MGM2018/Report 4:Stage 1,Day 1/Torrelaguna-Ayllon(166km/166km)

 8/19(日)、やっぱり夜中に目が覚めた。時刻は2時。眠れそうにないので改めてコースの予習。PBPと比べて山がきつい。イメージしているうちに不安が増してきた。そんな自分にこの言葉を贈りたい。「案ずるより産むが易し」

 1時間置きに眠ったり起きたりを繰り返していたけど、6時半になってもう全然眠れなくなってしまった。暗闇の中ベッドの上であれこれ思案しているとネガティブな方向にしか行かないのだが、精神的にしんどいのは多分今だけだろう。明るくなって気分が変わってスタート地点に行って雰囲気に呑まれたらきっとスイッチは入るはずだ。ツイッターでつまらんことを呟いていると数人の知り合いが返事を返してくれる。日本は昼か。気が紛れるので有難い。

 色々と自己暗示のフレーズを並べて前向きなモチベーションを喚起させようと試行錯誤。「日本よりは暑くない」、「俺は寒さに強い。寒い方が調子が良い」、「獲得標高差はPBPと大差ない」、「北海道2400の半分の距離」、「凄く良く寝た。疲労も回復した」等々。

 ポジティブなモチベーションアップのためにゴール後に行くであろうバルのメニューを調査。今回の遠征の目的は走行後にバルでビールとピミエントスパドロンを食べることだが、他にも食べたいものが幾つも見つかった。結局のところ駄馬は目の前にニンジンをぶら下げないと走れないというところか。
 初めての国、独り、時差ぼけとか色々な要素が付け加わると、ブルベ前の陰鬱な感じがより強化されるのだが、でもまあこれも海外ブルベの醍醐味と言えば醍醐味だろうか。ここを耐えて走り出してもし完走できたらその時の達成感と解放感も倍増はずだ。人生、ギャップが大きい方が楽しいはずだ(多分)。

 

 時刻は16時を過ぎた。あと1時間程で行動開始。朝5時位からずっとベッドの上でうだうだしていたけど結局一睡もできず、もう眠るのは諦めた。PBPの時は前日に受付以外にシャンゼリゼに走りに行ったりと結構動いていたから適度に疲れて眠れたのかも知れないが、今回は動かなさ過ぎがもしかして裏目に出たか?とにかくスタート地点に行って雰囲気に呑まれて興奮状態で最初の休憩ポイントまでの110kmまで走れれば落ち着くか?その後日の出までの6~7時間を睡魔に襲われなければ次の展開が出てくるはず。そして430km地点の仮眠ポイントに着いて寝られれば普段のペースに持ち込めるはずだ。

 もううじうじとネガティブ思考を繰り返している時間もなくなった。とにかく身体を動かす。ベッドから起き上がって身支度を始める。

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 グローブは新品も持って来ていたけど、結局使い慣れたやつで行く。もうボロボロで掌のパッドもなくなっている様なグローブだけど安心感がある。まあ要するに普段のブルベと大して変わらないということの自己暗示みたいなものかな。

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 さてそろそろホテルを出立。フロントにいた女性に「今からGijonに行ってくる。戻りは4日後」と伝えたら目を丸くして手を差し出されたので握手。頑張って来いという意思表示の様だ。4日後、この部屋に戻って来る時は大いなる達成感と解放感を抱いていることを切に願うのみ。

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 El Molarを離脱。やはり疲労感は残っていて身体は重い。17時を過ぎているがまだまだ日は高く暑い。

 長い下りに入る。El MolarからTorrelagunaに向かって走るのはこれが最後になるのでこの坂を下るのも最後。まだ本番はこれからなのにほんの少しだけ名残惜しい気分になる。

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 スタート地点に到着。スタート1時間半前。ここまで来るのにもうぐったり、こんな調子でこれから1200kmも走れるのか益々不安になる。

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 まだ参加者の姿はまばら、これから大イベントが始まるという盛り上がりは全然ない。

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 のんびりした雰囲気で高揚感に呑まれるというよりは和みの雰囲気に何となくネガティブ思考が緩んできた感じ。まあ前向きな気分になれれば何でもよい。

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 PBPの時の様にスタート前の余興があるわけでもなく食事が提供されるわけでもない。ただのんびり待つだけ。日陰に移動して時が過ぎるのを待つ。相変わらず日差しはとにかく強いけど日陰は風が吹くと涼しい。

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 時刻は19時、スタート1時間前。徐々に参加者が集まって来て何となくスタート前の雰囲気になって来た。

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 バイク・装備共万全は尽くしたつもり。1200kmをノートラブルで走り切ってもらいたいところ。

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 この大会で唯一と思われるカウル付きバイク。アップダウンの激しいコースをこれで走るというのは凄い。

 ざっと見渡して250人前後の参加者といったところか。

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 パトカーがやって来た。交通整理をしてくれるのかな?

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 我々が大挙して占有しているのは一般の生活道路。近隣住民の車が通り抜けようとするが、参加者達はなかなか道を開けようとしない。動かない参加者達と怒ってクラクションを鳴らすわけでもない車、いい加減でフランクなスペインらしい時間が過ぎていく。

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 20時になった。あれ?特に掛け声とか号砲とかが鳴るわけでもなく先頭が走り始めているぞ。何となく始まったみたい。装備チェックやブルベカードにサインとかはないのか?何だこの締まりのないスタートは!(笑)

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 先頭付近で赤い服を着た女性がブルベカードに何やら書き込んでいる様だ。

 私の番が来てカードを渡したら、昨日受付してくれたその女性は私の名前を憶えていてくれた様で、私の名前を呼びつつカードに赤いマジックで”3”という数字を大きく書いてくれた。出走サインの欄は空欄のまま。「ここにサインはしないの?」と聞いたら「それはいらない。この数字が出走サイン。第3ウェーブで15分後にスタートよ」と答えてくれた。

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 さあ、いよいよスタートだ。それまでののんびり和やかムードから一気にテンションが上がる。やはりこの時は来た。

 8/19 20:15、2018MGMが始まった。先導バイクに牽かれ、関係者や街の人達に見送られながらTorrelagunaの街中を走って行く。スタートの感じはPBPやLELと同じ。やはりスタートのテンションはどこも同じか。30km/hを超える速いペースで集団が進んでいく。オーバーペースだが周囲の状況がマイペースを許してくれる雰囲気ではないので何とか集団に付いて走る。

 1日目は徹夜走行で430kmの長丁場。獲得標高も4000m近くあってアップダウンはかなりきつい。仮眠ポイントのCistiernaまでは23時間で辿り着く予定だ。

 Stage 1は166kmだがこれを一気に走るのはきついので、110km地点に設定されているBreak Pointで休憩する予定。

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 西日がきつく気温は充分に高い。私的には苦手な温度域だが集団のノリに流されて脚を回す。

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 緩やかな登りが続いているが集団のペースが全然落ちない。だんだん付いて行くのか辛くなってきた。

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 はっきりとした登りになったところで堪え切れず集団から切れてしまった。完全にオーバーペースだったので仕方ない。

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 西日がきつい。暑さとオーバーペースでへばり気味なので早く日が沈んで涼しくなって欲しいところ。

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 19km地点、El Casarという街に入った。第3ウェーブの集団からの千切れ組に混じって進む。

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 街を過ぎてここまでのアップダウンが収まり平坦基調になった。集団もばらけて単独走行。第3ウェーブが最後のスタートだったのでそこからも千切れたということは最後尾辺りを走っていることになる。

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 やっと日が沈んだ。まだ気温が高いが下馬評通り急激に下がって10℃半ば位になってくれればいつも通り調子が戻って来るのではないかと思われる。とにかくそこまでは忍の一字で走る。

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 集団から千切れて来たライダー達で集団の離合集散が繰り返される。安定してまとまって走り続けるということはない。

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 スタートしてまだ40kmも走っていないのにこのキツさは何だ?手を抜いて走っているわけではないのに集団から千切れて最後尾に置いて行かれて暑さにやられてよろよろと走っている。スタート直後のオーバーペースが影響しているのは間違いないが、とにかく皆速いんだよ。これは2011PBPのスタート直後と全く同じパターンだ。あの時も物凄い速いペースに付いて行けずにあっという間に集団から千切れて、暑さにやられて途方に暮れながら走ったのだが、あの時の敗北感と無力感が蘇ってくる。

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 暑さで頭がぼおっとしつつ、いつまでも続く夕焼けの風景を眺めながらただ脚を回していると、ここはどこだ?ここで一体俺は何をやっているんだ?とふっと目的が分からなくなる瞬間がある。

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 周りの風景が全然変わらない。視線の先の山が近付いてくるわけでもなく、ただひたすら平坦で真っ直ぐな道を走り続ける。それも日が沈んで真っ暗になってしまえば周囲の風景は分からなくなる。

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 日が沈んで気温は下がったが、調子が全然戻って来ない。いつもなら涼しくなると排熱処理が上手く行って体感的に気持ち良くなっていくのだが、今回はそれが全くない。熱が身体にまとわりついている様で不快なままだ。何かがおかしい。何がおかしいのか分からないのだが全然ペースが回復しない。

 50kmを過ぎて平坦が終わり一旦は下り基調になったものの、長い登りが始まった。もう全然登れない。ただきついだけ。何でこんなことになっちゃったんだろうと自問するも明快な回答は得られず、ふらふらと登って行く。

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 68km地点、Cogolludoという街に入った。そこそこの人数のライダー達が休んでいるのでつられて休む。街の広場に入ると噴水があった。これは今泉さんのブログにあった噴水だ!ボトルの水が残り少なくなっていたのでここで水を汲み喉を潤す。ちょっと生き返った。

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 バルで休んでいこうと思ったがここで腰を下ろすと、動き出せなくなりそうだったので素通り、先に進む。

 街を抜けると再び登り基調、街でちょっと回復したつもりだったがすぐに駄目になった。よろよろと登って行く。

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 休憩ポイントのあるAtienzaまであと26km。アップダウンの最中での26kmがとてつもなく長く感じる。

 アップダウンと言いつつも基本は登り基調。斜度がきついわけではないがずっと登っている感じ。坂の無間地獄に嵌まってしまった様な絶望感が出てくる。もう、唯々きつい。

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 恐らくさっきCogolludoで休憩していたであろう集団が快調に抜いていくのをただ見送るだけで、益々置いてきぼり感が増してきて敗北感に苛まれる。心が折れていくっていうのはこういう感じなのか。ちょっと気持ち的にテンションを維持していくのが難しくなってきた。

 時折、明るいライトのバイクが前から走って来てすれ違う。こんな時間にすれ違うのは恐らくDNFを決めて戻って行く参加者に違いない。今戻るなら100km位走るだけで楽になれる。幸いホテルは通しで予約してあるしフロントは24時間対応なので路頭に迷うことはない。今こんなにしんどいのに、これからあと18時間、夜が明けて暑さと睡魔と闘いながら走り続けることを想像した時、背筋がぞっとする位恐ろしく感じる。どうやっても走れるとは思えない。私的に初のDNFになることは重大なことで、相応の理由がなければとても受容できるわけはないはずなのに、もうそんなこともどうでも良くなる位に気持ち的にヘタっていた。

 休憩ポイントまで行って休んだらスタート地点に戻ろう。素直に負けを認めよう。もう無理だ。

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 休憩ポイントまであと6km。

 アップダウンは続く。あと2km程で再び登り。這う様にして登って行く。

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 上の方にかすかな明かりが見えて来た。どうやら街の様だ。とにかくあそこまで行けば楽になれる。

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 110km地点の休憩ポイントに到着、チェックタイムは日付が変わって8/20の1:30。

 何とか休憩ポイントに辿り着いた。ここはバルの様だ。よろよろとバイクを立てかける場所を探し、バイクを停めて店の中に入った。

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 カウンターでコーラ2本とサンドイッチを購入、席に座ってもさもさと食べる。

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 店内にいる参加者は数名。集団本体はもう行ってしまった様だ。

 コーラが身体中に染みる。少し精気が戻って来た気がする。もう少し走れるか?最初のPCまではあと56km、ブルベカードにPCのスタンプが一つもないのは幾ら何でも寂し過ぎるのでもう少し頑張るか。さっきまでのヘタレた気持ちから少し這い上がれた気がする。

 休憩して身体が冷えたら急に寒く感じたのでアームウォーマーとニーウォーマーを着用する。30分程休憩して出発、PCを目指して走り始める。

 走り始めは寒い。が、さっきまでの不快感はない。いつも通りの冷たい空気が心地良く感じられ心身共にシャキッとする感じがちょっと戻って来た。まだ走れそうだ。

 走りながらさっきまでの絶不調の原因を考える。スタート直後のオーバーペースと残暑と、あとはハンガーノックだったのかも知れない。よく考えてみたらスタート前はスナック菓子しか食べていなかったからハンガーノックになってもおかしくはない。コーラ2本を飲んで急に復活したのも納得できる。もしこの先走り続けることができて完走できたなら、さっきのバルのコーラに救われたことになる。バルの主人に感謝だな。

 ちょっと走ると身体も温まって来てアームウォーマーが暑くなってきたので外す。腕に当たる夜風が気持ち良く感じられる。

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 130km地点、Somolinosという街を通過。寝静まった街中をそろりと通過する。

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 道の両脇に赤いランプが幾つも見えるので何だろうと思ったら、どうやら風力発電機が幾つも立ち並んでいる様だ。

 夜空を見上げると星空が凄い。ほぼ360度開けた空に満天の星、久し振りに肉眼で天の川を見ることができた。星空モード搭載のデジカメを持ってこなかったことを後悔する。

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 遂にAyllonの街に入った。PCはもう目前。

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 Ayllonの街中も寝静まっている。

 166km地点のC2 Ayllonに到着した。

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 小さな運動場の片隅にテーブルが置かれ、そこに座った2人の若い女の子が満面の笑みで迎えてくれた。キャピキャピした感じが高校生くらいか?明らかにスタッフじゃなくて地元の人だと思われる。

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 チェックタイムは8/20の5:02。MGMのスタンプが逆さまなのは御愛嬌。兎にも角にも一つ目のスタンプが押されてほっとした。

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 運動場脇のバルの様な店が開いていてそこで何か買えそうだ。

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 コーラ2本とサンドイッチ。コーラはどこも1本€1.5か。もうコーラは命水、止められない。

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 受付の女の子達が楽しそう。何となく気分も解れて普段の落ち着きを取り戻しつつある。一時はどうなることかと思ったが、まだ走り続けようという前向きなモチベーションが戻って来たのはとにかく有難い。30分程休憩して出発する。