Chick Corea, Return to Forever

 一昨日の朝、目が覚めていつもの様に何の気なしにツイッターを眺めていたら衝撃的なニュースを目にして驚いた。Chick Coreaさんが亡くなられたとのこと、まさか新型コロナか?と思ったがそうではなく長年患っていた癌による闘病生活の末ということだった。最近はそれ程彼の動向を追っていなかったのだが、突然の訃報に触れてちょっとした喪失感に囚われてしばし茫然としてしまった。こうやって訃報に触れてみて初めてChick Coreaさんが私の人生に深く関わっていたことに気付く。

 

 初めて彼の存在を知ったのは多分中学生の時、その当時はまだジャズを真剣に聴いていなくてシンセサイザーという楽器に大きな興味を抱いていた頃で確か何かのシンセ関係の本で”妖精”というタイトルのアルバムが紹介されていたのを目にしたのが一番最初だったと思う。

 高校の頃にフュージョンに傾倒していた頃に断片的に彼の曲を耳にする様になっていたが、大学に入ってビッグバンドのサークルに入り本格的にジャズを聴き始めてからいよいよ彼の音楽と深く交わり始めることになった。

 そして私の音楽人生に決定的な影響を与えることとなった”Chick Corea Elektric Band”がリリースされた。当時の私的な音楽的志向はフュージョン系のシリアス・テクニカルな曲調ばかりを追いかけていて、このアルバムはその条件を完璧に満たしていた上に想像を遥かに超えるイマジネーションに満ちていて2曲目の””Rumble”を最初聴いた時のインパクトの強さは今でも鮮明に思い出される。私的にはChick Coreaはこの1枚で私の中で絶対的な存在となったのだ。

 社会人になってから組んだバンドでもメンバーの音楽志向の中にはChick Coreaの存在がしっかりとあって、選曲の中で彼の曲をしばしば取り上げた。これは30年近く前に会社のライブで”La Fiesta”をやった時の映像(私はドラムだがまるで別人)。私的には”La Fiesta”は結構気に入っていたし、バンドではやらなかったけれど”Spain”という曲を独りで打ち込みでアレンジを色々と模索しつつ少しずつ作り込んでいった。彼の作品の中にはスパニッシュ・インスパイアの曲が結構ある。

 時々思い出した様に引っ張り出して練習していた”Spain”、私的にはまだまだ全然弾きこなせていないので録ったことは一度もなかったが、彼の訃報に触れて追悼の意を込めて弾かねばならならいと思い立ち久々に引っ張り出して録った。日本の片隅の一ファンとしてのささやかな思いが彼に届いただろうか。

 改めてこの曲は私の中で彼の作品の一番の御気に入りだという思いが強くなった。

  youtubeで彼の音楽をあれこれ聴いていたらこれに行き当たった。”Spain”の御本人直々の解説・教則映像だ。うわ、これは今まで気付かなかったアイディアがたくさん見えて来て私のアレンジが更に修正されていきそうだ。しかもソロピアノというアプローチに気付いてしまった。またしても彼から大きな課題を与えられてしまった。一生かけて取り組むべき課題がまた一つ増えてしまった。

 

 ジャズと一言で言っても物凄い広がりがあって人によってイメージが全く違うのだが、彼の音楽から受けるジャズのイメージが私の感覚と物凄く一致する。私がジャズを意識して聴き始めた頃は、4ビートスウィングでベースはウォーキングしてアコースティックな楽器でスタンダードな曲をやるといういわゆるオーソドックスなジャズだったが、ビートが多様化し電気的になり色々な国の音楽と混ざったり私の中でどんどん広がりを増していったが、彼は常に先導役として様々な音楽を提示してくれたと思う。遺された作品も膨大な数だ。私的に聴いたことの無いものも沢山あるので、これから少しずつ聴きながら彼の偉業の数々に感謝しつつ彼の音楽的な魂に触れていきたい。

 

 彼の中ではまだまだやりたいことがたくさんあっただろうことは容易に想像できこの早過ぎる死は無念な部分もあっただろうが、今はただ安らかな眠りにつかれたであろうことをただ祈るのみだ。彼の作品の中には宇宙に関わるタイトルを関したものも幾つかあって思想的にもそういうものに通じていたことを伺わせる。彼の魂はきっと宇宙に還っていたのではないだろうか。

 May his soul rest in peace. Return to forever.