2012BRM616埼玉400

 土曜日の400kmブルベから無事帰還して丸一日が経過したが、身体のあちこちにまだダメージが残っている。特に腰の疲労感と両太腿の筋肉痛が酷い。両太腿の筋肉痛は普段の痛みと感覚が違うので、どうやらこれはハンガーノックの後遺症の様だ。ハンガーノックになると筋肉を破壊しながら走り続けることになるとよく言われているが当にそんな感じだ。一方でブルベ中に発生した右膝痛は殆んど消えた。どうやら炎症までに悪化せずに済んだようだ。とりあえず膝の具合が問題なさそうなので自転車で通勤。疲労感で二足歩行が億劫なのに自転車だと普通に走れてしまうのは、普通の生活ができない身体に変質しているのだろうか。
 そんなわけでBRM616埼玉400のレポートである。

 今年最初の400kmとなるBRM616埼玉400、コースは入間から前橋を通過しみなかみから坤六峠と金精峠を越えて中禅寺湖畔を通っていろは坂を下り再び入間に戻ってくるルート。標高1500m級の峠を前半200km過ぎまでにこなしてしまえば後は下り基調で戻って来れるという精神的には優しいコースだ。



 しかしながら事前の予報ではまたしても雨。過去4回の400kmブルベは全て雨だったので雨天率は今年も100%継続中、走行中に仮眠を取らない400kmが最も難しいと言われているが個人的には雨の御蔭で更に厳しいものになっている。

 当日は朝4時起床、ここのところの早起き習慣で全く苦にならない。自宅を出る時点ではまだ雨は降っていない。5時過ぎに入間放水橋下に到着、スタート&ゴール地点が自宅から近いと本当に楽だ。受付を済ませブリーフィングの最中にぽつぽつと降り出した。やはり予報通りか。
 車検を済ませ定刻6:00前にスタート。今年も雨の苦行が始まった。とりあえず雨装備は一通り持ってきたがまだ小雨程度なので半袖ジャージとレーパンのままで走り続ける。気温は15℃超かと思われるがサイクリングにはちょうど良い。体調もまずまずで悪天候ながら気分良く走る。と突然、後輪の泥除けを付け忘れたことに気付いて凹む。尻が濡れると皮がふやけてレーパンのパッドと擦れてダメージを食らうことになるのでナーバスになる。

 越生を抜けた辺りから徐々に雨脚が強くなってきたのでとりあえずクリアバイザー付のレインキャップを被る。更に雨脚が強くなり土砂降り近くなったので秩父鉄道小前田駅の前でレインパンツとレインコート、シューズカバーを付け完全装備で走る。過去の経験からか、一旦濡れてしまえば雨天走行はそれ程苦にならない、というより今日は妙に楽しい。自然と戯れながら走っているという充実感がある。

 今回設定されたチェックポイントはたったの3箇所、最初の道の駅の通過チェックまでは133kmもあり、その次のPC1までは266kmもある。区間距離130kmをノンストップで走るのはリスクが大き過ぎるので事前に独自補給ポイントを前半中盤でそれぞれ1箇所ずつ設定しておいた。まずは85km地点のコンビニを目指す。

 予定通り85km地点の前橋市内のコンビニに到着、時間は9:40。スタート前に何も食べていなかったので、パンを3個とコーヒー牛乳で1000kCal程を補給する。雨脚が弱まり気温も上がってきたのでここで雨具を脱いで再スタート。
 前橋市街地を抜け、少しずつ上りながらみなかみを目指す。しばらく走っていると、最近いろんな雑誌に登場しているファストブルベライダーのK澤さんにブチ抜かれた。彼は7時スタートなので1時間の差をたったの3時間で埋められしまった。次元が違い過ぎる。

 チェーンのヒスノイズが酷い。さっきまでの雨天走行でオイルがすっかり流れ落ちてしまった。ペダリングも重く摩擦抵抗が増しているのは明らかだ。このまま走り続けると相当なロスになるのでどこかでチェーンオイルを調達しなければならない。程なく沼田市の市街地に入るがチェーンオイルを売っていそうな店はなく仕方なく通過。しばらく走ると前方にカインズホームの看板が見えたのですかさず滑り込み、無事にチェーンオイルをゲット、大き目のスプレー缶しかなく背中のポケットの中でかさばるが、この後も何度か使うことになるし背に腹は変えられない。滑らかに回りだしたチェーンに気分良く走り始めた。
 程なくして133km地点の通過チェックの道の駅に到着、時間は12:20。ブルベカードに観光スタンプを押し、濡れた靴下を絞っていたら近くにいた女性ライダーにタオルを差し出された。どうせこの後も直ぐに濡れ汚れるしタオルは遠慮させて頂いたが、聞けばこのブルベをDNSしたものの応援に着たとのこと、世の中にはこういう素敵な女性がいるものだ。

 いよいよこれから最初の超級山岳の坤六峠にアタックするが、次の独自補給ポイントまでは50kmちょっとなので大丈夫だろうと道の駅では特に何も補給せずにスタートした(後にこの判断ミスが大きな災いをもたらすこととなる)。
 みなかみ温泉郷を抜け徐々に勾配が上がっていく。地図読みでは距離は20km超と長いが急勾配はないので淡々とこなせばよい。脚は回っているし無難に越えられるだろう。登り始めて1時間近く経過したあたりから身体の変調に気付いた。どうも調子がおかしい、力が入らない・・・、この感じはもしや・・・そう、ハンガーノックである。最初の補給ポイントで食べたパンで腹が張っている感じすらあったので充分行けると思っていたが、まさかこの時点でハンガーノックをやらかすとは。思い返せばここに至るまで幾つか判断ミスがあった。まずはボトルの中身、普段のブルベならスポーツドリンクにグリコCCDかVAAMを混ぜたスペシャルドリンクを詰めて来るのだが、今日に限ってただの水を入れてきてしまった。次にウェア、暑いと思ってレインウェアを脱いで走ったが、山岳に入って気温が下がっていることに気付かず余計に体力を消耗してしまった。そしてトドメはさっきの道の駅で何も補給を取らなかったことだ。
 慌ててポケットに入っていたパワーバーを食べたが直ぐには効いてこない。見積もりが甘かったと後悔しても後も祭り、ガス欠の様に急激に走れなくなって這う様にしてペダルを漕ぐ。ここに来て右膝も痛みが出てきて、ダブルパンチを食った格好だ。もう少しで山頂だろうと勝手に思い込んで何とか持ち堪え様とあがいている最中に、後ろからサイスタ友達のNARUさんが軽快に登って来て抜きざま「ピークまであと8km」の一言を聞いた時、頭が真っ白になり目の前が真っ暗になった。今の感じではどうやっても8kmなんて無理だ。思わず自転車を止め道端にへたり込みそうになったが、何とか踏み止まり手持ちの補給食全部(と言ってもメイタンCC2本だけだが)を食べて朦朧としながら漕ぎ続けた。
 前方に工事現場の片側通行用信号が見えた。これならば脚付きも不可抗力である。やっとの思いで信号に辿り着き赤信号で止まった。この30秒の休憩に救われた。補給食が吸収され始め徐々に力が入り始めた。この後も3,4箇所の工事現場があってその度に赤信号に引っかかったのが非常に有り難かった(恐らく信号がなくても脚付きは免れなかっただろう)。8kmを1時間半近くかけて登り切り、やっとの思いで坤六峠山頂に到達した。時刻は15:10、普段は素通りだが記念撮影とレインジャケットを羽織る名目で休憩し坂を下り始めた。
 下り始めてようやく気温の低さに気が付いた。はっきり言って寒い。一刻も早く補給ポイントに辿り着きたい一心で必死にハンドルにしがみついた。

 何とか190km地点の補給ポイントに到達。時刻は16:00、唐揚げ弁当をコーラで流し込んだ。寒いので雨は降っていないがレインパンツとシューズカバーを身に着ける。20分程休憩をした。

 走り始めて直ぐに登坂開始、次の超級山岳金精峠である。登り始めてしばらく経っても身体が温まってこない。手足の指が何となく痺れたままだ。まだハンガーノックの余波が続いているのか、それどころか両こめかみ辺りが痛い、と思っていたらどんどん頭痛が酷くなって耐えられなくなってきた。鼻水も出始めたし、もしかしたら急に風邪を引いてしまったのか。もう何か身体ボロボロで情けないやら悲しいやら、距離的にもう少しで中間地点という所でリタイヤしてもどうやって戻ってよいやらさっぱり見当も付かず途方に暮れながら走り続けるしかない。こめかみが割れそうな程の頭痛に耐えながらよろよろと登っていく。
 暫くしてふと、風邪で熱があるなら冷やさなければと被っていたレインキャップを脱いだら徐々に頭痛が引いていって30分後には殆んど消えてしまった。漸く苦痛から開放されて意識はしっかりしたので走り続けるだけの気力は戻って来た。後はイカレかけの身体をどうやってゴールまで運んで行くか冷静にコントロールしなければならない。右膝は相変わらず痛いがこれは疲労による痛みの様なので何とか走り続けられる。しかし、更に悪化させると炎症に発展してしまうので負荷の掛け過ぎは禁物である。ただ坤六峠の時の様な悲惨な状況ではないので時間をかけてゆっくりと登って行く。雨も降っていないので助かる。20km超の登りを3時間掛けて登り遂に金精トンネルに到達した。時刻は18:40。
 これで後はひたすら下るだけだ。気分的にも一気に楽になった。記念撮影を終え、トンネルを奥を覗くと、ガスっていて出口が見通せない。まるで冥界への入口の様だが、構わず突入する。
 ダウンヒルは車通りもなく気分的にはどんどん行きたいところだが、雨は降っていないものの霧が深くなってきて思うようにスピードが上げられない。でもまあ身体も万全じゃないのでリスクを負わずに淡々と下っていく。
 程なくして中禅寺湖畔に到達、時刻は19時過ぎで薄暮の湖畔でフライを投げる釣り人がいた。人通りもなくひっそりと静まり返った湖畔を抜けいろは坂に突入、再び長い下りに入る。いろは坂は急勾配で道幅が細くカーブもきつい。路面には白線が至る所に引かれていて濡れた路面は非常に危険なのでそろりそろりと下る。下っているうちにすっかり夜になり夜間走行に突入した。

 相変わらず雨は降っていない。予報ではかなりの雨量だったはずだが結果的に外れてくれたのはありがたい。もしかしたらゴールまで降らないのではと期待する。
 日光市街地では中禅寺湖畔とは打って変わって人も車も多く渋滞に巻き込まれる。日光を抜けると再び車通りも少なくなり、下り基調で淡々と進む。

 ようやく266km地点のPC1に到達、チェックタイムは20:32。深夜走行に備えカフェイン摂取のために缶コーヒーを飲む。下界に戻ってきて気温も上がり、レインウェアを脱ごうかとも思ったが面倒なのでそのままスタートした。

 次のPC2までの区間距離は90km弱と長いが基本は下り基調なのでプレッシャーはない。郊外の幹線道路を淡々と走る。暫くすると一人のライダーが追い付いてきて後ろに付いた。久々というより今日始めてのランデブー走行となる。小一時間走って信号待ちで止まった時、ふうーっと大きなため息をついたのが聞こえたのか、後ろのライダーさんが先頭に出た。恐らく先頭を引いてくれるつもりで前に出てくれたのだろうが、私としては最後まで一人で走り切るつもりだったので、後ろに付くにはちょうどいい感じのスピードだが見送った。再び一人走行で暫く走っていたら、さっき見送ったライダーさんに追い付いた。ペースも落ちているし信号待ちからのスタートの反応を鈍い。眠いのだろうかと思い声をかけて抜いた。しばらくの間彼は後ろに付いていたがいつの間にかいなくなっていた。きっとどこかで仮眠のために止まったのだろう。
 こちらは眠気は心配ない。この分ならゴールまで仮眠の必要はなさそうだ。右膝も踏み込まなければ痛みは感じなくなった。心拍を上げないようにしてLSDペースで淡々と走る。
 23時を回った頃から小雨がぱらつき始めた。やはりゴールまでは持たなかった様だ。雨自体は大したことはないのだが路面が悪い上に水溜りで凹凸が分かりにくいので常に注意して走らなければならないのがちょっとしんどい。

 355km地点のPC2に到着、チェックタイムは0:26。何を飲もうかとショーケースを眺めていたら「モンスターエナジー」なるものを見つけて試しに飲んでみる。今年初の400なのでメダル申請のためにお金を下ろそうかと思ったら、取扱時間を過ぎていて下ろせず落胆(最近のコンビニはカードが使える所が多くあまり現金を持ち歩かなくても済むのでうっかりしていた)。

 後50kmでゴール、気合を入れ直して走り始める。
 徐々に雨脚が強くなってきた。ペダルを漕ぐ分には問題ないが、アイウェアの水滴が対向車のライトで乱反射して見え辛いのが困る。今回「メガネクリンビュー」を使ってみたのだが確かに曇らなくなったが水滴には効果はない。
 埼玉県に入って、心なしか信号待ちで止まる回数が増えた気がした。暫く走っていたら前方に橋が見え、袂に差し掛かった時「荒川」の標識が見えた。漸くここまで戻って来た。ここは大芦橋、普段荒川100kmLSD練習の時の折り返し地点である。暗いながらも見慣れた風景を見て、完走の手ごたえを感じた。
 東松山を抜け、日高方面への幹線道路を走りながら、完走の喜びに浸るよりも信号ストップの多さに辟易した。高麗駅の傍を過ぎ、上鹿山の交差点を左折して入間豊水橋までは7km、坤六峠ではどうなることかと思ったが結果的にここまで帰って来れたのは素直に嬉しい。残念ながら密かに目標としていた20時間切りには全然届かなかったが、完走の充実感はしっかりある。

 豊水橋を渡って河川敷に降りて3:04にゴール。認定完走タイムは21時間4分だった。ブルベカードを渡して完走手続きを行い(当然ながらメダル申請はできず)、楽しみにしていた味噌汁を頂く。ウマイウマイ。その場にK澤さんがいたので何時のゴールだったのか訊ねたら23時過ぎとのこと、絶句。
 オダックス埼玉のスタッフの皆さんに挨拶をして豊水橋を後にした。

 今回は完走はできたものの反省点は多い。一言で言えばちょっと舐めてかかって準備を怠ったりマージンを取らずに走ったことがハンガーノックに繋がってしまった。次回のBRM707埼玉600では確実に修正し、来る8月の北海道パラダイスウィークには万全の態勢で臨まなければいけない。