バカの連鎖(東京マラソン開催に反対する)

 明後日、東京では東京マラソンが開催される。参加者は25000人。馬鹿じゃないのか。

 首都圏は第6波の真っただ中で新規陽性者数は連日1万人を超え陽性検出率は40%弱でここ1か月程横這い状態が続いており、昨日政府は蔓延防止等重点装置の2週間延長を決定した。オミクロン株は弱毒性で重症化率は低いと言いながら死者数はあっという間に第5波時の人数を突破してしまった。東京消防庁によれば東京都の現状の救急車の数は非常時編成で300台強、それが連日100%近い稼働率で走り回っている。100%とは300台が24時間常に出動しているという状態だ。救急車が来ない、救急車に乗れても搬送先病院が見つからず入院まで何時間もかかるというのは今や日常茶飯事だ。これはコロナ感染に限った話ではなく勿論コロナ以外の通常医療も同様ということだ。政府は今年1月末に「1日当たりの検査件数を1月第二週の平均検査実績の2倍以内とせよ」と各都道府県に通知した。要するに検査数を抑えろという指示だ。これは悪意に解釈すれば見かけ上の陽性者数を減らすということになるが、実情としては医療機関が飽和状態のためにこれ以上陽性者を増やして入院者を増やせないということを表している。新型コロナウイルスは現行の感染症法の2類に該当するが、感染者は基本的に入院が前提となる。しかし現状では自主療養という言葉が独り歩きをして陽性判定されても入院できずにそのまま自宅で待機されるケースが通常となっている。政府はコロナウイルスの2類から5類への格下げはやらないと言いながら実質的には5類相当の扱いになし崩し的にしてしまっているというのが実態だ。私の勤める300人弱のオフィスでも連日感染者が出て来るようになったが、入院している人は聞いたことがなく皆自宅療養である。総じて東京は間違いなく医療逼迫の状態が継続しているということだ。

 大会では参加者全員にPCR検査を実施すると言うが、それだけの検査リソースがあるなら平常的に稼働させて市中感染の実態を把握すべきだろう。それにこの検査で陽性発覚した人達に適切な処置を施せるのか?また、開催中の感染拡大のリスクは放置なのか?そして開催中の不測の急病発生、特に救急救命が必要となる症状に対応するためにこの大会のためにどれだけの医療リソースを割くつもりなのかと考えて行けば、この状況下で万単位の人間を集めて不必要なスポーツ大会をやるということのナンセンスさが理解できないのは馬鹿としか言い様がない。

 東京マラソン開催の愚はそれだけに留まらない。”東京マラソンが開催できるのなら”という意識が伝播し人々の行動を開放的にし開催に踏み切るイベントが後を絶たない。私の周辺でもそういうイベント開催が幾つも散見されている。これでは蔓延防止等重点措置の効力を自ら消滅させていることと同義だ。そして更に医療逼迫が加速するという悪循環に完全に陥ってしまう。これはウイルス以上にタチが悪い。

 東京マラソンを走らなければ生活に窮するという人は誰一人としていない。参加者にとっては紛れもなく不要不急だ。大会主催者で中止になることで経済的窮地に追い込まれる可能性があることはある程度想像できるがその場合は東京都が救済すれば済むことだ。でも東京都はそれをやらない。要するに東京オリンピックと同じ愚を犯そうとしているのだ。小池知事は何故中止にしないのか?と考えれば大会主催関係者との癒着か25000という支持票を失うのが嫌だという以外の理由を思い付かない。

 蔓延防止等重点措置は、飲食店だけを名指して悪者扱いして抑えつけている。そこで働く人達はもう2年以上も生活の糧を断たれて経済的に厳しい状況に追い込まれたままだ。日々閉店・倒産の数が積み上がっている。そして、医療現場や保健所職員は2年経っても補強されることもなく、コロナとの闘いの最前線且つ最終防衛線となり日々忙殺され疲弊は極限状態に達している。離職者が後を絶たず、コロナ過が過ぎ去っても薄給重労働の医療職志望者は減ることは間違いないだろう。

 東京マラソンの参加者の皆さんには、この社会のあちこちにこういうシビアな状況が慢性的に発生しているということにもっと想像力を働かせて気付いて欲しい。そしてこの社会の一員であることに少しだけ責任を持って自分の行動を抑制してもらいたい。それがこのコロナ過を1日でも早く終息させ犠牲者を少なくし、結果として貴方自身が今後も暮らしていく社会がこれ以上壊れるのを防ぐことになる。

 バカは伝播する。ウイルスの感染拡大を止めるのも大事だが、バカの連鎖を止めるのも大事だ。これはこのロシアのウクライナ侵攻の中で噴出した日本の憲法9条不要論、核武装論にも当て嵌まる(これを書き始めると更に長くなるので今回は止めておく)。

 考える、想像力を働かせる、理想を持つ、理想を実現しようと行動する、それがバカを自分で食い止めて他に伝播させない秘訣だ。

 まともな大人になろう。まともな社会人になろう。それだけのことだ。