João Gilberto

 私は音楽を演る人間だが、人様のライブを聴くのは余り得意ではない。若い頃はプロアマ問わず色んなライブに行ってそれなりに楽しんでいたが、プロのライブにはもう10年以上行ってないしごくたまに友人のライブに付き合い程度に顔を出す程度だ。私的にはライブの音楽がドンピシャで楽しめることってそうそうあるものではない。ライブの当日に気分や体調が上手く嵌まるのは意外に難しかったりするし、当たり前だけどライブって大勢の人間が一つのスペースの中に密集して聴くものなので小心者の私はどうしても周囲が気になっていまいち演奏にのめり込めないというのもある。勿論過去に行ったライブの中で楽しい思い出のあるものは幾つかあるが、音楽を聴いているというよりは祭りの中に埋もれて盛り上がっているという感じだ。過去の経験の中で純粋に音楽としてレコードやCDを超えるベストテイクな演奏を聴いたという記憶は殆どない。プロのアーティストとリアルタイムで相対する必要性を余り感じないというか、独りで余計なことに気を配ることなくぼさっと録音を聴く方が性に合っている。

 それでもできることなら是非ライブを観たいと思う人が一人だけいる。それはJoão Gilberto。言わずと知れたボサノヴァの神様だ。若い頃のジョアンは歌声の線が細くてそれ程好きではなかったが、歳を取ってからのジョアンは歌声に渋みが増してぐぐっと良くなって俄然好きになった。昔歌っていたボサノヴァ・スタンダードを歳を取ってもずっと歌い続けている。ギターのスタイルもずっと同じ。

 最近のヘヴィーローテーションの1曲”Isto aqui o que é ?”。
 ギター一本で淡々と弾き語る彼のボサノヴァは円熟味とか言ったらちょっと軽い感じがする。(昔の某ウイスキーのCMの台詞にもあったが)何も足さず、何も引かず、ずっとこのままで数十年、もうボサノヴァそのもの。録音だけでは分からない彼の醸し出すボサノヴァ・フレーバーを直に感じたいと思うと、これはもう彼のライブに行くしかない。のだが御年86歳、引退はされていない様だが来日して頂けることはまず期待できない。母国ブラジルでも果たしてライブ活動をされているのかどうか定かではない。でももし機会があったら、行って見るかブラジルに。ついでに自転車担いで走ってみるか。ブルベがあったらなおいいね…、なんて妄想を膨らませてみたりしている。

 ある時ジョアンのディスコグラフィー全てを網羅したギター譜が発売されていることを知り、安い買い物ではなかったが大奮発して手に入れた。

 内容の充実度はもう凄いと言う他はないがこの本を作り上げた著者の情熱も凄いと思う。ずっと大事にしたい宝物が一つ増えた。
 この本を手に入れたからと言って直ぐにジョアンみたいに弾けるわけじゃないし、付け焼刃的にジョアンのプレイを摘み食いしようなんて浅ましい性根と思わなくもないが、これも勉強勉強。
 10年後、60歳になったらボサの弾き語りでステージデビューしてやるかあ、なんてこちらも更にしょうもない妄想を抱きつつこそこそ練習しよう。