テナーサックスその2

 テナーサックスの修理が終わった。

 修理に出してから3週間位かかったので何かトラブルでもと不安があったが、こちらがお願いした部分は全てクリアされていたので一安心。

 到着時には変形してまともに動かなかったテーブルキーもバッチリ直って何事も無かったかの様に動いている。一時はどうなることかと思ったがよかったよかった。

 修理に出す前にほんのちょっとだけ音を出した時に感じた”アルトより吹きやすい”という感覚は確かにあって、リペア工房のマスターも”低音の方が出しやすい”と言っていた。一緒に付いてきたセルマーのマウスピースと訳も分からず買ったリコの3番のリードでぷっと吹いたらいきなり実に豊饒な音が出て来て驚いた。テナーの生音ってこんなにいい音だったっけ?ド素人の俺でもこんな音が出せてしまうのか?これからマウスピースとリードで悩むのかと思っていたがもうこの組み合わせでいいじゃないか、という感じだった。昨日楽器が届いた時はキーが変形してまともに動かなかったり把握していた以上に凹みが多かったりでこれはハズレを引いたか?これから修理が大変そうだとかなりナーバスになっていたがその落胆はかなり解消された。この楽器とは長く付き合っていけそうだというのが最初の音出しの印象。消音ケースに入れて首から下げてみたが覚悟していた程重くはなくこれなら長時間でなければ練習を続けていけそうだ。

 アルトと交互に毎日ぼちぼち吹き始めた。マウスピースは付属のセルマーでいいかなあと思いつつも、昔大学のサークルで”テナーのマウスピースと言えばオットーリンク”というのが脳内に刷り込まれてしまっていたので取り敢えず試してみるかと中古を探し始めた。大学の頃にテナーの先輩が持っていたオットーリンクの形を憶えていたのでネット上で同じものがすぐに見つかった。どうやらオットーリンクの金色のメタルのマウスピースは製造時期による違いを除けば1モデルしかなさそうなので迷う必要はなさそう。と思ったら番手という番号がいくつもあるのでこれは何だ?と思って調べたらオープニングの違いを表しているものらしい。オープニングとは?と更に調べるとマウスピースの咥える部分の先端と取り付けたリードの先端の隙間の開き具合を表していて数字が大きい程広いということの様だ。オープニングが広いと分厚い大きな音が出るが多くの息の量が必要となり、狭いと音量が小さくなり明るい音になるが息の量が少なくて済むということらしい。オットーリンクの標準モデルは7☆ということらしいが、これは標準と呼ばれているラバーのマウスピースのオープニングに比べてかなり広く初心者が簡単に扱えるものではないらしい。これはいきなり手を出すと失敗しそうなのでオープニングの狭いものを選ぼうと思って探したら、5☆の安い中古が見つかったので買ってみた。

 届いてみたら結構くたびれているが、金属なのでそんなに劣化はないのではないか。

 咥えるところの樹脂の部分に歯形が付いているがパッチを貼れば問題ないだろう。

 よく見てみたらネックに差す側の穴が歪んでいることに気が付いた。多分落としで歪ませたのだろう。商品説明には何も書かれていなかったが明らかに直そうとした形跡があるので出品者は気付いていた可能性が高い。穴が歪んでいるとネックに取り付けた時に息が漏れる可能性があるので事前告知のない瑕疵が判明したということで返品も考えたが、修理して使える様にしたいという意識が勝って金管楽器のマウスピースを修理した要領で修理を試みる。

 トロンボーンのマウスピースのストローの歪みを修正するのと同じ要領で直径18㎜の鉄球を買ってきて穴に乗せてじわじわとハンマーで叩いていく。

 見た目で殆ど円に見える程に戻すことができた。ああ、すっきりした。物を修理するというのは本当に精神衛生上とてもよろしい。

 オットーリンクとセルマーのマウスピースを見比べてみる。このマウスピースとリードの隙間がオープニングだがこうやって見てみると確かに随分と違う。それにしても何やら魚の口みたいだな。

 さてそれではオットーリンクのマウスピースを試してみるかとネックに付けようとしたらコルクに引っ掛からずに緩々で全然固定されない。セルマーの丸穴に比べて径がかなり大きい様だ。何だこれ?オットーリンクはこんなに穴が大きい物なのか?これでは使い物にならないではないかとリペア工房に行った時にマスターに質問したら、確かにオットーリンクは穴径が大きいので一つのネックでセルマーとオットーリンクの共用は不可能、どちらかの径に合わせてコルクの太さを変えるしかないとのことだった。今の段階でどちらにするか決められないからこれは困ったことになったと思ったら、マスターがそういう時のための対処法を教えてくれた。

 水道管のジョイント部のネジ山に巻き付ける防水シールをコルクに巻き付けて太さを調整するとよいと教わって、防水シールを分けてもらった。

 早速コルクに巻き付けてみる。

 取り敢えず取り付けることができた。これで何とか試すことが出来そうだ。

 更に今度はリードの話に移る。

 アルトも同様なのだが、リードが本当によくわからない。一般的にリードはばらつきが多くて10枚入りの箱で当たりは3枚というのが通説の様だが何が当たりで何が外れなのかが全く分からない。取り敢えずネットからの情報でアルトもテナーも数枚を数日毎にローテーションして使っているのだが同じリードでも日によって鳴らしやすかったり鳴らしにくかったりして日々うまく鳴らせる様に吹き方を変えてみたりととにかく試行錯誤の連続である。とにかく音が上手く出ないのはリードが駄目なのかそれともマウスピースやリードの選択を誤っているのかそれとも単に下手なだけなのか分からないので悩みは尽きない。そんな悩みの中、工房のマスターがズバッと一言”樹脂リードを使え!”。マスターは仕事で常に試奏をしているがもう樹脂リードオンリーとのこと。とにかく初心者のうちはできるだけ調整パラメータを減らして機材を安定させないと練習にならないと思い樹脂リードを試してみることにした。

 樹脂リードといってもたくさんの種類があってどれを選んでよいやらよくわからないのでネットでそこそこ評判がよく値段が安いヤマハを試してみることにした。硬さは真ん中の2-1/2にしてみる。

 見た目は普通のリードの様に見えるがさてどうか。まずアルトから試してみるが、ケーンのリードと微妙に鳴らし方が違う感じがするがコツがわかるとすっと鳴る様になった。音的には硬くて確かにプラスチックが振動している様な音に聴こえる。ケーンのリードの方が高音が程良く抑えられたナチュラルな感じの音なので素材の違いがそのまま音の違いになっている様に思われる。テナーの方はアルト程の顕著な差はないものの同じ傾向にある。いずれにしてもちょっと使っただけで良し悪しを判断できる能力は私にはないのでとにかくしばらく使ってみるしかない。

 更に更に、オットーリンクのマウスピースは吹いているとリードが動いてしまい吹きづらい。リガチャーのねじを締め直しても改善せず、今度は何だよと思いながらマウスピースをよく観察してみるとネジと一緒にリードを押さえつける役目を果たすはずの金属の板(矢印の部分)がぐらぐらと動いていてリードを全く押さえつけていない。どうやらネジが金属板を押さえられていないからネジを絞めても金属板はフリーのままで機能していない様だ。修正しようにもどうにもならないのでこれはどういうことかとネットで調べたらオットーリンクの純正のリガチャーは壊れやすいので交換必至という書き込みがあちこちで見つかった。このマウスピース、値段が安かったというのはあちこち瑕疵のある粗悪品だったということか。まあマウスピース本体は使えるからこれでよしとすべきか。これから代替品のリガチャーを探さなければ。そしてオットーリンクでいくと決めたならネックコルクの巻き直しもやらなければ。

 やれやれ、マウスピースにリードにリガチャー、そしてネックのコルクとまだまだ調整して慣れていかなければならないことが山ほどあって奏法の上達の前に立ち塞がる障壁が多過ぎる。まさに泥沼にはまってしまったという感じだ。サックスという楽器の面倒臭さを改めて痛感している。元来無精者の私がこの試練を乗り越えて果たして先に進めるのだろうか。とにかく粘り強くこの楽器と付き合っていくしかない。ひとつひとつ問題点を潰していって、毎日少しずつ少しずつ前進していこう。