第7ステージ:CARHAIX-PLOUGUER〜BREST(区間距離:93km、総距離:618km)
23時半前にスタート。かなり寒く、アームカバー&ニーウォーマーだけではしのぎ切れそうになかったのでウインドブレーカーを着る。いよいよ折り返し地点のBRESTへのアプローチ、区間距離も93kmと長く正念場だ。
暗い山道を登ったり下ったりしていると再び眠気が忍び寄ってきた。いよいよ睡魔との闘いの火蓋が切って落とされるのか。
しばらく走っていて、いつまでたっても登り続けていることに気が付いた。これが事前にチェックしていたBREST前の20km程の上り坂って奴か。とにかく暗闇なので周囲の状況がよくわからない。遠くに見える前走者の赤いテールランプと、折り返しの対向者の白いヘッドライトだけが勾配を漠然と伝えてくる。見上げると前走者のテールランプが随分高い位置に見える。それが星なのかと見まがう程の高さなので余程の高低差を想像させる。同じ位置から小さな白い点が現れ、それが徐々に高度を下げながら大きくなってくる。すれ違う時、それが折り返しのライダー達と認識できる。時折集団で坂を下りてくる時など、暗闇に白い光の集団が音も立てずに近づいてくるのは何とも幻想的な光景だ。映画の「未知との遭遇」を髣髴とさせる。
とりあえず登っている間はそれ程眠気はこないので助かる。えっちらおっちら登って行くうちに開けた平地に出た。どうやら山頂に到達したらしい。ちょっと走ると今度は徐々に下り始めた。長い下りの始まりである。
下り始めると間髪入れずに眠気が襲ってきた。視界がボケてきてもうなんかまともに走れない。スピードを殺しふらふらしながら下るがこれはもうどう考えても10km以上の坂を下り切るのは不可能だ。道端で寝るしかない、必死に下りながら道端で寝られそうなところを探すが、延々と森が続いて休めそうなところは見当たらない。ようやくちょっとした広場の置く倉庫の様な小さな建物を見つけ、バイクを停めた。真っ暗だが選択の余地はない。国内のブルベでも経験のない初めての路上の仮眠である。軒下に座り込んで眠ろうとした。
その時目の前に1台のバイクが止まった。何やらフランス語で話しかけてくるのでどうやらフランス人ライダーの様だ。言葉が分からないのだが、どうやらその人もここで仮眠したい様だ。
以下、推測も含む会話の全容。
F「隣に座ってもいいか」
私「いいよ」
私が時計のアラームをセットしているのを見て、
F「何時にセットするのか」
私「2時」
F「じゃあ俺もそうする」
フランス人はおもむろにエマージェンシーブランケットを取り出し、
F「こういうのを持っている。半分使うか?」
私「いや、遠慮しとく(さすがに男二人で包まるほどの状況じゃないだろう!)」
座ったまま目を瞑る。寒いなあ、眠れるかなあ・・・、と次の瞬間アラームが鳴った。時計を見るとちゃんと20分程経過している。眠いが長居するわけにはいかない。隣のフランス人はまだ寝息を立てている。起こすのも忍びないので、そのまま立ち去ろうとすると、フランス人も目覚めて慌ててエマージェンシーブランケットを畳み始めた。再び坂を下り始める。20分程の仮眠だったが効果は絶大、さっきまでが嘘の様に視界くっきり、スピードに乗って下る。
長い下りをこなし、幾つかのアップダウンをやり過ごし、ぽつぽつと民家が増え始めた丘を越えたその時眼前に無数の街灯が光る港町の風景が広がった。遂にBRESTにやって来た!
下り基調でどんどん街が近づいてくる。大きな橋を渡りながらオレンジ一色の街灯にライトアップされた港町の夜景を堪能する。BRESTはかなり大きな街の様で、パリ郊外と同じ様な都会の感じがする。(商業的な看板が点在し壁には落書きがあったりする)
海沿いの人通りのない夜の街の中を走り抜け、再び山の方向に少し登ってBRESTのコントロールポイントに到着した。チェックタイムは4:26。
体育館の様な建物の中にバイク置き場がありかなりの数のバイクが止めてある。バイクを停め中を見渡すと、エマージェンシーブランケットにくるまって寝ているライダーが壁際の至る所に転がっている。これが噂の“マグロのホイル包”ってやつか。相当な数のホイル包は壮観な眺めである。
ここで、時々埼玉のブルベで一緒に走ったことのあるHさんに出会った。久々の日本語の会話、彼は既にここでの仮眠を終えて出発するところだった。エールを交換し分かれる。そして私は腹ごしらえのためにフードサービスの建物へと向かった。大したメニューはなかったのでパンをコーラで流し込む。30分程休息を取る。