三体を読み終わった。三体が面白いというのは随分前から聞いていたのだが、ハードカバーを買う程の期待はなかったので文庫化されるまで待っていたがなかなかならず、忘れた頃に文庫化されていたことに気付き今年の4月から読み始めた。基本的に私の読書時間は休日の昼に行きつけのラーメン屋の開店待ちに並ぶ小一時間だけなのでなかなか読み進まず、全5巻を7か月ちょっとかけてようやく今日読み終えた。
噂に違わず確かに面白かった。今現実に存在する仮説も含めた物理理論をこれでもかという程に詰め込んで上手く繋げて膨らませて最後までリアリティを持たせてくれたままにしてくれたのは凄い。それにしても我々の3次元宇宙は度重なる宇宙規模のジェノサイドのための低次元遷移の結果という設定は凄い発想、この想像力には脱帽の一言。最後の方はそれまでの丁寧な状況描写に比べてかなり雑にファンタジックになった感は否めなかったけれど、まあ筆者も読者もここまでが限界点だったのだろう。
ストーリーでひとつ解せないのは、ウェイドが何故程心との約束を守ったのかということ。目的のためなら手段を選ばず徹底的に冷徹を貫いたウェイドなら自身のヒューマニティを棄てることなど造作ないことだと思うのだが、これは是非ウェイドに聞いてみたかった。まあ聞いても教えてくれないだろうけれど。
これを読み終えて改めて思うのはこれをヴィジュアル化するのは無理だと思う。私の場合はnetflix版の三体を先に観てしまったが、小説を読んでみて改めて別物だと思った。この小説を読むということはひたすら自分の想像力の限界に挑戦する作業でもあった。正直頭の中で画を描けなかったものがたくさんあって、せめて筆者に見えていたものを想像できればともがいてみたが結局は自分の想像力の貧困さを思い知ることとなった。この作品を無理に映画化するのは止めた方が良いと思うが、一方でこれをヴィジュアル化しようとする人達の想像力がどれ程のものを生み出すことができるのかを観てみたい気もする。
私的には暗黒森林という考え方には異を唱えたい。狩るか狩られるかを突き詰めれば殲滅そのものが目的化する。宇宙に芽生えた文明知性の帰着点が暗黒森林なのだとすると逆にこれをミクロ化していくと文明社会の個のレベルで殺し合いになって恒星間移動可能な文明まで進化し得ないことになる。フェルミのパラドックスでいうグレートフィルターを克服した高度文明が暗黒森林的な帰結を有しているのは矛盾に思えてしまう。今の人類は殺し合いの只中にいる。人類が今直面しているグレートフィルターは富の一極集中と経済格差、限られたリソースの浪費と奪い合いによる殺し合いなのだ。小さな紙片の様な二次元の素は現代の核兵器だ。今人類は宇宙の他文明と接触することなく滅亡する危機にある。果たしてこのグレートフィルターを人類は克服できるのか、残念ながら今のところ悲観的予測しかない。今を乗り越えられなければ、人類の文明はこの物語の冒頭部分だけで終わってしまうことになる。三体は人類への警鐘でもあると思う。