早朝5時過ぎに帰宅して惰眠を貪りブランチを取って再び気を失い、夕刻になって漸く身体を動かそうかという気になって布団から出て、車に積んだままだったバイクを降ろし汚れ物を洗濯機に入れて漸くブルベの後始末が完了した。
先週の今頃は400kmブルベ明けにもかかわらずバンドの練習に行き飲み始めていたが今日は流石にそんな気力はない。相変わらず掌は痺れっ放しで身体のあちこちで鋭い痛みを伴う疲労感がべっとりと張り付いている。昨日の極寒の雨ブルベのダメージは相当にある。この疲労は3日位は尾を引きそうだ。
そんなわけで昨日のブルベレポートを書く。
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朝5時に起床。寝覚めは良い。外は曇りで肌寒い。何でも4月だというのに結構強い寒波が来ているらしい。予報では今日の走行ルート上では15時位から雨が降り始め翌午前中まで降り続く見込み、かなり憂鬱である。今年は既にブルベを7本走り天気的にはここまで全て雨なしだったが、どうやら今回はどうやっても逃れられそうにない。先週の400kmブルベの疲れはほぼ抜けているので2週連続400kmのプレッシャーはほぼないが、この低温&雨天はかなりナーバスだ。とりあえず雨具を上から下まで一式サドルバッグに突っ込んだ。
道すがらの車の中でボトルを忘れたことに気付いて凹む。昨夜に、きっと忘れるから自転車に付けておいた方が良いと思っていたのにその一手間を惜しんで、やっぱり忘れてしまった。莫迦だ。今日は幸い低温だからまだ何とかなりそうだが、これが夏なら大問題である。
7時半前に先週と同じスタート場所の川口は神根運動場前駐車場に到着。先週に比べると人はかなり少ない。ぱっと見1/3といったところ。前日までツイッターを眺めていたらこの悪天候を読んでDNSを決めた人が結構いた。
こーせいさん夫妻に御会いした。今日は奥様は初400km参加とのこと。友達の見送りに来ていたigaigaさんに久し振りに御会いする。
ブリーフィング風景。4月のブルベとは思えない冬装備の人ばかり。
今日のコースは川口から日光を経由して大田原市で折り返し、ビーフラインを通って道祖神峠を越えて再び川口に戻って来るというルート。サブタイトルは「アタック日光&ビーフ」だ。中級山岳コースだが後半深夜走行でのビーフラインのアップダウンはかなり精神的に堪える。2年前にBRM528埼玉400で同じコースを走ったがその時も雨と低温に苦しめられかなり辛かったことを憶えている。その時の完走タイムは21時間12分だったので、今日の目標は21時間切りに設定する。
往路
復路
定刻8:00丁度にスタート。ゆるゆると走り始める。先週もそうだったがのっけからすっ飛んで行く人が多い。ついついペースを乱されがちだが自重してマイペースを維持する。越谷市街でこーせいさん夫妻の集団と同じになり、会話を交わしながら野田市街を抜けていく。利根川の河川敷に出てから先行者との間隔が詰まってきたので、今日も勿論風除けなしで全行程走るためにこーせいさん夫妻に別れを告げて集団を抜け出た。
風はさして気にならずに順調に走る。スタートからPC1までが今日最も長い区間距離107km、ほぼ平坦なのでいつもの荒川100km練習と同じ感覚で走る。途中数名の小集団になったが、先頭を走る時はそのままで、誰かが抜いた時には後ろに付かずに間を空けて走る。それを繰り返していくうちに自然と集団はばらけていく。先頭交代を期待しているライダーさんがいたとしたら申し訳ないと思うのだが、風除けを使わずに完走するというのはパーソナルレギュレーションなので許されたし。
特に見るべきもののない風景の中で目に留まった看板。
気温は低いがそこそこ汗を掻いたせいか喉が渇いてきた。やはりボトルを忘れたのは拙かった。これで脚を攣ったら目も当てられない。何とかPC1まで我慢だ。
100kmを3時間50分、市街地の信号待ちを考えれば序盤はまずまずのペースだ。
107km地点のPC1に到着、チェックタイムは12:10。
喉はカラカラ、ポカリスエット900mlをがぶ飲みする。
今日はダウンチューブに取り付けるタイプのフロント用の泥除けを付けてみた。果たしてどの程度の効果が得られるか。
それとSUEWのサドルバッグを今日初めて実戦投入。懸念していたバッグ前部が両内腿に擦れて当たるということはほぼなく安心した。雨具一式を入れてあるが収納力は申し分ない。ダンシングしてもバッグが振られることもなく固定力も十分だ。ひとまず合格点といったところ。
ここでシクロツーリスト編集部の取材を受ける。過去に2度写真を載せてもらったことを告げたら流石に3回目の写真撮影はなかったが、400kmブルベを走るコツなどを聞かせてくれと言うことだったの私なりの考えを少しばかり話した。
PC1を出発して少し走った所で雨がぱらついてきた。早くも来たか、と身構えたが直ぐに止んだ。
徐々に山間部に入っていく。新緑の木立も曇天では色褪せて見える。
日光まで17km。最初の小さな峠に向かって登坂開始。
無難に山頂通過、日光市に入る。
日光駅前。季節外れの寒さのせいか、休日にもかかわらず人影はまばら。駅周辺の信号待ちはとにかく長い。
駅を過ぎてちょっと下った所で152km地点のPC2に到着、チェックタイムは14:25。
標高が高いこともありとにかく寒い。レインウェアを着ようかとも思ったが、ばたつきで巡航速度が落ちるのを嫌って我慢する。取り敢えずシューズカバーを付けてきたのは正解だった。次のPCまで40kmちょっとなので補給も軽めで再スタート。
次のPCまでは下り基調だが走り始めは身体が冷えていて寒い。早く身体を温めようと脚を回す。160kmを過ぎた辺りから遂に雨が降ってきた。時刻は15時過ぎ、予報通りである。そこそこの雨脚だが次のPCまで我慢しようとそのまま走り続ける。
195km地点のPC3に到着、チェックタイムは16:11。
ほぼ中間地点のここまで8時間ちょっと、ここまではまずまずのペースで来ている。
ここのコンビニのレジには「自転車レースに参加の皆さんはレシートを必ず受け取って下さい」みたいな手書きの紙が貼ってあってびっくりするやら嬉しいやら。後で聞いたら今日使った他のPCでは手書きの応援メッセージが書かれた紙おしぼりをくれたり、店内での飲食をさせてくれたりしたらしい。この様な手厚いバックアップはブルべライダーとしては嬉しい限りだ。
前から気になっていたチョコボールドリンクを試してみる。意外に旨い。含有カロリーも高くこれから補給でちょくちょく使うことにしよう。
相変わらず寒く雨脚も強くなってきたのでここで雨具一式を全て身に着ける。レインウェア上下にレインシューズカバー、レイングローブだが、レイングローブがちょっと湿った手には非常に着け辛い、と言うより全く入らない。暫く悪戦苦闘したが結局手が入らず諦めてここまで使ってきた指付きグローブをそのまま使うことにする。このグローブははっきり言って欠陥商品だ。結構な値段だったがもう2度と使わない。
そこそこの雨の中、意を決して出発する。去年の福岡1000で豪雨の中を日南のPCから出発した時のことを思い出した。ここからゴールまでの200km、雨と低温との闘いが始まった。
レインシューズカバーがクリートに引っ掛かってペダルにうまく嵌らない。これも非常に使い勝手が悪い。こいつも別のものに変えることを検討せざるを得ない。
走り始めはとにかく寒い。ペースを上げ目にしてとにかく身体を温める。一旦温まると落ち着いて走ることができる。
とある峠越えの電光掲示板、気温4℃だが雨で濡れている分体感はもっと低い。
一度の中に出て一通り濡れると余り苦痛に感じなくなる。何度も経験して慣れているせいか、それ程苦痛には感じない。それよりも寒さだ。これから日が暮れて気温がどんどん下がっていくだろうからかなりナーバスになる。
250km辺りで完全に暗くなり、ナイトラン開始。アイウェアに着いた水滴で視界が悪くなり、対向車が来た時などは乱反射で何も見えなくなる。雨との闘いの中でのもう一つの不利な条件だ。雨脚自体はそこそこで止まったまま強くなる気配はないので問題ないのだが、路面にはしっかり水が浮いているので走り辛く、路面状態が把握できないのでかなり神経を使う。とにかく安全第一でスピードを落として走る。
249km地点のPC4に到着、チェックタイムは18:52。
バイクに乗っている時はそれ程感じなかったが、バイクを降りてグローブやヘルメットを外したりするのに手がかじかんでまともに動かなくなっている。携帯で写真を撮るのも億劫だ。バイクを降りてちょっと時間が経つと強烈に寒くなってきて身体に震えがくる。一昨年の時より更に寒く感じる。まああの時は5月の終わりだったのでその時よりは1か月程季節は早いが、それでもここまでの寒さは完全に想定外だ。一緒に居合わせた他のブルべライダーさん達も皆震えている。後150kmを耐え忍ぶことができるのか。
再出発。走り始めは寒過ぎて耐えられない。思わず叫びながら走る。相変わらずクリートはシューズカバーが邪魔になってうまく嵌らない。いらいらして悪態を吐く。
ここからの50km、ビーフラインを越えて道祖神峠の山頂までが今日の最大のヤマ場である。ここを過ぎれば完走が見えてくる。
ビーフラインの入り口。道路標識が光ってよく見えないが牛の絵柄だけは何となく判別できる。
街灯も殆どない道を淡々と走る。細かいアップダウンが際限なく続く。途中、交差する幹線道路に出るのだが、交差点を越えると再びビーフラインの道路標識がある。その繰り返しが何度となく続き、このまま永遠にビーフラインを走り続けなければいけなくなるような怖れを感じる。途中で周囲に全く明りのない文字通り真っ暗な所を走る。普段ならこんな所は怖くて絶対に走ったりすることはないのだが、ブルベ中だとアドレナリンが出まくっているのか走っている。それでもやはり怖い。
手が冷たい。ハンドルを握る形に手が固まってしまって、握っているというよりは引っ掛けている感じだ。指もまともに動かない。普通の指付きグローブでは水を吸って手の熱をどんどん奪い取っていく。非常に拙い状況だ。と言ってもこの局面ではどうしようもないので我慢するしかない。
取り敢えず脚だけはまだ回せるのが救いだ。
思考停止した状態でひたすら走り続けること1時間半、漸く前方の山が開けて街の明かりがぽつぽつ見えてきた。20km超のビーフラインとの邂逅は終わろうとしている。ふっと肩の力が抜けた。
ビーフラインを終えると次は道祖神峠だ。標高差250m、登坂距離5km、平均約5%の登りで途中休むところが余りないのだが、一昨年の記憶ではそれ程苦労したという印象は残っていない。
登坂開始、えっちらおっちら登っていく。途中でふっと気を抜くと脚を着いてしまいそうな脱力感がある。脚がなくなったわけではないのだが、集中力が途切れるというか気持ち的なものの様だ。この寒さが影響しているのかも知れない。きつい坂ではない、とにかく気持ちを切らさずに登り続ける。途中雨に加えて霧が出てきて視界が一気に悪くなった。周囲に明かりは全くなく、ここが一体どこなのか一瞬わからなくなる。
30分程してあっさり山頂に到着、辿り着いてみればそれ程のハードさはなかった。
取り敢えず記念撮影と携帯を取り出そうと悪戦苦闘、指が動かず写真1枚撮るのに物凄い時間がかかってしまった。
気を取り直して下りに突入、霧で視界はほぼゼロ、スピードを殺してそろりそろりと下る。これでは下りの恩恵は全くない。指の動かない中でブレーキをかけ続けるのはかなり辛かった。
下り終わってようやく一安心、20km弱先のPCを目指す。
318km地点のPC5に到着、チェックタイムは22:39。
グローブが脱げない、ヘルメットのストラップが外せない。寒さで手が硬直してしまっている。やっとの思いで外すとコンビニでホット缶コーヒーを買い手を温める。更にここで炊事用のゴム手袋を買う。保温効果は全く期待できないがないよりはましと指切りグローブの下に着けることにした。寒くてじっとしていられない。とにかく早く補給をして身体が冷えないうちに走り出したいのだが手が動かないのでそれぞれの所作にいちいち時間がかかってしまい、結局身体が冷えてしまってからのスタートになる。
相変わらず走り始めは寒くて叫ぶ。取り敢えずもう登りはなく、下り基調で残り80kmを走ればゴールだ。ここからは寒さとの勝負である。
もう無心でひたすら脚を回し続ける。
355km地点のPC6に到着、チェックタイムは0:46。
飲みたいというより手を温めたくてホット缶コーヒーを買う。シューズの中も濡れて爪先の感覚がない。とにもかくにも後50km走ればこの苦行から解放される。それだけを拠り所に再び走り出す。
ここからルートは何度も走っているのでゴールが近いことが感じられて気が楽だ。集中力を切らさないように気合を入れて走る。
寒さで両膝がギシギシ言っている。そのうち右膝が徐々に痛みに変わってきたので、ダメージを最小限にするため更にペースを落とす。
利根川の芽吹大橋を渡ると帰ってきたという気持ちになる。雨は相変わらずしとしとと振っているが、心なしか気温がちょっと上がった気がして寒さが緩んだ様に感じる。
深夜にもかかわらず野田市街からゴールまではちょくちょく信号に引っ掛かりその度に止まるので身体が冷えて再び寒さが強く感じられるようになる。
ようやくゴール前の最後の直線に入ると、前方にライトを振って誘導してくれるスタッフさんの姿が見えてほっとした。
ゴール後の認定手続き、手がかじかんでブルベカードやレシートが取り出せない。やっとの思いでクリアホルダーから取り出してスタッフさんに手渡す。
3:17ゴール、認定完走タイムは19時間17分だった。
手続きが無事完了し、温かい味噌汁を頂く。冷え切った身体に沁み渡る無上の旨さだ。御菓子を頂こうとするか煎餅やらの袋を破くことができない。指が全く動かず力が入らない。結局開けられずにテイクアウトすることに。
ゴールして人心地着いたら再び寒さがぶり返して身体中が震えだしたので、スタッフさんに挨拶をして停めてある車に戻った。
ここからが大変だった。まず濡れた服を脱ごうとするのが指が全く言うことを聞かず、ファスナーやらベルクロテープやらを全く外せない。悪戦苦闘して服を着替え、バイクはとてもルーフキャリアに乗せられないのでリアシートを倒して車内に何とか積み込んだ。身体の震えが全く止まらず車に乗ってシートヒーターと暖房を全開にするが震えが止まらない。車に戻ってから30分程して漸く落ち着いてきたので、帰途に着いた。
空も白み始めた5時過ぎに自宅着、車に積んだものはそのままにして倒れ込むように布団にもぐり込んだ。
それにしても今回のブルベは雨はともかく寒さにやられた。というより一歩間違えば命の危険がある状況だ。帰宅してツイッターを眺めていたら、出走者の中には低体温症にかかった人も複数いるようだ。去年の福岡1000の台風もそうだが、きちんとしたリスクコントロールが必要とされる状況を見誤らないようにしなければならない。その意味では一度は途中リタイヤでDNFを経験しておくべきではないかとも思う。
とは言いながらも悪条件の中を目標をクリアしつつ完走できたことは素直に嬉しい。これで2週連続400kmというブルベシーズン前半のヤマ場を無事に乗り切った。次は埼玉の600kmを2本を予定しているが5/11と6/1、間隔が開いているので気は楽だ。
こんなキツイブルベを走った後なのにもう次のことを考えている。これがブルベの魔力というやつか。