8/22(木)、30分程の食事休憩を終えてホールの外に出た。
太陽は高くなり日差しが徐々に強くなってきた。まだ気温はそれ程高くはないが、苦手な暑い時間帯にかからないうちにゴールしたいところ。
参加者は皆、割とのんびりムード。1分1秒を争って焦って動いている姿は見られない。ここまで来てしまうともうゴールは目の前という感覚なのだろう。
第15ステージはいよいよゴールのランブイエまでの最終区間となる。区間距離も45kmと短く、ウイニングランを楽しむには丁度良い距離だ。しかし油断は禁物、最後まで気を抜かずに確実に無事故でトラブル無しでゴールしなければならない。今一度気を引き締めて最後のステージに臨む。
9:20にリスタート。出発時間基準でほぼオンタイム。
スタッフさんの見送りを受けつつPCを出ていく。
ドルーの市街地に入って行く。街中は登り基調。
ドルー駅を通過。結構立派な駅舎。
まだ朝は早いのか人通りは少ない。
走行中は殆ど目にすることはなかった高層集合住宅。都会が近い証拠か。建物の壁にはこんな大きな絵が描かれている。
前回ここを通過した時は天気が悪かったせいか街中の記憶が殆ど無いのだが、改めて今回ドルーの街を眺めてみると、かなり大きくて近代的な街並みという印象。
1178.6km、坂を登りつつドルーの街を出る。
小さな丘を越えて一気に下って郊外に出て行く。
1180.5km、この先を左折、幹線道路から離れる。
1181.5km、メジエール=アン=ドルエの街に入った。
森と川のある非常に美しい街だ。今まで見てきた街とは趣がかなり異なる。
人影も少なく落ち着いた感じがとても良い雰囲気。何となく住んでみたい様な気になる街だ。
1184km、マルソースーの街を出たところで交差点があり、皆左折していく。あれ?私のナビだと直進なのに。と思ったら、そう言えばスタート前日に最終ステージのルートが工事通行止めのために直前に変更になったことを聞き慌ててルートデータを作り直したことを思い出した。どうやらここがその分岐点らしい。
何人かはここで立ち止まるが、半数はそのまま左折して行ってしまう。恐らくルート変更になっていることを知らない人がたくさんいる様だ。
こういうところには必ずオフィシャルの矢印の案内板があるはずだが見当たらない。恐らく誰かが外して持って行ってしまったのだろう。肝心なところに案内板が無いのは非常に困る。走行中に案内板を外して持って帰ろうとしている人を何人も見かけたし、そう言えば、まだ往路なのにルディアックの手前で案内板を外している日本人参加者を見かけた。まだ、イベント開催中で走っている人もたくさんいるのに案内板を持って行ってしまうというのは頂けない。実際にこういう困ったことが発生してしまっている。
私も立ち止まってどちらに進むか迷っていたら、インド人らしい参加者が「ここは左折が正しいんだよ」と自分のナビを見せてくれて説明してくれた。そんな状況で立ち止まっていた人達もほぼ全員が左折して行こうとしたのだが、私は意を決して自分が入れ直したナビのデータを信じて一人直進することにした。
真っ直ぐな平坦路には辛うじて前方に1人走っているのが見えるだけ。果たしてこの選択は正しかったのか。いやでもまあ取り敢えずナビのデータ通りに走ればランブイエには行けるだろう。
ひとけのない道を走るのもそれはそれで楽しい。こういうハプニングも旅の面白味の一つだ。
最終ステージは疲労感も多少あるが脚はそこそこ回るし、気分も上々なのでコンディションはまずまず良い。尻は痛くそれを庇って体重が足裏と掌に乗るようになって来て今は足裏と掌も痛い。でも1000km越えのブルベだといつものことだし、それを込みで考えても最終日までに体調的に大崩れすることなく持って来れたのは上出来だと思う。
1186.5km、メラングルの街に入った。矢印の案内板があった!やはりこのルートで正しかった。
ここにも案内板がちゃんと貼ってあった。多数の人が間違っている中でオフシャルの設定通りの正規のルートを走っているということは非常に精神衛生上宜しい。メラングルの街中には他の参加者の姿はない。静かな街中を通り過ぎていく。
街を抜け、広大な農地の中の一本道を淡々と進む。車通りもなく信号もない。自転車走行の障壁となるものが見当たらないサイクリングに最適な道が延々と続く。
時折遭遇する数少ない参加者。我々は正しい道を進む模範的なランドヌールなのだ。自信と誇りを持って走ろうではないか。
広い空には飛行機雲が幾重にも交差している。明後日にはそのうちの1本の軌跡となって日本に帰ることになる。もう既に名残惜しい。
1191km、プロエの街に入った。
小さくて静かな街中で、何と日本の国旗と日本語の応援プラカードがあってびっくりした!ありがとう!
1194km、小さな集落の中を右折。ちゃんと矢印の看板もある。
街や集落を抜けるとひたすらにフラットな一本道が続く。過去2回の最終ステージは確かにこういう広い農地の中の一本道を走ったがこんなに長い距離ではなかった。ドルーを出てからルートの半分いかないうちに終わってしまった印象があるが、今回は明らかに長い。私的にはこういう道は歓迎なのでルートとしては今回の方が良いと思う。
それにしても空の飛行機雲は凄いなあ。常に飛行機が飛んでいて新しい雲が伸びていく感じ。空港が近いということなんだな。
最終ステージはこんなにもフラットで開放感があってひとけのないサイクリングの天国の様な道が続くとは思わなかった。長い時間走り続けられるので、スタートしてからここまでの振り返りをゆっくりとすることができる。そんな時間はまるで映画のエンドロールの様だ。自らが主演した上質の長編冒険活劇映画を観終わって、その余韻に浸る様にエンドロールが流れていく、そんな至福の時間がゆったりと過ぎていく。何と贅沢なことか。
このエンドロールに相応しい曲を頭の中に記憶されたライブラリの中からチョイスして頭の中で再生しながら探している。多分その曲が今回のこの風景とリンクして、この後の人生でその曲を聴く時にこの風景のことを思い出す様になるだろう。今頭の中で流れているのはPat Metheny GroupのFirst Circle。
1195.5km、ファヴロルの街に入った。
街中をクランク状に進む。
今まではフラットな平原だったが、少しずつ森が見えてくるようになってきた。徐々に風景が変化している。
1197.4km、Y字路を左方向に進む。
1198km、ラ=ガティンヌの街に入る。この交差点が県境で向こう側がイブリーヌ県、且つイル・ド・フランスに入る。いよいよフランスの中心圏内に戻って来た。
坂をのぼりながらラ=ガティンヌの街を出る。
遂に1200kmを越えた。後は付加的距離を残すのみ。ゴールまで20kmを切った。あと1時間足らずでこの旅も終わる。
森の中のアップダウンが出てきた。どうやらフラット平原地帯は終わった様だ。
と思ったら再びフラットな道が出てきた。
距離的にもそろそろこの風景は見納めなのではないかと思われる。良く見ておこう。
1205.4km、ベシュローの街中を左折。
街中を緩いアップダウンが続く。少し前から私の近傍をずっと並走し続けていた初老のサイクリストがここで止まって一声かけてくれた。この街の人なのだろうか。
空はだいぶ狭くなったけれど飛行機雲は相変わらず幾筋も作られ続けている。
1211km、ポワニ=ラ=フォレの街中の登りで前方にAJベストを発見。近寄ってみるとヨシダさんだった。
ヨシダさんは終盤でシャーマーズ・ネックになってしまって首が上がらないとのこと。でもとても嬉しそう。そりゃそうだよね、もう10kmも走らずにゴールだからね。
残り5kmを切って、森の中のアップダウンに差し掛かると自転車の大集団と車が列をなしている。
大集団の速度がちょっと遅かったのでまとめてかわそうと踏み込んで一気に加速して抜き去って、1214km地点の往路との合流点の交差点で信号停止して、さてリスタートと踏み込んだらフロントチェーンリングのチェーンが外れてしまった。チェーンを掛け直していたらさっき抜いた集団に再び抜かれてしまった。最後の最後でみっともない姿を晒してしまった。調子に乗って余計なことをするものではないな。反省。
ランブイエの街までの直線は大渋滞。どうやらPBPのゴールの自転車達と渾然一体となっている様だ。もうここまで来たら慌てる必要はない。車の流れに合わせてゆっくりと進む。
1217km、ランブイエの街の入口に差し掛かった。もうゴールは目前。石畳にちょっとビビる。
本当にあと10分足らずでこの旅が終わってしまう。安堵感と名残惜しさ、まだもう少しという気持ちと早く楽になりたいという気持ち、とても晴れやかだけれど様々な感情が入り混じった複雑な心境を抱えつつどんどん終わりが近付いてくる。この最後の数分間のために何か月も前から準備して様々なハードルを越えてフランスまでやって来て90時間近く走り続けて来た。この僅かな時間を存分に楽しみたい。
参加者を含む関係者が多数往来する最後の直線を縫う様に走り抜け、多くの観客やスタッフさんが並んで拍手や声援で祝福してくれる中、ゴールのアーチをくぐった。3回目の完走だから感慨も程々ではないかと思っていたけれど、やはりこの瞬間は何度経験しても初心に返る感じで一気に感情が高まってつい雄叫びを上げてしまう程に盛り上がった。
無事に時間内完走を果たした。やったよ。まだとっちらかって落ち着かないがとにかくバイクを停めて最後のコントロールに行こうとしていたら、ほぼ同じタイミングでゴールしたみいさんに遭遇、御互いに健闘を称えて喜び合いつつ一緒にコントロールに向かう。
ブルベ仲間のみいさんは、以前から股関節に重篤な障害を抱えていて、去年の春頃に意を決して人工股関節置換術を受けて地道にリハビリを重ね再びロードバイクに乗れるようになり、遂に念願のPBPを走るところまで来た。そして見事に時間内完走を果たすその瞬間に立ち会うことができたのは、ただの傍観者でしかない身ではあるがとても嬉しい出来事。今回のPBPが更に思い出深いものになった。
さて今度は私の番。
みいさんに撮ってもらった写真。妙齢の女性にブルベカードにサインをしてもらい完走メダルを首にかけてもらっておまけにハグまでしてもらった。まるでツール・ド・フランスの表彰台にいるみたいだ。
ゴールタイムは8/22の11:26、完走時間は86時間26分。やった、無事に時間内完走できた。走行中はそんなに意識していなかったけれど、終わってみてそこはかとない”完走して当然”なプレッシャーから解放されたことを自覚した。
3度目の挑戦と夢の旅路が今、終わった。