1001Miglia2024/Report 26:総括

 1001Migliaを走り終えてイタリアから帰国してから25日が経過した。ゴールした当初は両掌、腰、尻、両足裏に強いダメージを受けてかなりの痛みが出て、日本に帰っても両掌の痛みと両足裏の痛み・痺れ、特に右足裏の前半分の感覚がなくなっていたのがなかなか治らず自転車になかなか乗れなかったが約3週間でほぼ完治し自転車通勤も復活しつつ通常の生活に戻ることができた。身体的ダメージの酷さは2011年に初めてPBPを完走した時に近い感じがする。

 気持ち的には完走したという実感というか確証をまだ得られておらず素直に達成感や充足感に浸ることができていないというのが今の率直な感覚だ。それは現時点でまだ1001Migliaの主催者からの正式なリザルトの発表がされていないということが大きく影響しているものと思われる。8/22の早朝にゴールした時、確かにその場にいたスタッフからメダルと完走賞をもらったのだが完走証には完走時間は記入されておらず、

Results - 1001 Miglia | ENDU

にアップロードされていたリザルトも今は消えてしまっているし公式サイトのリザルトページにもLRMのResultsページにもまだアップロードされていないから自分が公式記録としていつスタートしていつゴールしたのか知らない状態なのだ。

 間違いなく8/16から8/22に開催された1001Migliaは終了しており私はそこに参加して完走しており既に過去の出来事になっているというのが歴史上の事実であるにもかかわらず、気持ちの中でまだ開催前の心理的プレッシャーがかかっているかのような錯覚に陥る瞬間がある。その時に自分で”1001Migliaは終わった。私は完走した”と自分で敢えて認識し直すということを何度か繰り返している。私の頭の中の1001Migliaが支配していた領域は思いの外大きくそこは未だに大部分が空洞のままで完走の実感と喜びや新たな何かで満たされ埋められるまでに至っていないということなのだろう。

 どんな形であれあの道を走り切ったのだからそれでいいじゃないかという考え方があるがそれだけでは済まない。あの道を使ったブルべという競技を私は走ったわけでその結果としてのリザルトは重要な意味を持つ。ブルべという言葉は日本語で認定という意味になるが、その意味が改めてよくわかったような気がする。

 リザルトはいつ発表されるか分からないので、それはそれとして記憶が薄れてしまわないうちに走行記録を振り返っておこう。

 当初計画では8/16の21時にスタートして8/22の6:30にゴールするという5泊6日の走行時間130時間30分の走行プランを立てた。1001Migliaの制限時間は134時間だからほぼ時間一杯使って走るという計画だ。スタート時間は最終でオフィシャルの資料にある各TPのクローズ時間はそのまま最終21時スタートのクローズと読み替えてそれをオーバーしない様に走行プランを組み立てたのが序章に掲載した表となる。実際のスタートは急遽そこから1時間半繰り上げて19:30となったため、走行プランを全て1時間半繰り上げて進行させることとなった。

 結果として自己計測でのゴールタイムは8/22の5:50で完走時間は131時間20分だった。完走時間だけを比べれば予定の130時間30分と比べて50分遅れだが内訳は大きく違う。実走時間は予定86時間に対して実績約97時間と11時間位長くなっており、当然ながらTPでの滞在時間は予定43時間に対して実績33時間30分と短くなっている。更に見ていくと仮眠ポイントでの滞在時間が1~2時間短くなっていて、簡単に言えば5回の仮眠ポイントで2時間ずつ睡眠時間を削って帳尻を合わせたという結果となった。

 当初の見込みより厳しい走りとなったのはひとえにコースが事前のイメージより厳しかったことにあるが具体的には下記の3点に集約される。

1. 山岳がきつい。
2. 路面の悪い道が多い。
3. オフィシャルのコースデータの間違いによる悪路への誘導が多い。

 まず1.については事前のルートチェックで相応に山岳が厳しいことが予測できたが、上りというより下りが悪路も含めて下り難い道が多く上りのタイムロスを取り戻すのが難しかった。LRMの中にSR600のコースがそのままの難易度で組み入れられていたと考えれば理解し易い。

 2.については全くの想定外だった。過去のPBP、LEL、MGMで相応に悪路は経験していたが、延べ距離でここまで長いとは思わなかった。TP12からゴールまでの500kmは文字通りのド平坦だったが悪路そのものと悪路によって身体的ダメージが倍加されて余計にペースが上げられず前半の山岳地帯のタイムロスを全く取り戻せなかったことは大きい。

 そして3.についても全くの想定外。オフィシャルのコースデータが発表されてそれを元にナビのデータを作成する過程で幾つもおかしな部分を見つけて修正していたにもかかわらずそれ以外にも数多くの”ルート作成者の作成ミス”によるおかしなショートカットでとんでもない悪路に誘導されてまともに走れずそこで失ったタイムは決して短くない。そして4か所のCPのうち夜間に通過した2ヶ所にはスタッフがおらず周囲を探索する余計なタイムロスが発生したことも無視できない。オフィシャルの不手際によるタイムロスは正直かなり痛かった。今回はCPが予め4か所設定されていたがこれはシークレット見合いでこれ以外の本当のシークレットは1か所もなかった。短距離の不自然なショートカットの中にシークレットは絶対に設定されないので事前にコースデータを徹底チェックして修正しておくべき。

 逆に暑さについては想定していた程ではなかった。確かに何度か暑さに苦しめられた場面はあったが、事前に日本で経験していた程の酷暑ではなかったし結果的に全行程で脚攣りが一度も発生したのは暑熱順化とこまめな塩分補給が奏功したものと思われる。

 総じて1001Migliaのコースは厳しい。過去に走った海外ブルべで比較してみるとこんな感じだ。

1001Miglia>MGM>LEL>PBP

 距離、山岳、悪路の要素が絡まってヨーロッパ4大ブルべの私的比較で難易度最上位となった。

 私的に1001Migliaの攻略法を考えるとすればやはり悪路対策というのが重要だと思う。1600kmという距離と獲得標高差17000mというのはある意味数字の通りなのでその数字に対処できるトレーニングを積む以外にはない。一方、悪路については身体的トレーニングだけでは対処できない要素が大きいのでバイクその他の装備でカバーして如何に身体的ダメージを減らすかということを考えるべきだと思う。

 今回使用したバイクはステムとシートポストにRedshiftのShockStopというサスペンション付きのものを使用した。これは国内でもずっと使用して相応の効果を得ていたのだが、1001Migliaではそれでもかなりの身体的ダメージを負ってしまった。基本的にダメージを負った場所は両掌、尻、両足裏で要するにバイクと繋がっている場所に路面からの突き上げによるダメージの蓄積が痛みに変わりそこに体重を掛けられなくなるという悪循環に陥った。即ち機材の改良で如何に路面からのダメージを減らすかということが工夫のポイントだと思う。私的に思いつくのは下記の通り。

・サドル
・バーテープ
・太いタイヤ
・サスペンション
・DHバー

 サドルとバーテープは振動吸収性の良いものを選ぶということ。太いタイヤに関しては最近徐々に増えて来ているいわゆるグラベルロードという選択か。シートポストとステムのサスペンションは私的に使用してかなり有効だと思う。DHバーに関してはバイクと身体の接点の数を増やして掛ける体重を分散しダメージを分散させるのに有効なのではないかと考えている。

 1001Migliaは確かに厳しいがしっかり準備をして臨めばその努力に報いて余りある体験が待っている。山や田園や海や湖や川や街が織り交ぜられ走る場所によって様々な風景の変化を存分に楽しめる。田舎の街並みは赤茶けた建物で統一されたイタリア独特の風合いを堪能できるし、ジロ・デ・イタリアで目にする様なイタリアらしい道がどんどん出て来る。PBPとは対照的に静かに淡々とイタリアの道を楽しむことができる。

 私的には事前準備には相応の労力をつぎ込んだし長期間の心理的重圧もあってそこそこ辛い思いをしたが、1001Migliaを実際に走ってみて後悔は微塵もない。事前に思い描いていたものを大きく超える体験が間違いなくできたことを確信した。また一つ私の人生の貴重な非日常体験と記憶を増やすことができて本当に良かったと思っている。

 今回の1001Miglia遠征の備忘録的要点を幾つか挙げておく。

*フィンエアーの乗継便でイタリアに渡る際は経由地のフィンランドで出入国審査が行われる。早朝時の審査は注意。乗継便を逃したら迷わずサービスカウンターへ直行。

*バイク・装備チェックはスタート直前。

*各TPの仮眠所は無料でブッキングの必要はない。勝手に寝て勝手に起きる方式。一部混んでいる場所があるが大抵空いている。マットや簡易ベッドがあるTPもあるが床に直に寝るTPもある。毛布はどこもなかった。スタート時に配布されるエマージェンシーブランケットが役に立った。

*TPでの食事は前回とほぼ同じ内容。基本プルーツ、パスタ、ジャムパイ、パン、水が無料提供される。その他コーラや別の食べ物が有料で提供されているTPもある。現金のみ対応。

*TPでのバイクメンテナンスサービスは基本的にない。PBPの様にバイクパーツも売っていない。通過する街のバイクショップを事前に目星をつけておくのが有効。

*イタリアでは飲み物の選択肢が少ない。スポーツ飲料の類は相変わらず全く見かけなかった。水は普通の水と炭酸水を区別して注文する必要がある。

*走行中PBPの様にちょくちょく街を通るが夜間はPBPの様に街中にオープンしているバーなどは殆どないので夜間の補給は不可能と考えるべき。

*道中はPBPの様な私設エイドは全くない。PBPとの規模の違いは常に考慮する必要がある。

*コース上にはPBPの様な矢印表示は殆どないのでナビは必須。

*輪行ケースはACORのバイクポータープロを使用したが往復ともフィンエアーでの超過料金は発生しなかった。但し地上係員の判断次第というリスクがあるので注意。

*ミラノ・マルペンサ空港からミラノ市街のまでの移動手段はマルペンサ・エクスプレスがミラノ中央駅まで直通で便利。イタリアは同じホームに幾つかの鉄道会社の路線が同居しているがマルペンサ・エクスプレスはTRENORDという会社。券売機も別なので注意。空港からミラノ中央駅までは€13.5で50分位。スリに注意という情報があったが常識的な身辺注意をすれば問題ないレベル。

*ミラノ市街からスタート&ゴール地点のParabiagoまではミラノ・ポルタ・ガリバルディ駅から鉄道が便利。TRENORDで片道€5で35分。バイクはバイク対応車両に無料で載せられる。

*ミラノ・ポルタ・ガリバルディ駅は”2”番ホームと”2SOT”番ホームは別。”SOT”とは地下のこと。Parabiago行きの路線は地下鉄なので注意。

*イタリアでは切符を買ったら乗車直前に刻印端末で刻印を押す必要がある。これを忘れると車内検札で罰金を取られる可能性あり。注意。

*走行中も含む現地での経費は11日間で約€400だった。事前注文のジャージ等が現金決済で約€100、交通費が€37、それ以外は全て食費。

*今回の費用総額は航空運賃263,000円、ホテル代€382を含む、国内交通費、現地経費等込々で約40万円位だった。

 

 そしてこの1001Migliaを完走してヨーロッパ4大ブルべを全て完走した。が、こちらも今一つ実感がない。それは上で述べた通り1001Migliaの完走の実感がないからだ。

 私のブルべ人生の最大目標だったヨーロッパ4大ブルべを完走した後、何が見えるのか、この後ブルべとどう向き合っていくのかということを本当に考え始めるのは1001Migliaの正式リザルトを見てからということになりそうだ。

 

 さて、これで1001Migliaの走行レポートは完結した。余り中身がなく冗長な文章に最後までお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。また、これから1001Migliaに挑戦しようと考えている人達の一助になれば幸い。

 

 次のブルベはAJ群馬さんのSR600上毛三山。SR600十種十本達成を賭けて走ることになるが近日詳報の予定。