8/23(金)、身体各所の鈍い痛みで目が覚めた。時計を見ると0時半過ぎ。昨夜は21時過ぎに寝落ちして3時間位気絶していた。全身の痛みが夢なのか現実なのかわからないままベッドの上でのたうち回る状態がなかなかに壮絶な体感。極度の疲労状態から回復モードに移行した身体の不思議、滅多に経験できないのである意味貴重だ。
再び寝落ちして何度か目を覚ましつつ眠り、6時過ぎに目を覚まして何となく二度寝できなくなってしまったのでぼさっとPCを眺めているのだが、出走前までは普通に読めていたPCの文字が物凄く読み辛くなって難儀している。この6日間で遠視が一気に進んだ感じ。これは一過性のものなのか?元に戻るのかちょっと心配。
ゴールして24時間が経過して、全身の倦怠感は勿論あるが特に痛みが酷いのは腰と両掌の掌底部と両足裏と尻。要するに自転車と繋がっている部分が全て激しく痛んでいる。逆に脚攣りは全くなかったし膝も大丈夫だった。バイクとの接続部が先に壊れて踏めなくなってしまったので結果的にその他の部分のダメージが軽減されたということだろう。これから考えてバイク身体との接合点増やす意味でDHバーの装着を検討してみる価値はあるかも知れない。
7時半になったので朝食に降りていく。
テラス席に座って朝食。底なしの空腹感で無限に食べられそうだ。
何度もお代わりをして最後はいつもは朝には食べないケーキ類でとどめを刺す。空腹だと何を食べても美味しいのでひたすら幸せ。
朝食を終えて部屋に戻って再びベッドに横になる。今日をどう過ごすかはとにかくバイクパッキングを終わらせてから考える。多分この体調だと観光はなしかな。
再び寝落ちして目覚めたら12時過ぎ。まずはバイクを輪行ケースに収納してしまわないと落ち着かないので意を決してベッドから起き上がり分解作業を開始する。ペダルが固く締まっていて酷く痛む両掌では力が全く掛けられなくてびくともしないのでしばし途方に暮れてしまったが、高価なデジタルトルクレンチを壊す覚悟でハンマー代わりにして引っ叩いたら何とか外れて一安心。
掌と腰が痛くて死ぬ思いでもたもたと1時間かけてバイクパッキングをやり切った。これで今日のパワーは全て使い切ってしまったのでやはり観光はなしかな。バイクパッキングが終わって一気に気分が楽になった。明日帰れる気がしてきた。
恐らく私の人生で最初で最後のイタリアなのにどこにも観光に行かないとは何と勿体無いことかと理屈では解っているのだが、病人レベルのボロボロの身体だと全然勿体無い気がしていない。今日はあとホテルから100mの昨日のレストランまで(と300mのスーパー)まで往復できれば十分。今日の夕食でイタリアで最初で最後のピザを食べようと思っているのだが一発勝負で一体何を食べればよいのか見当もつかない。インターネットを眺めながらにわかピザ研究に没頭する。パスタは昨日食べたペスカトーレをリピートで既に決定済み。結局午後はベッドの上で寝たり起きたりを繰り返しつつ過ごし部屋から出ることはなかった。
18時を過ぎたので起き上がって部屋を出る。
昨日と同じ店の同じ席で第2回打ち上げ開始。
今日も疲れ過ぎでいまひとつ酒を飲むという感じではなかったが一口ビールを飲んだら旨くて一瞬でテンションが上がった。ビールは百薬の長だな。
庶民的で気負わず小奇麗な店内はまだ客は殆どいない。昨夜と同じ様にそのうち席が埋まり始めるだろう。
今日の目当てはピザ。普段は殆ど食べないがせっかくイタリアまで来たのだから本場のピザ位食べて帰らないと日本に帰ったら馬鹿にされるかな。ピザは色々調べたが結局何を頼んで良いかわからなかったので店の特製ピザにした。日本で食べたことのあるピザはどれも味も濃くてくどい感じだし生地も重くてちょっと食べただけですぐに飽きてきてお腹いっぱいになるのでピザを食べるという習慣はまったくないのだが、これは生地は軽く味付けも絶妙に控えめで具の素材の味が良く出ているので飽きが来なくてどんどん食べたくなる。旨い、文句なし。
そしてパスタは昨日と同じペスカトーレ。美味。
イタリアのレストランに独りで飛び込んで楽しく食事ができたという紛れもない事実はイタリア遠征の良い思い出の一つになるのは間違いない。この写真を見る度にそれを思い出すことになるだろう。
てきぱきと動いて気さくな店のお兄さんは私が昨日も来ていたことをちゃんと覚えていてちょくちょく話しかけてくれたりする。食事を終えて会計を済ませて帰ろうとしたら”See you tomorrow”と一言かけられた。その言葉を聞いて急に明日帰るのが惜しい気になってしまった。この店の常連になるためだけにこの街に住んでも良いかなと思いつつ店を出る。
食事を終えて店を出たら19時半前、今日はまだもう少し飲めそうな感じだしイタリア最後の夜なので部屋飲み用のビールを買いに行きつつ駅の周辺をもう一度歩いてみることにする。
念のため空港までのリムジンバスの乗り場を確認。明日は鉄道で空港まで行くつもりだがもしかしたら急に気が変わってバスに乗るかも知れない。
街中をぷらぷらと歩いているだけで楽しい。自分がその街の一部になり切ってしまった様に感じたいと思うことが私の観光の目的だと思う。
ミラノ中央駅の改札をチェック。
駅前の広場の横には軍の兵士と思われる人達が剥き出しの自動小銃を持って立っている。駅周辺は治安が悪いと教えてもらったが、治安維持のために配置されているのだろうか。だとすれば結構な危険地帯なのかも知れない。今はそんな雰囲気は全く感じない。
私のイタリア・ミラノ観光の風景はミラノ中央駅の周囲だけで完結した。ひとしきりぶらついて買い物をしに再び駅舎に入って地下のスーパーに向かう。
店内を見て回っていたら日本語のパッケージの食べ物を見つけた。餅シリーズだがこれは逆に日本では見たことがない。
買い物を終えてホテルに戻る。今日も食事をしたレストランの前を通過。いつかこのレストランでまた食事をすることを主目的にしてイタリアを再訪したいと思う時が来るかも知れない。果たしてそれが実現可能な老後を迎えることができるだろうか。
日が暮れてきた。そろそろ危うい時間帯に入るのだろうか。
20時過ぎに部屋に戻って来た。明日は11時のフライトなので6時半にはホテルを出なければならないので5時半にアラームをセットしてから、買ってきたビールで部屋飲み2次会をぼちぼち始める。スーパーでマーマレードとチョコのクッキーを見つけて買ってきた。日本で昔売っていた好物なのだが今では全く見かけなくなった。PBPの時は必ず買って食べているのだがイタリアでも見つけることができてよかった。
ゴールして時間が経過して一眠りして心身共に落ち着きを取り戻して、改めて今この瞬間の状況を認識してみる。今、間違いなく1001Migliaを走り終えている。しかも完走という最高の形で終わっている。が、感情の爆発の様な喜びはなかったのはまだ完走したことを実感できていないからだと思う。それにはちゃんとした形で公式リザルトを確認する必要があるのではと思われる。一方で、何年もの間私の頭の中を占拠してきたプレッシャーは消え失せた。解放感というよりプレッシャーのあった場所がぽっかりと空洞になってしまった様な感じだ。この空洞が何で満たされていくのかを確認するにはもう少し時間がかかりそうだ。そして、この完走をもってヨーロッパ4大ブルべと呼ばれるPBP、LEL、MGM、1001Migliaを全て完走した。2011年にPBPを初めて完走してから漠然と抱いていたブルべの最終目標を遂に果たすことができた。この目標をクリアすることも相応のプレッシャーだった。2020、2021年はコロナ禍でDNSとなり年齢的な限界を超えてしまったかと思ったが結果としてぎりぎり間に合ったか。私的にはかなり大袈裟な例えだがツール、ブエルタ、ジロの三大グランツールで総合優勝を果たした位のイメージだ。自分の身の丈を遥かに超えた人生の目標を立てて不慣れな海外遠征もあり相応の精神力をつぎ込んできた。正直辛いことが多く、この完走にブルべ引退を賭けて臨んだ。走り出すまでのプレッシャーが辛いブルべを辞めるためにブルべを走るというのもおかしな話だが、何故ブルべを走るのかという原動力が何なのかまだよくわかっていないことがわかった。取り敢えず私的に引いた引退条件は揃ったが、すぱっと辞めることはないと思う。ただもう高いハードルを設定して自分を追い込むのは止めようかな、と取り敢えず今は思う。
それにしても1001Migliaのコース運営はかなりいい加減で参った。公式GPSデータは間違い多数で多分作成者も気付いていない滅茶苦茶なショートカットが引かれてたが、参加者はそこにシークレットがあるかもと律儀に通過していた。CPも分かりにくく時間によっては無人で簡単にスルー出来てしまう。グラベルどころの騒ぎではない畑の真ん中を走らせたりこれはもうブルべじゃないと途中さすがにブチ切れてスタッフにひとくさり文句を言ってやろうかと思ったが、恐らく”それでも完走したんだからいいじゃないか。結果を楽しめ”とあっけらかんと返されそう。とにかくこれがイタリアンブルべだった。でももう酷くて辛かったことには変わりはないので次はない。一発完走できて本当に良かった。もしこれでDNFだったらダメージは半端なかったと思う。
とにかく完走できたから言えることだけれど、今の時間が本当に楽しい。出不精で外国嫌いで小心者の人間が独りで初めての国を楽しんで歩いていることができているなど若い頃の自分には想像つかなかった。過去の海外遠征の度に毎回同じことを思っているのだが、開放感とか達成感とか自分の成長?変容?を楽しめる瞬間があるというのが貴重な非日常体験のひとつだと思う。
だらだらとビールを飲みながらPCを眺めてとりとめもないことを考えているうちに眠くなったので夢の中へ退場。消灯時刻は22時過ぎと思われる。