ヘボロ

 新しい楽器を手に入れた。ヘボロというブラジリアン・パーカッションである。

 余り聞き慣れない名前だが、ブラジル音楽には良く使われる楽器だ。ブラジル音楽のバンドに入ってから10年余りが経つが、正直なところブラジリアン・パーカッションがどういうものかということをちゃんと理解したのはここ数年のことだ。色々な音源を聴いて、曲の中で沢山のパーカッションが鳴っているがそれが何の楽器なのか良く分からなかったのだが、タンボリンやパンデイロを自分でやり始めて漸く聴き分けられるようになってきた。

 このヘボロという楽器、10インチのヘッドが張ってあって胴の長さが50cmの木製の円柱である。低音域のビートを出す楽器だ。ブラジルの低音域の楽器と言えばスルドの方がメジャーだ。(サッカーJリーグの試合中にドンドンと鳴っている楽器がスルドと言えば分かり易い)

 以前から低音域のパーカッションを一つ位持っておきたいと思ってはいたが、スルドはかなり大きいし叩くのに専用のマレットが要るし出て来る音がでかいので家でちょこっと叩くには重過ぎるので手に入れるまでには至らなかった。数年前のある日、うちのバンドでパーカッションをやっていたメンバーが練習に持ってきたのがヘボロだった。初めて見るその楽器は膝に乗せて叩けるコンパクトなサイズで割としっかりとした低音が出る。とにかく扱い易そうで家で叩いても迷惑な音量ではないので「これだ!」と思った。

 それからオークションなどで中古品が出て来るのをたまにチェックしていたのだが如何せんマイナーな楽器なので出物は全くない。そうこうするうちに数年が過ぎ、そろそろ待ちくたびれたので、取り敢えず楽器屋に現物を見に行こうかと思い立ったのがこのゴールデンウィークの初日、自転車でメーデーで代々木公園に行ったついでに西巣鴨のブラジル楽器専門店「マルメラアダ」に寄り道した。

 見に行くと言いつつ腹の中ではその場で購入して背負って帰る位の勢いだったのだが、ヘボロにはヘッドのサイズが10〜12インチのバリエーションがあって、当然ヘッドが大きい方がより低い音が出るのだが、その分本体が大きくなって扱い辛くなる。10インチにするか12インチにするかそれとも真ん中の11インチにするか決め兼ねていたまま店を訪れた。

 店長さんの説明を受けつつ実際に音を出してもらったところ、10インチでもヘッドをぎりぎりまで緩めてやれば十分な低音が出たので、迷いは消えて10インチのヘボロをその場で即決した。残念ながらケースはなかったので持ち帰りは断念、発送してもらうことにして店を後にした。

 翌日届いたので、早速叩いてみた。新しい木の匂いが爽やか、ヘッドの赤もパーソナルカラーでばっちり。イメージ通りのいい感じの音が出て何か気分がウキウキしてきた。新しい楽器を手に入れた時のこのウキウキ感は歳が幾つになってもいいもんだ。ナパと呼ばれる合成皮革のヘッドは安定した音が出せて扱い易い。10インチなので、いずれパンデイロ用の10インチの山羊皮ヘッドに張り替えることもできる。
 座って膝の上にヘボロを横にして乗せ、左腕で胴を抱え込むように持ち、右手でヘッドを叩き左手で胴を叩くのが基本姿勢。基本のビートパターンはこんな感じ。

RO…右手ヘッドのオープントーン
RC…右手ヘッドのクローズトーン
L…左手胴打ち

RC L RO L RC L RO L

 基本的にはスルドとかのサンバの基本ビートと同じだが、これに細かいギミックを入れてバリエーションを付けていく。単純にこの8分音符だけ叩いても十分に雰囲気は出る。

 スルドは大編成のサンバ楽器隊で使われるのに対してヘボロは少人数でのコンボ(ブラジルではパゴーヂと呼ばれる)で使われる。ヘボロを叩いているうちに、早速パゴーチ(ヴォーカル、ギター、ガンザ(シェイカー)、タンボリン、パンデイロ、ヘボロ)で曲を演ってみたくなった。

 ヘボロと一緒に買ったものがもう一つ。

 タンボリン用のスティック。これもずっと欲しかったもの。今まではタンボリンをドラム用のスティックで叩いていたがちょっとパワーあり過ぎて力加減が難しかった。タンボリン用のスティックは短くて叩き易く、使い勝手の良さは流石は専用品だ。

 タンボリン、パンデイロそしてヘボロといったハンドドラムは単純で取っつき易く、だけど奥が深くて非常に楽しい。家でも手軽に練習できるのが良い。
 これから本格的なプロサイクルロードレースのシーズンが始まるが、ロードレースの中継は短くても2時間弱、長い時には6時間を超える。これを観ながら片手間にハンドドラムの練習をするのは極めて有意義で効率的な余暇の過ごし方である。