MGM2018/Report 16:Stage 13,Day 4/Cogolludo-Torrelaguna(66km/1239km)

 8/23(木)、C13/Cogolludoで45分程しっかり休憩し体力もそこそこ回復、気合を入れ直して8:30に出発する。

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 乗継ありの海外飛行機輪行にも耐え、ここまで1170kmをノートラブルで走って来た我がバイク。あとはこのバイクと自分の身体をゴールまで無事に持って帰るのみ。ここまで来てコケたら只の莫迦だぜ。

 ゴールまでの最後の区間は、序盤に多少アップダウンがあった後は平坦基調、67kmの距離だと3時間でゴールできるはずなので暑さとの戦いは少なくて済む。あと3時間、3時間でこの旅も終わる。

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 休憩している間に日が昇った。4回目の朝日、でもこれがMGM最後の朝日だ。

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 PCを出て直ぐに登り。まだ脚は回る。ぼちぼち登って行く。

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 丘を越えると更に丘が見える。右上がりに登って行く道が見るからにしんどそう。

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 さっき見えた道を登って行く。脚はまだ回るのだが両手の指に力が入らなくなりシフトチェンジがかなりし難くなったのが難儀。ワイヤー解放方向はそうでもないのだが巻き上げ方向はかなり辛い。特に左手。91デュラはシフトは軽いはずなのにそれでも駄目なのは相当やられている様だ。

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 今度は左上がりの登り。その向こうにも丘が見えている。一体いつまで続くのか。

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 登って下ってまた登る。亀の歩みの程にしか進まないけど、でもそれでもゴールに少しずつ近付いているのは確か。

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 太陽はそこそこ登ったが雲が多くて日差しはジェントル。気温も低くて走り易い。

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 恐らくこれが前半アップダウンの最後と思われる長い登り。勾配もぐっときつくなって5%位はある。ちょっと気を抜いたらふらついて足を付いてしまいそうな遅いスピードでじわじわと登って行く。

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 3人組に追い付いた。元気そうに大きな声で談笑している。海外のランドヌールのグループは走行中にホント良く喋る。

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 予想通り登りは終わった様だ。往路の記憶ではここからしばらくはド平坦だ。ゴールまであと52km。

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 道脇には赤茶けた乾いた土の大地が広がる。耕されている様だが一体ここで何を育てるのだろう。

 身体のあちこちが痛いけどつい脚を回して30km/h程の巡航で走る。脚が残っているというよりは蝋燭が消える直前にパッと輝く感じかな。2011年のPBPの終盤もこんな感じだった。

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 何もない褐色の荒野の一本道をひた走る。最終日のスペインの空は薄雲のヴェールがかかりちょっとだけ哀愁漂う。ハードボイルドな旅の終わりはやんわりとフェードアウトしていく感じなのか。

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 西向きだった進路が直角に折れて南に変わった。平坦路は続く。ゴールまで残り40kmを切った。

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 道路標識にTorrelagunaの文字が出て来た。いよいよゴールが近付いて来た。この先の交差点の角に、確かジュースの自動販売機があったのを見かけた記憶があるので、そこで休憩を入れるつもり。

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 あった!バイクを停めて早速トライしてみる。

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 支払いはコインのみ。手持ちのコインを試してみたが¢50のコインしか受け付けてくれなかった。€1.5で冷たいコーラをゲット、MGM走行中の最後のミッション完了。15分程休憩してリスタート。

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 長い平坦区間が終わって再びアップダウンが始まった。この区間の序盤程ではないが緩やかな丘が目の前に見える。

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 5%を超える急坂がキツイ。平坦路はそうでもなかったのにちょっとした登りに入るともう脚が殆ど残っていないこと自覚する。尻や両足の裏が痛くてシッティングもダンシングも両方辛い。両手の指の力が入らなくて、左手のシフトチェンジ、特に巻き上げ動作で指でレバーを動かせなくなってしまった。仕方が無いので左手で拳を握ってレバーを押してシフトチェンジをする。ヘロヘロと登って行くが悲壮感は余りない。

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 このだだっ広い真っ平らな荒野もそろそろ見納めか。そう思うとちょっと名残惜しい。

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 4日前に見た、掌の様に積み上げられた牧草の塊。これを見ると、スタート直後にここを通った時は集団から千切れて体調もガクッと悪くなり、日暮れ直前の悲壮感が生々しく思い出される。でもそれももう直ぐ良い思い出の一つとして整理されるはずだ。

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 Cogolludoから48km地点、El Casarの街に入った。ここが通過点としては最後の街、後はゴールのTorrelagunaだけだ。

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 街中を緩々と通り抜ける。ゴールまではあと18km。

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 街を抜けると最後の荒野。いつの間にか空の雲がなくなりいつもの様にキツイ日差しに変わっていた。最後の最後はやはり悪魔の太陽との戦い。でももう1時間はない。

 長い下り基調に入った。スタート直後は確かこの坂で集団から千切れてしまったのだが、それにしてもそこそこの勾配があってこんなに長い坂だったとは、下ってみて初めて気が付いた。スタート直後はここを集団が30km/hを超えるスピードでがんがん走っていて、それに無我夢中で付いて行ったのだからオーバーペースもいいところ、あっという間に潰れてしまったのは頷ける。

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 4日間眺め続けた我がマシンのコックピット。そろそろ降りる時が近付いて来た。

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 長い下りを終えて、あとはゴールまで一直線。残り10km。

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 すんなり平坦を走って終わるかと思いきや、登り基調になった。せいぜい2%の緩い勾配のはずなのに、もう殆ど体力を使い果たした身にはかなり堪える。日差しもキツく暑さにあえぐ。最後の10kmが果てしなく遠く感じる。

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 El Molarへの分岐が見えて来た!もう直ぐ、もう直ぐだ。ゴールまであと3km。

 分岐を過ぎると勾配がまたちょっときつくなった。暑さにやられてグロッキー寸前、ちょっと気を抜くと止まってしまいそうな程にへばっているがあと数分でゴール、ただ脚を回すのみ。

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 幹線道路を離れ、街への進入路に入って遂にTorrelagunaの街に戻って来た。あと1km。

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 見覚えの街並みに安堵しつつも、あと数分でこの旅も終わってしまう!という強い名残惜しさとあと数分でこの苦行から解放される!という強い思いが交錯するカオスな精神状態の中、街の中を抜けていく。

 ゴール!!遂に4日前に出発した出発したスタート地点に戻って来た。終わった。終わってしまった。

 その場に居合わせた、先に完走を果たしたであろう男性とガッチリと握手を交わす。このイベント中に初めてあった人なのに同じ修羅場を耐え切った同朋意識を強く感じる。この感動を分かち合える世界規模のランドヌール達の一員にやっとなれたような気がしてとても嬉しい。

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 バイクを停めてコントロールに向かう。

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 スタート時に送り出してくれた女性スタッフの出迎えを受ける。名前を憶えていてくれたのが嬉しい。

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 ゴールタイムは8/23の11:35、認定完走時間は多分87時間20分ではないか。

 女性スタッフからねぎらいの言葉を掛けられつつコーラと食事のセットを受け取り、受付の直ぐ後ろのテーブル席にへたり込む。

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 終わった。きつかった。ただそれだけ。コーラを飲みつつしばし茫然。52年生きてきてこんなに旨いコーラは未だかつて飲んだことがない。

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 食事セットを開けてみると凄いボリューム。でも今は全く食べられそうにないので飲み物以外はテイクアウト、返却されたドロップバッグに詰め込む。

 20分程休憩し、席を立つ。スタッフの皆さんに別れを告げてコントロールを出る。何となく名残惜しくてもう少しゴールの雰囲気に浸っていたかったが、早くホテルに帰ってウェアを脱いで楽になりたい気持ちが強い。まだ気持ち的な高揚状態にあるうちに身体を動かさないとEl Molarまでの15kmが走れなくなってしまう。ハードボイルドな旅の終わりはあっけない程に余韻が消えていく。

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 バイクに跨ってみたものの、ここから自走で山を越えてホテルまで帰れる気が全くしない。とてもあの長いヒルクライムをこなせそうにないが、走る以外に帰る方法はないのでもう一度気合を入れて走り始める。さらばTorrelaguna。もうここに来ることはないだろう。そう考えるとちょっと寂しい。

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 Torrelagunaの街を出てEl Molarへの道に入る。

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 坂が見えて来た。これが本当に最後のヒルクライム、覚悟を決めて登り始める。

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 もう全然脚が回らない。暑い。背中のドロップバッグが重い。よろよろと登って行くだけ。でも悲壮感はない。ここまであの過酷な1240kmを完走して、脚を止めなければ必ずゴールに辿り着くことは良く分かっている。あと10km、どんなに遅くても1時間あればゴールしているはずだ。脚を止めなければ時間が解決してくれる。

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 坂を登りながら後ろを振り返る。この風景も本当にこれが見納め。この広大な荒野と酷な日差しを忘れることはないだろう。

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 4kmのヒルクライムを何とかしのいでEl Molarの街に戻って来た。

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 街中の最後の登り。短いけどきつい登りが立ちはだかる。もう本当に脚が終わっている。回らない、回せない。止まりそうだ。最後の一滴を絞り出すようにペダルを踏み、ギリギリで登り切った。

 もう空っぽ、もう走れない。全力を使い切って最後の下りを惰性で下ってホテルに戻って来た。

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 13時過ぎ、ホテル着。ロビーで力の入らない指に苦労しつつバイク装備を外し、バイクをストレージルームに入れてもらい、流石に階段で歩いて登れそうにないのでエレベーターで部屋の階まで上がる。

 部屋に入ってウェアを脱ぎ捨て解放感に浸る間もなく着替えてそのまま近くのスーパーにコーラを買いに行く。スーパーから戻って冷たいシャワーを浴びてやっとストレス120%フリーの解放感に浸る。クーラーの効いた部屋で全裸でコーラを飲むことが許されるのは今だけだな。4日前にホテルを発つ時、4日後にここに戻って来る時は全てが終わっているはずと言葉では思っていたけれど、それが現実のものとなって今この時間に自分が存在していること自体が凄いことだと実感する。

 ホテルに戻ってあれこれ手を動かしているうちに気が付いたのだが、右手小指の感覚が完全になくなっている。今日は両手共いまいち指に力が入らなくてシフトチェンジの巻き上げができなくて往生した。今までにここまで酷いことになったことはなかった。結構悪路を走ったし、特に今日のスタートの20km近いボロボロの道を走ったのは相当のダメージになっているのは間違いない。これは回復するのに相当時間がかかりそうだ。

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 コーラを飲んで人心地付いたら急に空腹感を憶えた。ゴールの時にもらった食事セットが凄い量なので全部食べ切れるかどうか分からないがもそもそと食べ始める。パスタもハムもとても美味しい。食べながらツイートで備忘録的にMGMの振り返りを思いつくまま呟きつつ、走り終えてからのカオスな精神状態から徐々に落ち着きを取り戻してきた。

 完走できたから言えるが、スペインでしし唐をつまみにビールを飲む会の前座イベントが終わった。これからがメインイベント。但し果たしで今夕起きられるかどうか。

 昼御飯を大方食べ終えたら目が回り始めた。頭がふらふらして真っ直ぐ立っていられない。そのままベッドに倒れ込んだ。

 3時間程気を失っていて、目が覚めた。時計を見ると18時過ぎ。全身バッキバキでベッドから起き上がれない。1回目のPBP完走直後に似ている。部屋の中が暑くてエアコンのスイッチを入れたいのだが起き上がるのに一苦労。やっと起き上がってエアコンのスイッチを入れるが、自分の腕やら脚やらの日焼けの発熱が酷くて暑い。クーラーの効果なし。ゴール後、水分を3L位摂っているのに全然トイレに行く気配なし。まだ喉が渇くのだが水を飲みに行くのが億劫。

 とりあえずベッドの上でパソコンに向かってツイッターで応援メッセージをくれた人達への返事を過去に遡って書き始める。それにしても両手の薬指・小指の感覚がおかしいとキーボードのミスタイプを連発してストレスフル。薬指や小指で打つわけじゃないのに連動しているのが良く分かる。

 1時間位立ってようやく立って歩けそうな感じになったので、せっかくこの時間に目覚めることができたし、身体ガタガタだけどもしかしたら明日の日の目を見ずに死んでいるかも知れないので、これは打ち上げの練習に行かねばなるまい。そそくさと身支度をして部屋を出た。取り敢えずホテル近くのスーパーの前に会ったオープンカフェのようなところに行ってみよう。

 店について取り敢えず着席。まずはビールを注文。

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 8/23の20時、独り打ち上げ開始。只々旨いの一言。このビールの一口目の旨さを体感するためだけに金と時間と体力と気力を使ってスペインくんだりまで来たなんて、人に言わせれば馬鹿馬鹿しい話かも知れないし自分でもそう思うところもあるが、それでもこの一杯を飲む瞬間は無上の体験だ。苦労をした甲斐はある。

 メニューを貰って目当てのピミエントス・パドロン(しし唐の素揚げ)を探すが無さそう。店員さんに聞いてみるが無いといわれてがっかり。メニューが全く読めず皆目見当がつかないが、とりあえずピミエントスと名の付く料理が幾つかあったのでえいやで選んで注文してみた。

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 出て来たのがこれ。最初見た時は何だかさっぱりわからなかったが、食べてみるとびっくりする程旨い!赤ピーマンをオリーブオイルとニンニクでちょっと火を通した様な食べ物だ。ビールにぴったり。

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 次に頼んだのがこれ。揚げ物系の料理群からえいやで選んだら、小さなイカのゲソフライが大皿一杯に出て来た。シンプルな塩味でこれまた旨い。闇鍋的注文がどれも美味しくて大満足。

 量が多くて2皿で御腹一杯になりそうだったので残念ながらつまみはここまで。ビールを御替わりしつつのんびり食べる。

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 くたびれた全身にビールの酔いが回り痺れていく感じがこの上なく心地良い。ここ数か月、スペイン行きの心理的重圧がずっとのしかかっていたが今それがなくなって、文字通り肩の荷が下りた感じ。ブルベを無事に完走した時の解放感の中で飲むビールの酔いはこの上なく気持ちが良いことを改めて実感する。これがあるからブルベはやめられないと言っても過言ではない。

 完走できて本当に良かった。生きて帰って来れて良かった。

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 1時間半程の独り打ち上げを楽しんでホテルに戻る。

 部屋に戻ってPCでツイッターを眺める。「明日の日の目を見ずに死ぬ」っていうのはあながち冗談じゃない。宿泊1日目のCistiernaの仮眠所でマットに横になった途端に全身のあちこちが攣り始めて寝るどころではなかった。心臓は筋肉の塊、心臓が攣ったら死ぬ。塩が絶対的に足りずにああいうことになったのだと思うが、取り敢えず今日はしっかり塩分は摂ったし水分もたくさん摂ったので今晩死ぬことはないのではと思われる。

 ちょっと休憩したらもうちょっと飲みたくなってまた出かけようかと思ってはみたものの、同時に強烈な睡魔が押し寄せてきてそのまま夢の中へ退場となった。就寝時刻は22時半頃と思われる。