日本縦断2700km:第11ステージ/BRM505埼玉600(増毛->稚内ゴール)

 5/6、4時起床。携帯電話のアラームで起こされた。ついさっき布団に入ってうとうとしたと思ったらもう2時間半が経っていた。眠い。直ぐに動き出せない。予備で仕掛けていた腕時計のアラームが鳴り始めてようやく起き上がった。
 もたもたと準備をして4時半にホテルを出発。

 ここは食事が売りの安くはない宿だったが、素泊まりとは勿体無い。しかし今回のこのコースで仮眠ポイントはピンポイントでここしかなかった。

 のろのろと走り始める。路面はしっかり濡れているが天気はいい。気温は低いがレインジャケットを着なくても凌げるレベル。凛とした冷たい空気が目を覚ましてくれる。人気のない閑散とした増毛の街中をちょっと走れば直ぐにPC4だ。

 379km地点の増毛のPC4に到着、チェックタイムは4:58。

 クローズタイム20分前にクリア。寝坊していたらアウトだった。

 今回の唯一の海外参加者で台湾から来たLINさん。LINさんも鹿児島からここまで来た。片言の英語で会話。hungryとsleepyを連発していた。
 パンとコーヒー牛乳を補給して出発。

 今日のコースは増毛から真っ直ぐ宗谷岬へと向かう220km。

 多少のアップダウンはあるが、総標高差は1000mに満たない。トラブルが無ければ10時間後は宗谷岬にゴールしているはずだ。


 朝日が昇る。今回の走行中で迎える最後の朝だ。身体中に安堵感と清々しさが充満する。まだゴールしたわけではないが、ここまで来たという満足感は十分に味わえた。

 浜辺で釣りをする人々。そこはかとなく活気が伝わってくる。


 留萌の街を抜ける。稚内まで182km。

 追い風に乗ってオロロンラインを快走。気持ちいい!最高のサイクリングコンディション。

 小平(おびら)町のアーチ状のモニュメント。何だろう?


 風力発電地帯。なかなかの迫力。
 走りながら、2012年の北海道パラダイスウィークの時のことを思い出す。あの時はどんよりと曇った中でこの辺りを走っていたが今回は抜群の快晴、ようやく北海道らしい風情を堪能できた気がする。


 苫前の街に入った。道端で良く見かける蛍光イエローの旗が追い風に乗って景気よくはためいている。何となく沿道から声援を送られている感じで悪くない。「とままえ”だ”ベアー」って何だよ。

 今回の旅で風力発電はもうすっかり見慣れてしまった。

 羽幌町のオロロン鳥。北海道パラダイスウィーク以来の再会。

 445km地点の羽幌のPC5に到着、チェックタイムは7:52。

 ここまで来てようやく平常モードに引き戻せた感じだ。疲れはあるし左膝も痛いが気持ちは充実していて十分に走り続けられる。

 またしても豆パン。幾ら食べても飽きない。
 休憩中にリュウさん一行や北海道在住のタナカさんと会話。皆、元気一杯。
 のんびり休憩の後、出発。この先PCはなく、155km走ったら宗谷岬ゴールだ。


 再びオロロン鳥。羽幌の街に別れを告げる。

 何となく道がアップダウンな感じになって来た。左膝に負荷をかけない様にゆっくりと登る。
 登りながら前輪の空気が抜けかけているのに気付いた。スローパンクだ。遂に力尽きたか。
 坂の頂上まで登ってバイクを停め、修理開始。

 昨日買ったタイヤとチューブ。もしかしたら出番はないかも…と思っていたが、やっぱり持っていてよかった。穏やかな春の日差しを浴びながらのんびりと作業する。タイヤとチューブを交換し、きっちりと高圧まで空気を入れる。ここまでは空気圧が低かったのでスピードが出せなかったが、ここからは通常の走りができる。
 私的には物を擬人化するのは好きではないのだが、それにしてもこのフロントタイヤは使用者のぞんざいな扱いで穴が開き、不良品の濡れ衣を着せられたにもかかわらずここまで本当に良く走ってくれた。その献身的な働きを労いたい気持ちで一杯だ。

 滞りなく修理を完了しスタート。いきなり走りが軽くなった!やっぱりタイヤの空気圧は重要だ。調子良くどんどん進む。

 遠別町を抜けた後、アップダウンも落ち着いて真っ直ぐな平坦路を進む。

 パラダイスウィークの時は確かここを右折した気がする。今回は真っ直ぐ進む。

 写真だと分かり難いがまるで海亀が泳いでいる様な雲。

 天塩の街中でオダックス埼玉のスタッフカーに抜かれる。ここまで来ていたとはちょっと驚き。助手席のシロキさんは元気そうで何より。


 天塩の街を抜け、天塩バイパスをひた走る。兎に角真っ直ぐ。

 広大な北海道の風景はとても携帯のカメラでは写し切れない。

 天塩川を渡る。

 北緯45°線を跨ぐ。

 この区間は凄い向かい風でかなり脚を使わされた。

 とある休憩所でトイレ休憩。この辺りはサロベツ原野らしい。

 原野風景。やっぱり携帯カメラでは広さは伝わらない。

 ちょっと疲れを感じたのでPC外のコンビニで休憩。位置的には160km地点、時刻は12時半。

 やっぱり豆パン。レッドブルでエナジーチャージ。
 小休止の後、スタート。

 残り40km、2時間でゴールだ。

 いよいよ終わりが近づいてきて、何となくこの旅を振り返ってみる。
 鹿児島をスタートしてから11日目になるが、何日走り続けているのか感覚的には分からなくなっている。走って、食べて、寝る。ひたすらこれの繰り返し。グランツールを走る選手達もこんな感じなのだろうか。11日間で2700km、グランツールは23日間で3500kmを走るわけだから走行距離だけで比べれば、この日本縦断は十分にグランツールだ。

 ”Tour de Japon”

 そう呼んでもあながち外れではないだろう。単に日本の南端から北端まで2700kmを走ったというだけではなく、そんなグランツールの様な走り方を疑似体験できたことも、このイベントに参加した意義は十分にあった。

 稚内が近づいてきて再びアップダウンな感じになって来た。

 緩やかに上る長い長い真っ直ぐな道を淡々と走る。


 幾つかのピークを越えて、遂に稚内市に入った。


 稚内市街直前の風景。


 最後のピークを越えて、一気に稚内市街に下る。遂に稚内到達。標識には宗谷岬の文字が。

 稚内市街から宗谷岬までは27km。まだちょっと距離がある。直前で一人のブルベライダーにパスされた。最後は独りでゴールしたかったので、彼が視界から消えるまでスピードを落として走る。

 先に見える半島の突端に宗谷岬があるのだろうか。
 進路が西向きとなって強い右からの横風に変わり、途端にバイクが進まなくなった。

 半島が近づいて来た。

 後10km。進路が北向きに変わり再び強い追い風でガンガン進む。ゴール後はこの風に逆らって稚内まで戻るのかと思うとナーバスになる。

 後5km。

 宗谷岬の標識。ゴールはもう目の前。

 もう少し何かこみ上げてくるものがあるのかと思っていたが、意外に溢れ出る様な強い感情はない。昨日はリタイヤする覚悟を一瞬だけでもする様な状況に陥り、そこから持ち直してここまで来れたことにまずは安堵するという気持ちが強い。2700kmという距離を走破したという距離的なインパクトはピンと来ないが、この企画を最初から最後まで走り切ったという達成感・満足感は勿論ある。正直疲れたし、左膝も痛い。取り敢えずこれで走るのは終わる。程良い達成感とこれでもう走らなくてもいいという解放感・安堵感と、これでもうこの旅も終わるのかという一抹の寂しさも混じりつつ、ゴールまでの数分間を楽しんで走る。
 宗谷岬が見えて、御約束でガッツポーズを1回だけ決めてゴールに滑り込む。

 宗谷岬にゴール。遂に完走を果たした。

 ゴール地点にはシロキさんの姿があった。普段のブルベの時と余り変わらない調子の会話を交わしつつ、直々にゴールチェックをして頂く。ゴールタイムは15:15。この600ブルベの完走タイムは35時間15分だ。

 鹿児島を4/26の12:00にスタートして5/6の15:15に宗谷岬着、243時間15分で日本縦断2700kmを走破した。という事実はどうやら間違いない様である。正直まだピンと来ていない。そのうち時間が経てばじわじわと実感が湧いてきたりするのだろうか。

 岬のモニュメントをバックに記念写真を撮ってもらおうとするが、先客がなかなかモニュメントから動いてくれない。
 ようやく写真を撮って頂き、私も自分のカメラで写真を撮る。

 シロキさんに挨拶をしつつ、その場を離れる。近くの売店か食堂で一休みしたい所だったが、明るいうちに稚内市街に戻ってバイク発送を終えなければならず、これからの向かい風を考えれば時間的余裕は少ない。

 日本縦断企画者のシロキさんは自転車でここに来ることができずにさぞかし残念だったに違いない。いや、そこは百戦錬磨のランドヌーズのシロキさんのこと、案外もうすぱっと切り替えて次の企画を練り始めているのかも知れない。

 宗谷岬での滞在時間、僅か20分程度。逆風の中、稚内へ今来た道を戻り始める。これが物凄い向かい風で全然バイクが前に進まない。ここからの走りはおまけみたいなものなので頑張る必要はないのだが、稚内市街までは27km、2時間では戻れないかも知れない。

 えっちらおっちら戻りながら、これからゴールへ向かう何名かの完走者達にエールを送りながらスライドする。皆無事に宗谷岬に辿り着けて本当に良かった。

 この無茶苦茶な向かい風の中を戻りながら、この日本縦断の間、中盤から後半にかけて風にはとても恵まれていたと改めて思い返す。もしこれが常に向かい風だったとしたら、宗谷岬まで辿り着くのは至難の業だったに違いない。

 進行方向が東に向き、向かい風が横風気味になって少し楽になった。稚内空港に飛行機が降りていくのが見えた。発着本数が少ないのでちょっと得した気分。

 宗谷岬から2時間近くかかってヤマト運輸の稚内営業所に到着。ちゃんと荷物は届いていた。その場で輪行バッグにバイクを収納しそのまま発送手続きをする。最後の大仕事を終えて、徒歩でホテルへ向かう。歩いていると肌寒い。最北の地にいることを実感する。

 ホテルにチェックインし部屋に入ってウェアを脱いで一息ついた。明日また走り出す必要はないと思うと、文字通り肩の荷が下りた思いだ。
 まずは風呂、最終日の宿は温泉のある宿を選んでおいた。兎に角でかい風呂にのんびり入りたい。
 宿の中はゴールデンウィークの最終日とあって他の客の気配がなく静かだ。大浴場も貸し切り状態。望み通りでかい風呂に独りでのんびり浸かる。
 あー、終わった。ぬるめの御湯があちこち軋んで疲れがたまった身体中にじんわり浸みてくる。走り終えた後の温泉に入るこの解放感はちょっと他ではそう簡単には味わえない。ぼけーっと目を瞑っていると眠りそうになったので、程々にして風呂から出た。
 部屋に戻って、今日の打ち上げの場所をネットで最終チェック、事前に幾つか目星を付けた店があってホテルからのルートを確認して外に出た。

 19時を回って暗くなった街中を歩く。ホテルにチェックインした時より更に寒くて、サイクルジャケットを羽織って来て正解だった。
 南稚内駅に通ずる目抜き通りと思しき道は、ゴールデンウィーク最後の休日と言うことで大部分の店が閉まっていて閑散としている。目星を付けておいた居酒屋はことごとく閉まっていて、第5候補位の店が辛うじてやっていたので入った。

 店内には数人の客がいて、少しだけ活気があってほっとした。

 まずはビール。この一杯のためにわざわざ鹿児島から走って来た。当たり前だがやっぱり旨い!五臓六腑に沁み渡る感じが実にいい。道中我慢した甲斐があったというものだ。残念ながらサッポロクラシックの瓶ではなかったので、あの北海道パラダイスウィーク完走直後に札幌のラーメン屋で飲んだサッポロクラシック程の感動は味わえなかったが、でも、今夜の一杯目も十分に旨かった。

 突き出しのタコの煮物、刺し盛りはボリューム満点、イカの塩辛も旨い旨い!

 シシャモの唐揚げ。ちょっと変わった味付けだが熱々でウマウマ。

 カニの卵の醤油漬け。ビールが進む。

 ホッケの焼き物。身沢山でボリューム満点。

 ビールが旨くて旨くてまだまだ飲めそうだったが、流石に昨夜の睡眠不足が効いてきて眠くなって来た。もう少し食べたいものがあったのだが、残念ながらビール4本で独り打ち上げは終了、店を出た。

 ホテルに戻って布団に横になったらそのまま夢の中へ退場。恐らく22時前ではないかと思われる。