BRM709北海道1200:第1ステージ/札幌スタート〜弟子屈(464km)

 スタート地点のさっぽろさとらんどを出発し雨の幹線道路を走る。何人もの後発のライダー達が勢い良く抜いて行く。皆1200kmを走るペースとは思えない程のスピードだ。流石に1200kmを走ろうと集まって来た人達だから相当な健脚の持ち主ばかりだろうが、当然そんなペースに付いて行ったら早々に潰れてしまうのでこっちはいつも通りマイペースを決め込んで淡々と走る。

 第1ステージは札幌から弟子屈まで一気に走る464km。24時間走ってホテルに着ければ6時間位はしっかり寝られるので普段の睡眠サイクルを崩すことなく安定して後の行程に臨むことができるはずだ。

 久し振りの徹夜ライドだが、前日までは睡眠不足気味のまま本番を迎えたので睡魔が心配だ。とりあえず夜が明けるまで持ってくれれば何とかやり過ごせると思われるので、そこまでは凌ぎ切りたいところだ。まずは100km先のPC1を目指す。

 路肩表示灯の赤い点滅が北海道ならではの風情を醸し出す。ある意味これもランタンルージュ。

 標識には富良野の文字が。PC1まではそれ程距離はないはずだ。

 程無く101km地点のPC1に到着、チェックタイムは0:59。

 PCは先着のライダー達で賑わっている。序盤なので深夜にもかかわらず皆元気だ。
 今のところ眠気はない。気持ちだけカフェインを摂取しておこうとコーヒー牛乳を飲む。軽く休憩の後、出発。

 雨は小雨だが相変わらずしとしとと降り続いているが、気温は低くないので特に不都合もなく走り続けられる。

 PCを出てから30分程して、遂に睡魔が襲ってきた。過去、ブルベ走行中は殆ど眠気を感じたことはなかったのだが今回はそういうわけにはいかなかった。最初のうちは抵抗して走り続けようとしていたが、そのうちちょっと道端で仮眠しようと適当な仮眠場所を探しながらよたよたと走る。雨が降っているので少なくとも屋根がある所じゃないと拙いのだが、ただでさえ道端の建物は少ないので適当な場所はなかなか見つからない。北海道でよく目にする小屋の様なバス停がベストなのだがなかなか見つからず、そうやって走り続けているうちにいつの間にか眠気が消えてしまった。

 富良野の市街地を通過。

 再び睡魔が襲ってきた。仮眠場所を探すがやっぱり見つからず、そしてまた睡魔が去って走り続ける。そんなことを30分周期で繰り返しながら走る。
 3時を過ぎて、何となく東の空が明るくなってきた気がした。夜明けは意外に早いかも知れない。

 3時半を過ぎ、はっきりとした夜明けになって来た。次のPCのあるかなやま湖はもう直ぐだ。
 いつの間にか雨は止んで、路面も所々乾いている。ようやく最初の雨の夜をやり過ごすことができて安堵しながらPCを目指す。

 164km地点のPC2に到着。

 建物の中に入りチェックを受ける。チェックタイムは4:16。濡れたシューズと靴下を脱いで2階の休憩所に入る。

 生姜の効いた餃子スープが旨い。おにぎりなどの食べ物は十分に用意されていてしっかり食べることができる。通常のブルベとは違い、この様な手厚いフォローはしっかりと休息が取れるので非常にありがたい。

 アサノさんも到着、まだまだ元気一杯。
 30分以上休憩して出発する。

 気分もリフレッシュして走り始める。

 かなやま湖畔。雨も上がり、それなりに爽やかな朝。

 次のPCまでは130kmと長いので、途中90km付近のコンビニで休憩を入れる予定で走る。

 狩勝峠への長い登りが始まった頃、再び雨が降り始めた。
 パラダイスウィークの時に反対側から狩勝峠を登ったが、その時の感じからすればこちらからの登りは勾配はそれ程きつくないのだが距離は非常に長い。雨の中を淡々と登る。

 6:25に無難に山頂到達。ここから急勾配を一気に下る。
 下りもそろそろ終わりかといった辺りで左折ポイントを見逃しコースアウトしてしまった。慌てて戻り始めると、後ろから来たライダーもこっちに向かってきていたのでミスコースを伝えると「Follow you!」と返された。どうやら外人さんを巻き添えにしてしまったらしい。取り敢えずコース復帰してミスコースを誤った。外人さんは私の半袖ジャージとレーパンのみの格好を見て「寒くないのか?」と聞いて来たのだが、実際寒さは余り感じない。いつものことだがどうも私は一般人より寒さに鈍いらしい。


 ひたすら真っ直ぐな道をひたすら走る。北海道ならでは風情に、雨は降っているがそれ程苦にはならない。

 休憩ポイントに設定した士幌まで後20kmちょっとだ。じわーっと登っている長い真っ直ぐな道を淡々と走る。
 本当はほぼ中間地点の道の駅うりまくを休憩ポイントにしたかったのだが営業時間が9時からだったので、多分到達はその前だろうとその先のコンビニにした。

 道の駅うりまくに差し掛かると、トイレが立派で室内に椅子などがあるのでここで休憩することにした。

 室内に入ると椅子に濡れた跡がある。どうやら先行のライダーもここで休憩していた様だ。自販機で買ったコーラと持っていたカロリーメイトで補給しつつ休憩する。時刻は8:30。休憩していたら身体が冷えてきたので、アームウォーマーとニーウォーマーを着けて出発。

 相変わらず雨はしとしと降り続いている。足寄まで41km。

 雨で霞む広大な農地もそれなりに風情があっていい。

 標識に弟子屈の文字が出てきた。ルート的にはもっと距離があるが、それでも確実に弟子屈が近づいていることが実感できる。緩やかで長い長い真っ直ぐな下りをのんびり走る。走っていると暑くなってきてアームカバーを外す。

 足寄の街並みを抜ける。PCはもう目の前。

 程無く297km地点のPC3に到着、チェックタイムは11:10。

 御腹が空いたので大盛りパスタでしっかり補給。休憩していると身体が冷えてどんどん寒くなって来た。ちょっと我慢できなくなってきたのでレインジャケットを着る。30分程の休憩の後、出発。

 PCを出て少し走ったら雨が上がった。陸別に向けてじわじわと登っていく。

 陸別まであと5km。ずっと登っている。

 陸別町に入った。
 陸別は会社関係の某所属団体と繋がりのある土地らしく、陸別という名前だけは良く聞かされていたので、今回のコースの中で何となく注目していた所だ。

 町に入ってからも更に登る。陸別は山の上の街だったのか。

 話に聞いていた「しばれフェスティバル」の看板発見。しばれフェスティバルとは冬の最中の夜、氷点下何十度にもなる極寒の中で野外に作った鎌倉の中で一夜を過ごすという極寒体験イベントらしい。

 こじんまりとした街並みを抜ける。ふるさと銀河線の駅跡。

 前を走っていたライダーがコンビニに入っていったのを見届けつつ、信号待ちで停まったらその人から声がかかったので振り返ったら北海道在住のタナカさんだった。タナカさんも元気に走行中でなにより、エールを交わしつつ先へ進む。

 陸別の街を抜けても更に登っている。そう言えば陸別の先に峠があったことを思い出した。とにかく登る。

 ここを右折、次のPCがある北見の文字が出てきた。

 まだまだ登りは続く。勾配は緩く、雨も上がって高原の爽やかさがそこはかとなく漂っていてそれなりに楽しく走ることができる。

 ようやく山頂、美園峠を越え訓子府町に入る。北見まで32km。

 ここからの下りはそこそこの勾配で気持ち良く下れたのだが復路でこれを登り返すとなると結構きつそうだ。


 あっという間に訓子府の街まで下って来た。時刻は14:30。この辺りは雨が降った形跡はなく、路面は全く濡れていない。微妙に向かい風の中、久し振りの平坦路を北見に向かって走る。

 北見市に入る。北見は玉ねぎの産地なのか。

 北見の市街地が思いの外大きくてなかなかPCに着かない。信号でちょくちょく引っ掛かって調子が狂う。

 ようやく市街地を抜け、PCが近づいて来た。

 386km地点のPC4に到着。

 神奈川から応援スタッフとして参加されている井出マヤさんから直々にチェックを受ける。チェックタイムは15:36。

 ここ北見市自然休養村センターに設置されたPCは食事・仮眠・ドロップバッグ等が集約されており、PBPに引けを取らない充実したPCになっている。

 まずは食事。



 メインの豚汁を始め、サラダや果物、パンや御菓子など豊富な品揃え。

 早速豚汁を頂く。旨い旨い!落ち着ける場所で座ってちゃんとした食事ができるのは本当にありがたい。

 豆パンや御菓子も頂く。満足満足。

 パッと見10人程のライダーがホールで休憩中、中には仮眠所で寝ている人もいるらしい。

 ドロップバッグを一旦受け取り、タブレットPCとバッテリー充電器等の電装品だけを取り出して再び預けた。今日明日の宿泊のためにサドルバッグに移す。この気候ならばレインパンツなどは必要なかろうと、ドロップバッグに入れたままにした。

 40分程休憩の後、スタッフに見送られつつ出発する。


 PCを出て直ぐ、チェーンにオイルを注すのを忘れていたことに気付いて、道端に止まって注油する。

 弟子屈まであと80km。現在時刻は16:20だから到着は予定通り21時位か。もう少し早く着きたかったがやはり前半の雨天と向かい風基調でそれ程巡航速度は上がらなかった。とにかくあと4時間走れは寝られる。今日最後の峠越えとなる美幌峠をクリアすれば後は下って弟子屈の街だ。ようやくゴールまでが見通せたので気持ち的に余裕が出てきた。


 PC直後はいきなりちょっと登らされた。美幌まで17km。

 山道を抜けると郊外の田園地帯を抜ける平坦路をひた走る。この頃になって微妙に右膝が痛くなってきたので、余り負荷をかけない様に気を付ける。

 美幌市街地に入る。美幌峠まではまだ26kmもある。
 市街地は結構信号に引っ掛かってペースが上がらない。

 市街地を抜けるとぽつぽつ雨が降って来た。このまま降られずに弟子屈まで行けるかと思ったがそう甘くはなかったか。
 市街地を抜けてから微妙に登りつつ真っ直ぐな道をひたすら走る。向かい風がかなりきつくなってきてもう20時間以上走り続けている身にはそこそこ堪える。思った以上にペースが上がらない。夕刻になり辺りもかなり暗くなってきた。何とか暗くなる前に美幌峠を越えてしまいたいところだが微妙になって来た。

 古梅を過ぎた辺りで急に勾配がきつくなった。いよいよ美幌峠のアタック開始だ。

 結構な勾配の坂がまっすぐに上まで伸びている。前方に霧が出ていてその先が見通せない。雨も強くなり正面から吹き降ろして来る風が徐々に強くなって来た。この雨風のせいで激坂になっている。
 時たま後ろから抜いて行く車が前方の霧の中に入って行き赤いテールランプだけが遠ざかっていくのだが、その赤い光が小さくなりつつもずっと見えつつどんどん上に登って行くのだ。普段走る坂道は曲がりくねっているので車は直ぐに曲がって視界から消えるのだが、この登りはそうはいかない。とにかく真っ直ぐに延々と続く登りは視覚的に強烈な精神的ダメージがある。正直ちょっと参った。とにかく足付きだけは絶対にしない様にシッティングとダンシングを繰り返しながら必死に上る。
 どんどん雨風が強くなってきて両側の木々が揺れまくっている。まるで嵐の様だ。これは全くの想定外だ。

 坂の無間地獄に嵌った様でもう思考停止して登り続けるしかない。ただひたすら登り続けていたら、ようやく山頂まであと2kmの標識が見えた。しかしこの2kmが長い。向かい風でちっとも前に進まない。

 必死にバイクにしがみついて何とか山頂に到達した。時刻は18:50。山頂は真っ白でまるで標高2000m超の渋峠にいる様だ。確かここは500m位だったと思ったが、半端ない荒れ様だ。ぎりぎり薄暮の残る中で登り切って、この先の下りを考えたら立ち止まる余裕は全くない。そのまま下りに入る。
 風雨と濃い霧の中を慎重に下っていく。路肩の路面状況が悪く、更に危険度を増している。登りに比べて勾配が緩いのがせめてもの救いだ。
 それにしても私はぎりぎり明るいうちにここを越えられたが、これからこの峠を登っている後続は結構な人数がいると思われ、暗くなってからでは相当にヤバい。何とかクリアした安堵感と、これからの人達のリスクを考えると複雑な心境を抱えつつ下っていく。

 標高が下がるにつれて徐々に霧は晴れて視界は若干クリアになったが、その代わりに雨が更に強くなり完全に日が暮れて暗くなった。これから弟子屈までは下り基調と思っていたのだが、真っ直ぐな道を走り続けていたら再びじわじわ登り始めた。雨は土砂降り、強い向かい風でまだまだ弟子屈までは20km近い距離が残っている。美幌峠越えで最後の気力と体力を使い切った身にこれは心底堪える。
 ここまでキツい状況に追い込まれるとは全く想定していなかった。気持ちが切れかけて何度も止まろうかと思ったが止まっても何もないので、ただ走り続けるしかない。思考停止してただただ走るのみ。
 止めを刺される様な急勾配を登らされた先にようやく街の明かりが見えた。弟子屈の街だ。全身の力が抜けた。

 何とかかんとかホテルに辿り着いた。21時前の到着は直前の美幌峠越えの悲惨な状況を考えれば意外な程早かった。
 チェックインして、部屋に入り濡れたウェア脱ぎ捨ててようやく人心地着いた。何とかかんとか460kmをクリアできたことに安堵する。
 早速温泉に浸かる。無上の幸せを感じる。ついさっきまでもう走るのを止めようと気持ちが終わっていたのに、今ではすっかりそんなことも忘れて寛いでいる。この変わり身の早さはある意味でブルベライダーに必要な素養なのかも知れない。
 風呂から上がって右膝に湿布を貼りコンプレッションタイツを履いて身体のケアをする。明日の行程の再確認、とりあえず朝5時までは寝ていられるので睡眠時間は6時間近く確保できる。何とか次のステップに進めそうだ。
 目覚ましを翌朝5時にセットして、23時に就寝。