衆議院選挙を終えて

 衆議院選挙が終わった。結果は自公の勝利と野党連合の惨敗、そして維新の躍進という予想を大きく超える惨憺たる結果に正直落胆している。結果の分析は様々あれど、この結果を民意の一言で片付けてしまえばそれまでだが、私的には現状の社会の有様とこの民意のギャップが余りに大き過ぎて低投票率も含めたこの民意とやらがどうしても正常なものとは思えない。本当に正しい民意を形成するには投票率を上げ野党支持を増やす努力も必要だが、その一方で今の自公の支持者に翻意してもらう努力は避けて通れないかなとも思うので、自公支持者に向けて一文書いてみようかと思う。人の政治信条を変えさせるのはとても難しいことは承知しているがやってみなければ分からない。こんな場末のブログを読む人などいないかも知れないが、もし一人でも翻意する人が出てくればやった意味はある。私的にできる範囲でできることをやるだけだ。以下、本文。

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 衆議院選挙が終わり結果は周知の通り自民党・公明党の与党の大勝利となった。貴方の支持する自民党が勝ち、あるいは惨敗して悔しがる野党候補者や支持者の姿を見てさぞや気分の良いことであろう。選挙結果は貴方の望んだ結果となったが、今の社会は貴方の望んだ社会になっているのだろうか?
 今の社会を見渡してみて欲しい。
 労働者賃金はこの30年間横ばいで非正規雇用労働者が増え続け今や国民の4人に1人が住民税非課税世帯という明確な貧困世帯となっている。直近の出生率は1.34で少子化に歯止めがかからず労働人口も確実に減少、でも日本人の賃金は高いと外国人技能実習制度を悪用して海外から安い労働力をどんどん流入させてこき使っている。日本の国際競争力は30年前は1位だったのに今や34位まで転落し日本の教育水準の低下も相俟ってどんどん国際的地位が低下している。方や大企業の内部留保は過去最高を更新中だし、富裕層の資産はこのコロナ過でも増加しており、格差拡大と富の偏在はますます顕著になっている。
 ちょっと前に日米安保の集団的自衛権の解釈を拡大し米軍の求めに応じて自衛隊を中東に派遣したし、敵基地攻撃能力を有することを視野に検討を始めどう取り繕っても専守防衛の枠から逸脱している状況になっている。
 専守防衛の枠組みの撤廃も含みつつ、国民の私権制限を明確に謳う緊急事態条項を盛り込むことを目的とする憲法改正案が検討されつつある。人権で言えば夫婦別姓論議は遅々として進まずLGBTの権利保障も全く進んでおらずジェンダー平等は世界から大きく後れを取っている。
 国有地を法外に安い値段で特定の利権者に払い下げようとしたり、沖縄米軍基地の移転工事に多数の与党議員の関連企業が関わっていたり、規制緩和の名の下に有名無実なプロジェクトに膨大な税金が流れ込み特定企業に渡っていたり、コロナ禍の補償金配布事業やオリンピック関連の事業で膨大な金額の中抜きが行われてパソナや電通等の特定企業に税金が流れたり、斡旋利得の疑いが濃厚なのに不起訴となって与党幹事長になった人間がいたりといった政官業の癒着による税金の横流しが後を絶たない。そしてそういった事実を隠そうと関わった政府要人が国会その他で嘘を吐き、その辻褄合わせに公文書隠蔽・改竄が大規模で行われその過程で改竄作業を強要された職員が自死を遂げるという痛ましい事件も発生している。その上、そういう違法・脱法行為を敢えて捜査・起訴しない検察の要人が異例の出世を遂げたり、元首相の懇意のジャーナリストの性犯罪の逮捕状執行を土壇場で取り消し何の説明もしない人間が警察庁のトップになったりと、司法も相当異常なことになっている。
 日本の報道の自由度は最新の世界ランキングで71位、先進国と呼ばれる国の中では最下位レベルだ。政治報道一つとっても正しい報道がされているかどうかわからないし、直近では政権与党が架空のツイッターアカウントを使って世論操作をしようとする企業に金を払っていたという事実が判明している。
 まだまだ色々とあって実例を上げればキリがないが、こういう今の社会の有様は貴方の望んだ社会なのだろうか?もしそうならばもうここで読み止めて頂いて結構、貴方の思う通りになって良かったねと邪念なく思う。
 改めて考えてみて欲しい。貴方は自民党政治で本当に恩恵を受けているだろうか?貴方の社会的身分や報酬が十分でそれが自民党政治の結果だと思えるのならばそれは自民党を支持する極めて明確な理由だから全く異論はない。しかし、貴方の食べる物や着る物を作り、運び、売る人が低賃金に苦しみ働き手がいなくなれば貴方の元に物が届かなくなるし、病院の医師や看護師や介護士が低賃金に苦しみ働き手がいなくなれば病気や怪我で入院できなくなるし歳を取っても介護を受けられなくなる。そんなことはあり得ないと思っているかも知れないけれどコロナ過の最中で一体何が起こったのかをよく思い出してみて欲しい。一方でほんの一握りの大企業や富裕層が溜め込んだ金は社会を循環しない死に金だ。金持ちが庶民の1000倍稼いでも庶民の1000倍食べないし1000倍車や家やPCを買わないし1000倍旅行に行くわけでもない。富裕層に単なる数字の羅列でしかない社会を循環しない死に金を無闇に搔き集めさせる必要はないのではないか。労働者は同時に消費者でもある。労働者が貧しくなれば当然モノやサービスが消費されなくなって日本の企業が衰退する。日本企業は一旦賃金として労働者に金を配りそれを使わせて儲ければ良いのに現状は労働者処遇を削ることで利益を出すことに躍起になっている。今の日本社会は自分の脚を食って生き長らえるタコの様なものだ。
 貧困層が拡大すれば社会が荒廃し治安が悪くなるというのは世界の至る所に例があるし日本も例外ではなく昨今は無差別殺傷事件が散発している事実は貴方もご存じだろう。電車に乗ろうとすればホームに突き落とされたり刺されたり油をまかれて火を付けられたりするリスクが貴方自身にも降りかかってきつつある。そのリスクを背負いつつこの社会の中で暮らしていけるだろうか。
 中国、韓国、北朝鮮等の侵略リスクを理解しない奴は平和ボケだと勇ましいことを言って武力拡張を志向する人が自民党支持者に多いことは良く知っているが、日本が敵基地攻撃能力を保有し敵国を攻めるだけの武力を持てば敵も当然日本本土を攻撃する武力を増強し、日本本土が戦場になり貴方自身や貴方の家族が兵士として駆り出されたり、戦闘に巻き込まれて死傷したり家財を失ったりするリスクが増すことを本気で承知できるだろうか?そして、かつて日本は本土に核兵器を落とされ夥しい数の人が死にその挙句に戦争に負けて物心共に消耗し尽くし極貧と失意と屈辱の奈落に突き落とされたことを忘れたのだとしたらそれこそ平和ボケなのではなかろうか。
 今の社会が望んだものと違うと思う貴方、あるいは自分は自民党政治の恩恵を受けていないと思う貴方。この30年の内“悪夢の”民主党政権だったのは3年でそれ以外の27年は自民党政権だったわけで、2012年秋に民主党政権が倒れてから9年という時間が経っているわけだが、この間に自民党が貴方の望む社会に“できなかった”あるいは“しなかった”のはどうしてなのか分かるだろうか?この27年間で自民党がやってきたことが一体何だったのか是非ネットで調べてみて欲しい。
 そしてついでに貴方が野党を支持しない理由、嫌いな理由を具体的に列挙してみてもらいたい。具体的に列挙できたならそれが事実なのかどうか調べてみて欲しい。
 これらのことを私なりに述べることはできるが、私の言うことなど偏っていてどうせ信じてもらえないだろうから是非自分の主体性において調べてもらいたいと思う。ネット上には玉石混交あらゆる情報が転がっているから調べるのは少々骨が折れることではあるが、ネット上の幾つものソースから情報を拾い集めて並べて見て比較してそして全体を俯瞰したり推測したりして良く考えてみて欲しい。テレビや新聞から一方的に流される情報を鵜呑みにせずインターネット上から正しい情報を拾い集めて正しい判断ができる様な情報リテラシーを身に付けることはどこの政党を支持するかということとは別次元でこの情報化社会の中で生きて行くためには必須の能力だと思う。
 何のための政治なのか。政治とはあくまで手段であって政治力を使って何を実現するかということだと思う。日本社会の今の有様は資本主義の市場原理の“神の見えざる手”によって結果そうなったものでは決してない。この30年の間に新自由主義とか規制緩和という名目のもとで国会によって様々な法整備が行われ、政治的に作られた様々なルールによって人為的に誘導された社会なのだということをまず認識して欲しい。
 金持ちになりたいとか人より偉くなりたいとかいう願望を持つことは全然構わないと思うし、それを目指して頑張ることは良いことだと思う。でもそれができる踏み台としての社会自体がまず安定していて大多数の人間がそこそこ幸福を実感しつつ物資やインフラが滞りなく循環し機能し治安の良い社会であることが望ましいのではないだろうか。また、国として人権と自由がきちんと保障され人生の失敗のリカバリーができるセーフティーネットが用意され、そして他国とのいさかいを極力減らし安心して海外に出て行ける日本になることが望ましいということ自体に貴方も異論はないのではないかと思う。
 そういう日本にする政治をやってくれるのならば別にどこの政党でも構わないし、極端な言い方をすれば立憲民主主義だろうと社会・共産主義だろうと専制君主制だろうとどれでも構わないのではないだろうか。まず起点は貴方がどういう社会を望むのか、そして今の社会はどうなのかをまず考えることから始めて欲しいということだ。その上で何を変えなければならないのか、何が優先されるべきかを見極めてその上でそのことをきちんと政策として取り上げている政党を選ぶというプロセスを辿ってもらえないだろうかというのがこの拙文に込めた私の願いでもある。
 政治の目的は選挙ではないし選挙は人気投票ではないし単なる勝ち負けで終わりではない。選挙の先に何があるのかを見渡して欲しい、考えて欲しいというという思いを込めてこの拙文を締め括りたい。最後まで読んでくれてありがとう。