[目次]
- 仮眠ポイント/ホテルユニサイトむつ->PC3/ファミリーマートむつ城ヶ沢店(10.8km/356.5km)
- PC3->IC2/大間崎(70.9km/81.7km/427.4km)
- IC2->IC3/尻屋崎灯台(63.9km/145.6km/491.3km)
- IC3->ゴール/ファミリーマート八戸卸センター店(115.4km/261.0km/606.7km)
- ゴール後
- ゴール翌日
仮眠ポイント/ホテルユニサイトむつ->PC3/ファミリーマートむつ城ヶ沢店(10.8km/356.5km)
5/2(金)、4時過ぎにアラームが鳴る前に目が覚めた。昨夜はベッドに横になってちょっと眠るのに苦労していたと思ったらあっという間に今になったという感じ。眠気はあるが意外に頭はしゃきっとしている。ベッドでうだうだと考えている時間的余裕は全くないので急いでベッドから起き上がり身支度を始める。身体各所をチェックするが右手首は痛いままで両膝はちょっと痛みが引いた感じ、腰は疲労感はそこそこあるものの痛みはなくなった。やはり2時間そこそこの睡眠では回復は難しいか。ちょっと肌寒いのでアームウォーマーとレッグウォーマーを着ける。
4:50にホテルをチェックアウト。4時間弱の滞在時間だったがちゃんとしたところで休息が取れて本当に良かった。
今朝のむつは快晴。天気予報は日中は雨の心配はないが風向きが終日南風と悪い。今日も向かい風を覚悟せざるを得ない。
BRM501埼玉600kmアタック八戸2日目はむつをスタートして大間崎に行きそこから下北半島を時計回りに海沿いを進んで八戸にゴールする261km。
山岳は序盤のかもしかラインだけだが、その後は細かいアップダウンがかなりあって獲得標高差は2200m位あるから、昨日までの身体的ダメージを考慮すればそこそこきつい。そして風、昨日と同じ様な強い向かい風になれば相応のペースダウンを余儀なくされることを覚悟しておかなければならない。とにかく時間を目一杯使ってゴールすることだけを考える。
4:55にリスタート。国道338号を西に向かって緩々と走り始める。最初の目的地は10.8km先のPC3。
早朝のむつ市街は車は全く走っておらず静か。昨夜は暗くてよく見えなかったがそれ程大きな街ではなさそう。
進みながら振り返ると朝日が昇って来た。取り敢えず気分的にはちょっと盛り上がって来た。
前方の山には怪しげな雲がかかっているがそれ程広い範囲ではないので気にしない。
海沿いの桜並木は散り際といったところ。朝日が相まって清々しい。
身体各所は多少痛いが脚は何とか回すことはできる。今日も一勝負できそうだ。
8.0km、海自の大湊基地の傍を通過。
10.0km、大間・川内方面に右折して更に国道338号を進めばPCはもうすぐ。
PCが見えた。
10.8km/356.5km地点のPC3に到着、チェックタイムは5/2の5:33。
スガタさんが先着していた。昨日の落車の怪我はまだ痛いとのことだが元気そうでよかった。そのうちリュウさんとタカトリさんがやってきた。2人共ホテルには泊まれたそうで何より。
この後の山岳では膝の痛い私はこの人達には多分ついていけないので一人で先に出発することにする。朝食にパンを食べて25分程の休憩の後出発。
PC3->IC2/大間崎(70.9km/81.7km/427.4km)
PCを出て再び国道338号に乗って走り始める。次の目的地は81.7km先のIC2大間崎だがそのちょっと手前に休憩ポイントを設定してあるのでまずはそこを目指す。その前に今日唯一の山越えのかもしかラインを越えていかなければならない。
13.4km、海沿いに出た。フラットで綺麗な路面の国道338号はとても走り易い。風も弱く順調に進む。
18.4km、川内町に入った。
25.0km、川内の街中に入って来て大間・佐井方面に右折して国道338号を離脱、県道46号に乗り海沿いを離れて内陸に入っていく。
佐井に向かって県道46号を北に向かって進む。前方に見える山をこれから上るのだろうか。
29.3km、微妙に上り基調になって来た。ぼちぼち山道に入って来たかな。
3%前後の緩斜面が続く。この位の坂なら膝に負担があまりかからないのでかなり助かる。ピークの標高は520m位だから距離を考えるといずれきつくなりそうな気がする。
36.8km、川内温泉の桜が見事。
38.4km、集落の中を通過して更に大間・佐井・湯野川方面に直進して行く。
40.6km、湯野川温泉郷を通過。
この区間は車がほとんど来なくて落ち着いて走ることができる。気温は少しずつ上がって来て寒さは全く感じない。心地良いサイクリングコンディション。
45.5km、ゲートを通過した辺りから勾配がきつくなってきた。いよいよ本格的なヒルクライム開始か。ピークまでは7km弱。
46.9km、10%の急勾配が出てきた。やはり楽はさせてくれないか。
両膝に負担をかけない様にゆっくりゆっくり上っていく。ダンシングをするとやはりちょっと痛む。
カーブがちょくちょく出て来てメリハリがついてきて勾配がきついながらも多少走り易くなったか。
今度は8%、終盤は急勾配が維持されてずっときつい状態が続いている。
予想していたより全然ハードな峠道でこんなに苦労するとは思わなかった。膝が痛くなければもっと楽しく上れただろうが、今はとにかく一刻も早く終わってくれることを願うのみ。
もうすぐピークというのに9%、止まる様な速度でのろのろと上っていく。
ピークが近くなってきて残雪が目に付くようになってきた。もう少し、もう少し。
52.3km、ようやくピークを通過して佐井村に入った。そのまま下りに入っていく。
取り敢えず今日唯一の山越えを終えてほっとしつつ長い下り坂を快調に下っていく。勾配はきついが比較的路面が綺麗で下り易いのがとてもありがたい。
58.8km、急勾配の下りが終了して落ち着きを取り戻し更に緩い勾配を下っていく。大間までは19km。
65.7km、海辺近くまで下りて来て下りは終了。止まれを大間方面に右折して県道46号を離脱。
曲がって海沿いを走り始めた途端に向かい風でペースダウン。あれ?南風ではなかったのか?
66.3km、突き当りを大間方面に左折して再び国道338号に乗る。
微妙なアップダウンのある国道338号を進む。車通りがちょっと増えた。
70.5km、大間町に入った。
向かい風とアップダウンでペースは上がらないが信号が殆どないので着実に距離は消化している。休憩ポイントはもうすぐ。
休憩ポイントが見えた。
81.7km/424.0km地点の休憩ポイント4に到着、チェックタイムは5/2の9:11。
取り敢えずゴールまでの残り距離が200kmを切ったのでちょっと気分が楽になった。気温が上がって来たのでここでアームウォーマーとレッグウォーマーを外す。カレーパンを食べながらツイッターをチェックしていたらリュウさんがメカトラで遅れるとのメッセージが届いた。後ろでも辛い状況が発生している様だ。2日目も早くもサバイバルゲームになって来たか。取り敢えず自分の走りをするのみ、20分程の休憩の後出発する。
休憩ポイントを出て目の前の交差点を大間崎方面に左折、国道338号を離脱して国道279号に乗る。改めてIC2を目指して走り始める。残り距離は3.4km。
78.8km、港に突き当たって大間崎方面に右折、更に国道279号を進む。
79.0km、住宅街の中を進んで突き当りを左折。
79.5km、国道279号を離脱して大間の街中を進む。
80.2km、交差点を左折。
80.9km、左折して枝道に入る。
再び港沿いを進み始める。
たくさんの鯉のぼりが元気よく泳いでいる。頭は皆進行方向を向いている。げんなり。ICはもうすぐ。
81.7km/427.4km地点のIC2に到着、チェックタイムは5/2の9:32。
ここはクイズポイント、まずはクイズの答えを回収する。
天気が良いので観光客でそこそこ賑わっている。天気は良いが風が強い。
マグロ丼という選択は時間的にも精神的にもその余裕は全くない。写真を撮りつつ一息ついてすぐに出発する。
IC2->IC3/尻屋崎灯台(63.9km/145.6km/491.3km)
ICを出て海沿いに向かって走り始める。次の目的地は64km先のIC3尻屋崎灯台だがその前に36km先に休憩ポイントを設定してあるのでまずはそこを目指す。走り始めていきなり強い向かい風、これからゴールまでひたすら南に向かうことになるのでこのまま向かい風だと悲惨なことになりそうだ。
84.2km、ちょこっと上って突き当りを左折。
85.3km、急勾配を上って突き当りを左折、国道279号に乗る。
海沿いに出て国道279号を南東方向に進む。強い向かい風でバイクが全然進まない。
はるか先まで続く海岸線はこの向かい風だと拷問でしかない。
道路標識の距離の減りが遅くて嫌になる。
そのうちアップダウンも出てきた。なかなか酷いことになってきたぞ。
103.5km、再びむつ市に入った。
106.0km、登坂車線が出てきた。
8%を超える急斜面をえっちらおっちら上っていく。
ただのアップダウンかと思いきや結構長い。こんなところに峠があったのか?
107.2km、ピークに辿り着いたらバス停に木部野峠と書いてあった。実に立派な峠でしっかり脚を使わされてしまった。そのまま下りに入っていく。
長い下りを快調に下っていく。向かい風で勝手に減速するのでブレーキをかける必要がない。
111.3km、下りが終わりというところで桜並木が出てきた。
見事な桜並木が続く。
向かい風で花吹雪が正面から吹き付けてくる。休憩ポイントはもうすぐ。
休憩ポイントが見えた。
118.0/463.7km地点の休憩ポイント5に到着、チェックタイムは5/2の11:27。
ここまで120km弱を消化して巡航グロス20km/h換算で30分遅れで留まっているのにちょっと驚いた。それとは裏腹に精神的にも身体的にも疲労感がかなり出てきているのは、無意識のうちにかなり無理をしているものと思われる。とにかくこの連日の強い向かい風の中で走ることの心身にかかる負担はかなり大きい。やはり天候不良の中で一番辛いのは雨でも暑さでも寒さでもなく向かい風だということを再認識している。ローソンには塩分補給の定番のカルパスがないのでイカフライ風煎餅を食べ、今のところ眠気はないがちょっとぼーっとする感じがあるのでレッドブルを投入する。20分程の休憩の後出発する。
休憩ポイントを出て再び国道279号に乗り桜並木を走り始める。改めて尻屋崎灯台を目指す。残り距離は47.6km。
119.0km、橋を渡った直後を左折して国道279号旧道に乗る。
119.2km、右折して枝道に入って国道279号を離脱。
車通りがなくなって静かになった裏道を進む。向かい風はちょっと弱くなった気はするがペースはあまり上がらない。
123.5km、突き当りを左折して県道266号に乗る。
曲がった直後に東通村に入った。
林の中のまっすぐな県道266号を進む。この道も車は全く走っていない。
129.5km、県道6号に突き当たって尻屋崎方面に左折。何やら前方に怪しげな雲が広がって来て青空が隠されてしまった。嫌な予感がする。
県道6号も車はほとんど走っていない。尻屋崎までは11km。尻屋崎には寒立馬がいるのか?
136.2km、八戸・袰部方面への分岐を通過して更に県道6号を直進する。後程IC2で折り返した後ここに戻って来て八戸方面に進むことになる。
140.7km、林を抜けて視界が開けた途端に再び強い向かい風。前方に青空が見えて来て取り敢えず雨の心配がなくなって一安心。
強い風で砂が巻き上げられて砂嵐の様な状態で一瞬視界不良。尻屋崎まではあと3km。
前方に工場が見えてきた。ちょっとスチームパンクな風情。
143.3km、尻屋崎・尻屋灯台方面に左折して県道6号を離脱。
左折ポイントにはゲートがあるが勝手に開いた。路面の鉄パイプの格子が荒くて前輪を隙間に落としそうでちょっと怖い。
下り基調で林の中の道を抜けると再び海沿いに出た。強い向かい風に逆らって必死に前に進んでいく。
ようやく前方に灯台が見えてきた。もう少し、もう少し。
海は青い。ちょっとだけ沖縄の海に似ている。
145.6km/491.3km地点のIC3に到着。チェックタイムは5/2の12:57。
まずはクイズの答えを回収する。
周囲を見渡しても数名の観光客がいる以外は何もない。
バイクの向きを変えようとすると強い横風に煽られてバイクが宙に浮いて飛ばされそうになるのを必死で抑え込む。ここに長居は無用だ。写真を撮ってすぐに出発する。
IC3->ゴール/ファミリーマート八戸卸センター店(115.4km/261.0km/606.7km)
灯台を後にして横風に煽られて転ばない様に注意しつつ今来た道を戻り始める。
さて後はゴールを目指すのみだが、ゴールまでは115.4kmと長いので45km先に休憩ポイントを設定してあるのでまずはそこを目指す。
さっき向かい風で苦労した道を今度は追い風で快調に戻っていく。
県道6号との合流点手前のゲートに戻って来た。今度は開かない。
どうやって開けるのかわからず周囲を見回すとちょっと手前に押しボタンがあった。
周囲を見渡したおかげでゲートのすぐ傍に放牧場があって馬がいることに気が付いた。これが寒立馬か。確かにしっかりした体躯の馬達だね。
147.9km、突き当りを右折して県道6号に乗ってさっき来た道を戻っていく。
追い風基調だが上り基調。再び前方は雲に覆われて怪しげな雰囲気になっている。気温が下がって来て半袖だと走っていても寒く感じるようになってきた。
148.4km、スチームパンクな工場の傍を通過していく。工場内には動きが全く感じられないので廃墟の様に見える。
車通りのないまっすぐな道を順調に進む。久し振りに向かい風でなく安定して落ち着いて走れている様な気がする。しかしこの後進路が南になれば再び向かい風に晒されるのは確実なので束の間の休息というところか。
155.0km、八戸・袰部方面に左折して県道6号を離脱。往路の遡りはここまで。
曲がってすぐに上りになった。まっすぐな坂をぼちぼち上っていく。両膝の痛みが強くなってきているのがわかる。ゴールまで持ち堪えられるか?
この坂、結構長い。勾配も8%位になってかなりきつい。止まる様な速度で必死に食らいついていく。
157.2km、何とか坂を上り切って突き当りを八戸・尻労方面に左折、県道172号に乗る。
157.6km、三沢・小田野沢方面に右折して県道172号を離脱、県道246号に乗る。
曲がってすぐに下り基調。脚を止めて休めるのはありがたいが寒さが堪える様になってきた。
アップダウンのある県道246号を進む。車が全く走っていなくて走りやすい道のはずだが、冷たい向かい風が吹き付けてペースは上がらない。
寒さに耐えられなくなって途中で止まって取り敢えずアームウォーマーを着けてグローブを指付きに交換する。ゴールまであと100km位のところまで来ているが、まだ物凄く遠い気がする。身体のあちこちも痛いし疲労感もあるが、それ以上に精神的に疲れてきている感じがある。せっかく止まったのでちょっと休憩してから出発する。
再び県道246号を走り出す。とにかく脚を回さないことには残り距離は減らないので黙って足を回す。
道脇の廃棄された農場の建物が寂寥感というより悲壮感を漂わせている。それにしても東北遠征がここまで悲壮感に見舞われるとは予想だにしなかった。
171.6km、突き当りを八戸方面に左折して国道338号に乗る。
国道338号を南に向かって進み始める。八戸までは91km、ゴールまでの距離とほぼ一致する。
まっすぐな道は向かい風だと視覚的破壊力は絶大。体力も精神力もじわじわと削られていく。
ペースは上がらず距離はなかなか減っていかないけれど、車が少なく信号がないので一定ペースを保てるのが救い。
183.8km、八戸・三沢方面に右折して更に国道338号を進む。
184.0km、ちょっと上りつつ八戸・三沢方面に左折して再び南下開始。
八戸までは85km。全然距離が減らない。完走できる気が全くしない。
185.8km、トンネルに入る。
トンネルの中が冷蔵庫の様に寒くて全身に震えがくる。上り基調の長いトンネルはなかなかに辛い。
トンネルを抜けてほっと一息。休憩ポイントはもうすぐ。
休憩ポイントが見えた。
191.0km地点の休憩ポイント6に到着、チェックタイムは5/2の15:30。
ここまで190kmを消化して10時間半だから大崩れはしていないのに心身の疲労感が結構酷い。向かい風を過大評価して精神的に振り回されている様な気がする。自転車を降りると急激に寒く感じて身体に震えがくるのでここでレッグウォーマーとウインドブレーカーを着てホットカフェオレで身体を温める。20分程の休憩の後出発する。
最後の休憩ポイントを出て再び国道338号に乗り南に向かって走り出す。後はゴールを目指すのみ。この70kmがこのブルべの本当の勝負所になりそうだ。
西から黒い雲が近付いている。この向かい風と寒さの上に雨まで降り始めたらと考えたらぞっとする。何とか逃げ切りたいところ。
八戸まで73km。ゴールに近付いていくに従って向かい風が強くなっている様な気がする。
16:20に今日の走行距離が200kmに到達。ゴールまで60kmで残り時間は4時間半、この向かい風だとマージンは殆どない気がしてじわじわと焦りが募っていく。
202.1km、鷹架・六ヶ所村役場方面に左折して国道338号旧道に乗る。
205.8km、川というか湖を渡る。向かい風が更に強くなり巡航速度が20km/hを割り込んだ。きつい。
八戸まで56km。相変わらず距離が全然減っていかない。時間だけがどんどん減って焦りが募っていく。
平坦なのに5%位の一定勾配の坂を延々と上っている様な感じがある。坂ならば”坂だから当たり前。仕方ない”という割り切りができるが平坦路はまっすぐ伸びているのを見るとその視覚的なギャップで苦痛度が増す。一体何の罰ゲームかと思う。
217.0km、前方にコンビニが見えてここで休憩を入れようかと一瞬思ったが時間的マージンが少ないので我慢して通り過ぎる。
左を見ると遮蔽物の何もない田園風景が広がっていて容赦ない風が吹いてくる。森の中に入りたいとひたすら思いながら進んでいく。
220.9km、橋を渡って三沢市に入った。ゴールまであと40km、残り時間はあと3時間半。
221.5km、三沢空港方面に右折して国道338号を離脱、県道170号に乗る。
県道170号に入った途端に向かい風が更に強くなった。もはや爆風で速度が10km/h近くまで落ちた。これは辛い。辛過ぎる。
225.4km、左折して県道170号を離脱、浜街道に入る。
浜街道に入っても爆風はそのまま。踏みを緩めると止まりそうになる。時速10km/hだとゴールクローズの21時までにゴールできない。ここまで頑張って来てDNFのダメージは計り知れないので痛む両膝を堪えてひたすらペダルを踏み続ける。
所々で林が出てくると風が多少弱められるのがとてもありがたい。ここで頑張って時間を稼ぐ。
この道は2020年の1000kmアタック八戸の最終日に朝方の穏やかな晴天の中をのんびり走った楽しい記憶が残っていたのだがそれを打ち砕く様な過酷な風景に一変してしまった。忍の一字でひたすら脚を回し続けるが体力の消耗と同時に気持ちもすり減っていく気がする。写真を撮る余裕がなくなって走行記録などもうどうでもよくなった。
そのうち遂に雨が降り始めてしまった。強い降りではないので止まってバッグからレインウェアを取り出して着るという作業が億劫で惰性で進み続ける。
そのうち徐々に車の往来が増えてきた。2020年に走った時は田舎道で車通りは大してなかったように記憶しているのだがこれだけ車が走っているというのはこの道は幹線道路なのだろうか。
微妙なアップダウンが出てきた浜街道を後ろから前からひっきりなしに車が通り過ぎていく。左斜め前から吹き付ける強烈な風で車道に流されない様に痛む右手首を堪えて必死にハンドルを制御しバイクを安定させ続け、痛む両膝で必死にペダルを踏み続ける。暗くなってただでさえ路面が見辛いのに雨粒が付いたヘルメットのバイザーに対向車のヘッドライトが乱反射して更に視界不良になる中、路面が荒れていてあちこちにアスファルトの割れがあるので前輪を落とさない様にとにかく路面と車に全神経を集中し続けなければならない。その集中力を保ち続けるのが辛い。”何でこんなことになってしまったのか”、”一体俺はこんな状況で何をやっているのか”とひたすら答えのない自問自答が頭の中で回り続け、そのうち集中力が切れかけて脚を回すのが億劫になって来た。
既に頭の中にはDNFの文字がちょっと前から浮かんでいた。過去に何度かDNFを考えたことはあったがその時はDNFする口実を色々と思案しつつそれを打ち消すだけの気持ちがあったのだが、もはや口実などどうでもよい。
”もう無理だ。もう止めよう”
はっきりとDNFを瞬間的に決意した。そう思った瞬間に身体の力が抜けて止まりそうになった。
しかし街も何もない広大な田園の中のこの道で止まってしまってもどうしようもないことは頭の中の別の部分で理解できていたから実際に脚を止めることはできない。どうやってもゴールに行くしかない。”ゴールできたら明日からのヘルウィークはDNSしよう。明日家に帰って残りのゴールデンウィークを休もう”と自分に願をかけて、ひたすら車にぶつからないことだけに残りの全集中力を振り向けほぼ思考停止した状態でよろよろと走り続ける。
浜街道から県道8号、国道45号と遷移していく一本道はひたすら車が多い。完全に暗くなり濡れた路面に車のライトが反射して路面の状態が殆ど把握できない道を走るのは恐怖しかない。所々で歩道に逃げつつよろよろと走り続ける。
八戸市街に向かって続く国道45号の長い下り坂はひたすら恐怖。全身ががちがちに緊張してこわばりながら下っていく。
259.3km、長い下りを終えて全身の緊張が解けて我に帰ったら最後の曲がり角に辿り着いていた。ここを右折すればゴールまでは2km足らず。終わるのか?
車が少なくなり風向きも代わりここまでの過酷な状況に比べれば凪の様な落ち着きを取り戻した。疲れた。もうブルべはいいや。
ゴールが見えた。終わったよ。
結果的に無事ゴール。ゴールタイムは5/2の20:02、完走時間は39時間2分だった。
頭の中では瞬間的とはいえDNFを決意したから今の状況がどういうことなのか今一つ腑に落ちないが、事実だけ見れば時間内完走したということになる。とにかく終わった。もうどうでもいいや。とにかくホテルに行ってウェアを脱いで風呂に入りたい。
ゴール後
再びバイクに乗ろうとするが全身がこわばって上手くバイクを跨げない。何とか出走態勢に持って行って、ホテルに向かって走り始める。ホテルまでは2.8km。
車通りの少なくなった大通りを進みながら駅方向に右折しなければと交差点で止まろうと思った時、後ろから車が来たことに気付いて咄嗟に路肩にバイクを寄せようとした瞬間、前輪が何かに引っ掛かって動かせなくなりバイクをどう立て直せばよいのか瞬時に判断することができずクリートも外すことができずブレーキも上手くかけられず何もできずにそのまま歩道側に横倒しになり次の瞬間左脇腹に激痛が走った。
ここで落車してしまうのかよ…。
痛みに呻きつつよろよろと起き上がり一体何に引っ掛ったのか暗い路面をよく見たら縁石の様な車道と歩道を分けるアスファルトの突起があった。全然見えていなかった。後ろから来た車を察知するのも遅れたし咄嗟のバイクコントロールも全くできなかった。集中力が切れるとこんな怖いことが起きるのかと落車の瞬間を思い返して愕然とした。やはり駄目だ。身体も駄目だし気持ちも切れた。やはり明日からはDNSするしかないしDNSしなければ駄目だと自分に改めて言い聞かせながら気を取り直してホテルに向かう。
ホテルの前まで来て、チェックインする前に食べ物を買ってこようとそのまますぐ目の前の八戸駅前のコンビニ行こうとしたらタカトリさんに遭遇。濡れ鼠でボロボロの姿を見られるのは恥ずかしい限りだが今更どうにもならないので、タカトリさんもコンビニに行くというので一緒に向かう。
買い出しを終えてタカトリさんと別れて改めて20:40にホテルにチェックイン。自転車は輪行袋に入れないと部屋には持ち込めないということなのでホテルの前でもたもたと自転車をバラして輪行袋に入れる。
21時前にやっと部屋に入った。解放感と安堵感はあるにはあるがそれよりは感情の起伏のない放心状態という方が近い。取り敢えずウェアを脱ぐが、アームウォーマーを外すと右手首がかなり腫れていて熱を持っておりかなり痛い。まるで骨折をしている様な感じだが、400kmの走行中から既にこの状態で一体どこで痛めたのか全く見当がつかない。身体を曲げるとさっきの落車で強打した左脇腹が結構痛い。風呂に入ってシャワーを浴びて浴槽に湯を溜めて浸かろうと座り込もうとしたら、右手首は左脇腹や両膝だけでなく腰やら尻やらがとても痛い。要するに満身創痍な感じ、自分でもこんな酷いことになっているのに今更気付いてちょっと唖然とする。
風呂にゆっくり浸かりながら身体各所をマッサージしてかなり落ち着きを取り戻した。達成感がほとんどないのは完走したのかDNFしたのか自分の中で整理区別がまだできていないからだと思われる。
風呂から上がって遅い夕食の前に明日からのホテルのキャンセルをする。もしかしたら明日の朝起きたら走ろうかという気になるかも知れないと一瞬躊躇したが、今の身体の状態とさっきの落車を考慮しつつ、完走したらDNSすると決めてその通りの結果を出したのだからスパッと止めようとホテルをキャンセル。これでDNSは確定した。
ちょっとすっきりしてコンビニ飯を食べ始める。何となく目について食べたいと思ったものを寄せ集めたが並べてみると変なメニューだ。
食事を終えてもう後は寝るだけなのだが疲れてぼーっとしている感じはあっても眠気はない。明日は5時スタートの200kmを見送ってから始発の新幹線で帰るつもりなので取り敢えず寝ておかなければならない。目覚ましを4時半にセットしてベッドに入る。消灯時間は22時半。
ゴール翌日
5/3(土)、ベッドに入って程なく気を失って1時間位で目が覚めてしまった。時刻は0時半前、そのまますぐに眠りたいのに眠気が来なくて辛い。北の地獄はまだ終わっていないのか。そのうち再び寝落ちして次に目覚めたら4時過ぎだった。アラームを鳴る前に止めてしばしベッドの上でぼーっとする。起き上がろうとすると左脇腹に強い痛みが走る。昨夜よりも痛い気がする。これはもしかして肋骨にひびが入ったか。腰も痛いし上半身を起こすのに難儀する。立ち上がると両膝はやはり痛い。数時間寝た位では全く改善しないか。目覚めたら走れそうな状況になってホテルをキャンセルしたことを後悔するかもしれないという心配があったがそんなことにはならなかったので安心した。もたもたと服を着て八戸駅前に向かう。
4時半前に八戸駅前に来た。早朝の八戸は雨がパラパラと降っている。まだ誰も来ていない。
駅には人影は全くない。ひたすら静か。
しばらく待っていたら最初にカワダさんがやって来た。カワダさんはこの200kmからの合流。極めてフレッシュ。当たり前か。
ぼちぼちみんな集まって来た。コヤマさんは腰をやられて私と同じく200、300をDNSするとのこと。リュウさんもメカトラが解消せず取り敢えず200はDNSとのこと。
みんな揃ってブリーフィング開始。スガタさんは昨日私の後にゴールしたとのこと。そして今日も走り出すとはタフ過ぎる。
出走前の記念撮影。今日も天候は余り芳しくないですが頑張って!
3人の後姿を見送りながら悔しい思いをするのかなとちょっと覚悟していたけれど、全くそんなことはなかった。それ位身体はボロボロだし気持ちも切れて走りたいと全く思えない。完膚なきまでの敗北を受け入れてむしろ清々しい感じ。
スタート地点を解散してホテルに戻る。ベッドに30分程横になってから帰り支度をして6時過ぎにホテルをチェックアウト。
ホテルを出て歩き始めてホテルの写真を撮り忘れたのに気が付いたが重い輪行袋を持って戻るのが嫌なので振り返るだけ。東横インはどこも自転車の部屋入れができないのでそういう統一方針なのだろう。覚えておこう。
ホテルの隣の中華料理の店、今回も行けなかったなと思いつつ通り過ぎようとしたら閉店のお知らせの張り紙。ここは唐揚げ定食が凄いので一度行ってみたかったのだが過去何度も来たのに全て休業で結局一度も訪れることはできなかった。残念。48年間お疲れ様でした。
ただでさえ重い輪行袋がこのボロボロの身体にはより一層重く感じる。駅までの200mが辛い。
駅について始発の新幹線の切符を買おうとしたら指定席は全席売り切れで立ち席しかなかった。やむなく立ち席を購入する。立ち席という日本語、おかしくないか?
ホームに降りてしばし待っていたらどんどん人が集まって来た。確かに満席なわけだ。ゴールデンウィーク中だとこんなものか。
6:42発のはやぶさ号に乗車。乗降口前の通路で輪行袋と一緒に居場所を確保。
はやぶさは八戸から大宮までの間は停車駅が2つしかないので人の出入りが少なくてありがたい。
9時に大宮駅に到着。大宮駅は新幹線の改札から京浜東北線のホームが最も遠い。人混みの中を輪行袋を抱えてよろよろと歩いていく。
京浜東北線、武蔵野線と乗り継いで9時50分に東所沢駅に到着。ここで降りたのは帰路の途中でD麺に寄るため。もう重い輪行袋を抱えて歩かなくても済むかと思うと文字通り肩の荷が下りた。
輪行解除してもたもたバイクを組み立てる。取り敢えずバイクは破損個所はなく走れそう。それにしても日差しがきつくて暑い。さっきまでの東北の肌寒さは何だったのかという感じだ。バイクに跨って走り始めると全身バキバキでぎこちない。右膝に鋭い痛み、これは疲労系の痛みから炎症系の痛みに変わった感じだ。拙いね。D麺まで4.5kmの道のりをゆっくり漕いでいく。
D麺に到着して回転待ちの列に無事に接続。
念願のD麺の限定つけ麺。帰って来たら真っ先にやりたかったD麺で昼ご飯を見事に果たした。北の地獄でボロボロになった心身に沁みる旨さ、あっという間に完食。
満腹になって再びバイクに乗り3km先の自宅を目指す。
11:45に自宅に帰着。予定より2日早く帰って来てしまったけれど2日休みが増えた気がしてかなり嬉しい。バイクの洗車や装備の手入れは明日以降にして取り敢えず寝る。これにて波乱の東北遠征ヘルウィークは終了。
---
オダ埼清水班の特別企画Golden Hell Week 1500、残念ながら400km、600kmを辛くも完走したところでDNSすることとなってしまった。DNSを決意するまでの心境については帰宅して間もなくに書いた心が折れるということに表されていると思われるのでそちらをお読みいただければと思うが、とにかく前半の1000kmの大半は強い向かい風と雨と想定外の低気温、そしてとどめのラスト40kmは心身の疲労の上に暴風と雨と寒さと車と悪路と夜が全て重なるという稀にみる悪条件になり文字通り北の地獄を体感してしまった。今の自分の限界点をはっきり認識し完全な敗北を受け入れた上でのDNSだったことは走り終えて3週間経過してもその認識に変わりはなく悔しさや後ろめたさはない。3週間経って身体各所のダメージは殆ど癒えたがただ左肋骨はまだ痛い。2週間位で実生活に支障がない程度には痛みは引いたが身体をひねったりくしゃみをすると鈍い痛みが出る状態がなかなか改善しない。やはり肋骨にひびが入っている感じだが、正直ゴール後のあの落車は余計だったと思う反面、集中力が切れると何が起こるのかという実体験になったという意味では決して無駄ではなかったと思っている。
それはそれとしてこのヘルウィークのコースについては、取り敢えず400km、600kmを実際に走ってみて、東北ならではの車も信号の少ない走りやすい道が連なっているし山岳はほどほどで難易度は低く市街地走行は少なく、各ブルベ間の宿泊や600kmの仮眠ポイントも設定しやすく200km~600kmを一気にこなすコースとしてはかなり秀逸だと思う。とにかく今回は悪天候にやられてしまったという結論しかない。天候さえよければヘルウィークではなくパラダイスウィークになると思う。この先また開催されることがあれば是非好天の下で楽しんで走りたいと思う。
さて次のブルベだが、AJ群馬さんのBRM608群馬200はじめての200 にエントリーしているが左肋骨の状態次第というところか。復活戦として楽しく走れる様に取り敢えず今は大人しく回復に専念する。