は低く抑えられていて体力はそれなりに温存できている。取り敢えず札幌までの150kmを目標に焦らずに走る。

 内陸部から日本海側へ出た。

 歌棄付近。面白い地名だ。

 国道299号線、通称雷電国道を走る。

 雷電国道の長いトンネル。

 170kmまで来た。札幌まで残り100km。岩内町に入る。市街地をのろのろと走っていたらホームセンターを見つけたので、チューブがないか取り敢えず入ってみる。

 26インチの細いチューブはやっぱり見当たらず、最悪折り曲げて無理矢理使ってやろうと700Cのチューブを保険で購入。2000円と物凄く高かったが保険と思えば致し方ない。(後から考えると英式バルブはバルブ径が太くてリムのバルブ穴に入らないので保険にもならなかった。この時は集中力が切れかけていて冷静な判断ができなかった)

 岩内市街を出てしばらく走ると長い登りに突入。左膝をかばいつつ悪い路面の凹凸を避けながらのろのろと登る。



 稲穂トンネル通過。
 下り終えると余市の市街地に入った。街中でロードバイクを飾ってあった自転車屋を見つけて入って見る。残念ながらタイヤもチューブもなかったが、小樽に行けばスポーツバイクを扱っている自転車屋が何軒かあると店の御主人が親切に教えてくれた。小樽まで20km、とにかく行って見るしかない。


 210km地点の余市のPC2に到着、チェックタイムは14:51。

 何とか210kmを消化した。精神的にかなり消耗しているので取り敢えず休憩。
 先着していたちゃりけんさんやウワンさんと会話。タイヤにトラブルを抱えていると話したら、ウワンさんが一言、

「ブレーキシューが当たってない?」

 この一言を聞いた瞬間に、愕然として絶句した。あっ!!と思って前輪のブレーキシューを見たらブレーキシューがリムのブレーキ面から外側にはみ出ているではないか。

 原因はこれか。

 余りのショックで脱力してへたり込みそうになった。
 高さのずれたブレーキシューは、リムのブレーキ面に当たっているところだけが削れていき、当たってない部分との段差がどんどん大きくなっていく。この段差が最終的にはタイヤの側面に当たり始め、最終的にはタイヤに穴を開けるということだ。
 出発前のバイク整備で、普段は練習用のMAVICのホイールを装着しているのだが、ここ一番の決選にはGOKISOハブの自作手組ホイールに付け替える。普通ならこの時にブレーキシューの高さ調整を行うのだが、出発前のどたばたでこの手順を怠っていた。
 おまけにブレーキシューがタイヤに当たると穴が開くということが情報としてインプットされていなかった。完全に言い訳なのは承知だが、こういう事は自分で痛い目にあって経験値として積み上げていくのだが、それがなかったので全く思いが至らなかった。(過去を振り返ってみると、実は数年前の宇都宮200の時に走行中にタイヤサイドが、あちこち切れて行ってパンクを繰り返し、最後はパンク状態で走り続けてギリギリゴールしたことがあって、その時はタイヤが劣化してたとの結論で終わっていたのだがその時の原因もこれだったと思われる。)

 完全に自分のミスだ。一端のバイクメカニックを気取っていた自分が情けないやら恥ずかしいやら。ブルベ大先輩のウワンさんの凄さが神がかって見えた。幾ら感謝しても感謝し切れない程有難い一言だった。

 ブレーキシューを調整する。ものの1分で終了。これでバーストの主原因はあっけなく排除された。それにしてもこんな状態で2000km以上も走って来たのかと思うと、ちょっと寒気がした。

 先発するウワンさんとちゃりけんさんを見送り、ちょっとゆっくり休憩。精神的に一気に解放された感じだ。しかしタイヤの穴が塞がりスペアチューブが手に入ったわけではないので、引き続きギリギリの状況にあるのは変わらない。小樽まであと18km、とにかくそこまで行こう。


 小樽市街に入った所でフレンド商会発見!これは期待できる、と勇んで突入。
 残念ながら置いてなかったが、店の人が「小樽のルート上に新しくできたロードバイク専門店がある」と親切に教えて下さった。感謝!

 取り敢えずその店を探しつつ小樽市街を走る。



 御洒落な観光地は多くの観光客で賑わっている。

 市街中心部を抜けた所でそれらしいバイクショップ発見!

 早速店内に突入し、650Cのタイヤとチューブが置いてあるか尋ねると、あっさり「あるよ」と御主人の一言。あっけなくタイヤとチューブが手に入った。助かった、ギリギリのところで救われた。これでもう一勝負できる!と思ったら気力がみなぎって来た。正直北海道では650Cサイズのタイヤやチューブが手に入る気はしなかったのだが、在庫してくれていたこの御店にはただひたすら感謝感謝だ。

 新品のチューブ3本、バッグのポケットに詰め込む。(タイヤは嬉しさの余り写真を撮り忘れた)
 この御店はサイクルショップ朝里さん、御世話になりました!(後日ここのホームページのブログを見たら私のことが紹介されていてちょっと気恥ずかしい)

 これで完全復活、正確にはタイヤに穴は開いたままだがここまで走って来たしスペアはあるし、この状態でどこまで行けるか試してみたくなってそのまま走り続ける。
 

 札幌市街地に入って来た。一昨年北海道パラダイスウィーク1500kmを走った時に来たのだが、その時と同じ印象。大都会だ。

 262km地点の札幌のPC3に到着、チェックタイムは18:18。

 AJ北海道のスタッフの皆さんが椅子など用意して待機して下さっていた。感謝!MARIOさんとはPBP2011以来の再会。ベテランブルベライダーイナガキさんの姿も見える。MARIOさんから携帯用ホッカイロを頂戴する。この先の寒さを考えると有難い。御心遣い感謝です。
 ぼちぼち暗くなってきて気温も低くなってきたので、レインジャケットを着て出発。

 ちょっと走って来たところで、雨が落ちてきたので止まってレインパンツやシューズカバー、レイングローブを着け防寒対策も含めフル装備にする。
 ふとサドルを見たら前上がりに位置ずれしているのに気が付いた。いつそうなったのか全然気づいていなかったが、そう言えば泥除けがちょくちょくタイヤと擦っていたのはサドルが傾いてサドルバッグが下がったせいだったのか。こういう所も見落として走り続けているなんて、やはりメカニック失格だな。
 サドルポジションも修正し、出発。

 札幌市街地を抜けるまでは10km程、信号がたくさんあって大変だ。

 次の目的地は今日の宿のある増毛、距離は100kmちょっとと長いが兎に角ここまで辿り着けば今日のステージは終わりだ。もう一頑張りだ。

 市街地を抜け周りが一気に暗くなる。雨は降り続いているが、着込んでいるせいか寒さは全くない。

 路肩を示す矢印の点滅を眺めながら走っていると何となく途方に暮れる。

 周りが暗く、空も暗いのでどの辺りを走っているのか全く分からない。そのうちだんだんアップダウンな感じになって来た。勾配は緩いが、登っては下り登っては下りをひたすら繰り返す。左膝が痛い。でもまあ何とか走る続けることはできる。もうただ淡々と走り続ける以外にやることはない。

 いつの間にか雨は止んでいた。レインウェアの袖をまくって腕時計を見るのが億劫で今が何時なのか分からない。札幌を出てから何時間経っただろうか。
 そのうち海沿いを走っていることに気が付いた。遠くの海がぼおっと光っている。光源が何なのか直ぐに分からなかったが、どうやら月が出ていて月そのものは雲に隠されて見えないがその光だけが海面を照らしている様だ。何とも幻想的な風景に走りながらぼーっとしてしまう。
 
 路面状況が分からないのが苦労する。思わぬ凹凸に嵌る度にどきっとするが取り敢えずパンクすることなく走り続ける。
 とある下りの途中でいきなりフロントライトがダウン。どうやら電池切れ、真っ暗闇の中で手探りで電池交換をする。

 時計を見るともう直ぐ0時、この調子だと宿に着くのは1時頃か。
 しばらく走っていると前方に2人のブルベライダーを発見。追い付いてみると一人はイナガキさんだった。イナガキさんも同じ宿を目指しているとのこと。一緒に走りながらイナガキさんと会話を交わす。流石はベテランブルベライダー、武勇伝はなかなか凄い。
 この日本縦断の中で誰かと話しながら走るのは初めてだったが、宿までの最終行程があっという間に過ぎた。

 378km地点の増毛のホテルに到着、時刻は1時を回っていた。
 当初プランはここから2km程先のPC4をクリアしてから宿に戻る予定だったが、この時間の到着になってしまうと少し位遅く出発できても余りメリットはないし、それより早く出発して早くゴールしたいという意識が強く働き、このままチェックインする。

 明日は4時半出発予定なので、4時起きと考えると直ぐに寝ても2時間半位の睡眠時間。まあ今日の有様を考えればホテルで寝られるだけましか。明日の200km走行に必要な最低限の準備だけして、速攻でシャワーを浴びて床に入る。1時半過ぎ消灯。