ギターオーダー

 今回もギターの話。先月末のブログの続編だが、結論から言えばやはり思った通りの展開になってしまった。

 8月末にブログを書き終えてから、カスタムギターについてネット上を何となく見て回り始めた。
 まず起点となるのは作るべきギターがローランドのGK出力対応でなければならないということだが、これについては以前ギター内蔵用のピエゾピックアップユニットとそれをGK出力に変換するコントロールユニットがキットになったものが市販されているのを知っていたので、それが今でも入手可能かどうか調べてみたら普通に買えることが分かった。ただ、ネット上をあちこち徘徊してもこれを実際に組み込んで作られたカスタムギターの実例が全く見つからないのがかなりの不安材料。まあ世の中にGKピックアップを搭載した市販のギターが凄く少ないことを考えれば、そもそもニーズ自体がないということなのだろう。実例がないなら自ら試すだけだと、勢いがついた状況ではポジティブシンキングしか出てこない。そうこうするうちにどんどん妄想が広がっていき、頭の中がカスタムギターのことでいっぱいになってしまった。こうなってしまってはもうこれは実行に移すしかない。
 次に考えるべきはオーダー先のギター工房をどこにするかということ。これには全く予備知識がないので一からネットで情報を得るしかない。調べ始めてみると、予想以上にカスタムギターを製作する工房があることが分かった。思った以上にカスタムギターのニーズはあるらしい。数ある工房のページをひとつひとつ訪問して内容を見分していくのがなかなかに大変で時間が経つにつれて集中力が失われてきた。若い頃は自分の好きなことや欲しいもののことならいつまででも嬉々として調べたり考えたりできたのだが、それが今では確実にできなくなっていることに改めて気が付いた。歳を取って来ると物欲が枯れて来ると言われるし、事実自分でもそう思う時がしばしばあるが物欲が枯れるというのは欲しいものについて調べて知識を得たり欲しいものを具現化して選んで最終的に一つのものに絞り込んでいくという作業が大変になってやりたくなくなるということなのかも知れない。自転車のフレームをオーダーする時にはここまでしんどかった気はしないので、やはりギターというものの価値が私の中では自転車とは比較にならない程の存在感があるものだということも改めて認識した。それから数日間かけてネット上をあちこち見て回り実際に訪問可能な場所にある1つの工房に辿り着いた。絶対にここだという確たる何かがあるわけでもなかったが、ホームページの中にあったYAMAHA SGのリペア作業の様子の記事を見て私的にYAMAHA SG好きな人間として何となくシンパシーを感じたので、取り敢えずそこにメールで問い合わせてみることにした。
 メールに大雑把なこちらの希望する仕様を書いて送ったところ全て実現可能という返事が来たので早速工房訪問のアポを取った。
 翌日の午後、車にサンプルにするギターを2本積み込んで、工房に向かった。

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 車で小一時間の距離の鶴ヶ島の住宅街の中にある工房に到着。事前に工房の様子はホームページで確認していたが到着してみると確かにプレハブだった。扉を開けて中に入ると工房の主人御本人が出迎えてくれた。挨拶もそこそこに早速オーダーギターの打ち合わせを開始。持参した2本のギターを取り出し作業台に乗せて二人とも立ったままで、あれこれ説明しながらこちらの希望を伝えていく。御主人はこちらの要望を特に反論することもなく受け入れてくれる感じだ。もっと色々と工房側から修正や逆提案みたいなものがどんどん出て来るかと身構えていたがそんなそぶりは全くないので拍子抜けした。1時間みっちりかけて仕様を詰める打ち合わせは本当に楽しかった。御主人がこちらの要求を全て汲み取ってくれて仕様に落とし込んでくれるのは流石ベテランのルシアーという感じ。最終的に大雑把な仕様を確認し金額を見積もってもらった。金額的にはメジャーブランドのハイクラスのカーボンバイクフレーム程度になったが他の工房の金額に比べれば低い金額だったし怖気づくことは無かった。納期的には現状バックオーダーを抱えているということで来年2月位から製作を開始して出来上がりは来年の夏から秋にかけてということ、平たく言えば納期は1年ということになるがこれも個人工房へのオーダーならばそういうものだろうということで納得。そういうわけで正式に製作をお願いすることとなった。
 工房を後にして帰宅までの車の中で、遂に自分だけの唯一無二のギターをオーダーしてしまったという非日常的な出来事の静かな高揚感に浸りつつ、でももうこれでギター探しの旅はいよいよ終わりが見えたというほんの一抹の寂しさみたいなものを感じた。

 工房から戻ってからというもの、もう暇があればカスタムギターのことばかり考えていた。欲しいもののことをここまでのめり込んで考えているのは高校生の頃以来という感じか。そういう自分を傍目で眺めて妙に懐かしい気分になる。ただ、若い頃と明確に違うのは疲れるということだ。ネットをあれこれ徘徊するうちに今まで知らなかったギターに関する新しい技術が色々と出てきて勉強になる。ネックの補強材にカーボンやチタンの棒をトラスロッドとは別に埋め込むというのは知らなかったので早速追加してもらったり、フレットの形状や材質を更に追い込んで特定の型番を指定したり、工房とメールでやり取りをしながら更に仕様を詰めていく日々が続いた。更に2週間が経過して塗装を除く大方の最終仕様が固まった。見積もりの金額が更に膨らんで遂に¥500kを超えてしまったが、これを見ても全く躊躇しない自分に驚いている。これが自転車やその他の物だったら絶対に怯んでしまうはずなのに、ある意味自分の音楽人生の集大成みたいなものだから自分の中で完全に納得できている。

 今はギターの塗装をどうするか、暇があればネットを徘徊して様々なギターの塗装を見て回っている。1本一回きりの塗装なので悩ましいことこの上無いがとても楽しい。
 何だろうな、ちょっと大袈裟かも知れないけれど55年間生きて来て最も意義のある買い物をした様な気がする。とにかく完成品を見るまでは絶対に死ねない。完成予定は1年後、正に指折り数えて待つことになる。このワクワク感が1年も続くのかと思うとそれだけで嬉しい。金額的には半端ないが仕事をする大義が明確に存在するというのは労働意欲を確実に向上させる。頑張って働いて稼ぐぞ。

 

 さて、今日で9月は終わり。世の中的には明日10/1で首都1都3県を始めとする緊急事態宣言が解除され、局部的な県独自の要請を除いて日本全国的には蔓延防止等重点措置等の自粛要請への移行もなく完全解除される。実に9ヵ月振りのアラート無しの状況に戻るということだ。第5波は専門家も予測できなかった程に急激な下降を辿ったものの東京都の陽性検出率は現時点で2%台まで下がることは無かった。この1年半の推移を見れば3%台だと再び感染の波が来る可能性は高い。相応に覚悟しておく必要があるだろう。マクロ的な視点で見ればここで感染抑制策を緩めることについては懐疑的にならざるを得ないが、ミクロ的視点で見れば少なくともブルベは支障なく走ることができる様になる。ずっと先送りし続けていた自団体のブルベも突貫工事で10月ひと月の開催に向けて準備を整え、私自身もそれに乗っかって走ろうと思っている。10月は全ての週末がブルベとなる過密スケジュールとなる見込みだが取り敢えず公共の要請に模範的に従って丸9か月自粛した身としては、何の気兼ねもなく走るつもりだ。まずは明後日の再開1本目の600kmを確実に完走できる様に粛々と準備を進める。