左足クラーベ

 私は色々な楽器を演奏するのが趣味だが、それぞれの楽器について死ぬまでにできる様になりたい曲や技がある。ドラムに関しては”左足クラーベ”という技がそのひとつである。簡単に言えば左足でクラーベのリズムパターンを刻みながらラテンビートを叩き出すというものだが、これが私にとってはとんでもなく難しい。

 その昔、左足クラーベを初めて見たのは神保彰のドラムソロだった。

 左足ハイハット8分踏みにドラムソロを乗せるのは星の数程見てきたが、左足でクラーベを刻みながらドラムソロをやるのを見てぶっ飛んだ。

 ”何だこれは!?凄過ぎる!カッコイイ!”

 この技を会得したいと早速電子ドラムに座ってちょっとやってみたが、左足でクラーベを刻むということに全ての神経を持っていかれてしまい後に残った両手右足が全然コントロールできない。左足ハイハット8分踏みは左足でリズムキープをするだけなので言ってみれば無意味な動作だから無意識でもできる様になった。でも左足クラーベは有意味だから意識しないとできない。そもそも意識をリアルタイムで分散して四肢を動かすということが一体どういうことなのかイメージすらできないのだからできるわけがない。実際に叩こうと試みて改めてこの技の難しさを思い知った。

 ドラムには"4way independence"という言葉があるが要するに四肢を完全に独立させて動かすことがドラムの技法の到達点だが、まさに左足クラーベのドラムソロというのはその到達点の具現化の一つだった。

 ”これは私には無理だ。絶対にできない”とすぐに諦めてしまった。それから時々思い出してはチャレンジしてみるもののやっぱり全然ダメですぐに諦めるということを幾度となく繰り返しつつ月日が過ぎていった。

 60歳がいよいよ目前に迫って来て更に言えば人生の終わりが見通せるようになってきて、死ぬまでに俺はどこまで行けるのかと考えた時に仕事的な定年を一つの区切りとしてそれまでに60歳からの次の人生の準備を始めなければと考え始めた。特に音楽に関しては豊かな老後を過ごすためには楽器の技量をどれだけ積み増しておけるかが極めて重要と考えて、今までは気分に任せてムラのある練習をしていたが毎日少しずつでもコンスタントに続ける練習スタイルを確立することに腐心して来た。ドラムも毎日10分でもとにかくセットに座って叩くということを続けて来て、その10分の間に会得したいフレーズを手足の動きを分解して辛抱強くひたすら反復練習するという地味な作業を続けてきた。ここに左足クラーベを乗せて練習し続けたら、あら不思議3か月位で基本パターンが叩ける様になってきた。

 これは四肢をバラバラに動かすというよりは1小節を16分割してそれぞれのタイミングに四肢のうちどれを動かすかというのを並べていって最終的に連続動作させるというオルゴールの構造的なやり方というのが近い。このやり方が正しいとは思えないのだが表面上は何となくできている様に見えるので取り敢えずこれで良しとしておく。

 電子ドラムで何となく叩ける様になったのでリアルなフットクラーベを導入することにした。早速先日のブラジル系バンドの合宿に持って行った。

 まさか私の人生でこれをセッティングする日が来るとは思わなかった。感無量。

 取り敢えず生ドラムで基本パターンが叩けたので満足。曲で使うことはなかったが、果たしてこれをステージで使う日は来るのだろうか。

 次のステップは下半身と上半身の切り離し。左足クラーベと右足トゥンバオをキープしたままで両手をフリーに動かしてソロを組み立てるのが当面の目標。これがとてつもなく難しくて現状全くできる気がしないが、私的には左足8分踏みでも右足サンバ2ストロークでも上半身と下半身の切り離しに成功して両手がフリーに動かせる様になったので、いつかは必ずできる様になると諦めずに練習を続ける。

 この成果を得て改めて座右の銘を強く認識する。

”練習は嘘を吐かない”

”継続は力なり”

 これは私の人生における真理である。