MGM2018/Report 19:総括

 MGM1200を走り終えてそろそろ2か月が経とうとしている。10月の半ば位にRandonneurs Mondiaxのホームページにリザルトが掲載されているのに気が付いた。(下記ホームページで「YEAR」を2018、「EVENT」をMadrid-Gijon-Madridを選ぶと絞り込みができる)

http://www.randonneursmondiaux.org/35-Compilation.html

  また、MGMの公式ホームページにもリザルトが掲載された。

Homologaciones IV edición MGM 1200k 2018

 この中に自分の名前を見つけてホッとした。無事に正式に完走認定された。完走時間は87時間5分、ということはスタート時間は20:30だった様だ。

 今回の完走者は139名、確かエントリーは200名を超えていたはずなので実際に出走した人数は定かではないが200名だったとすると完走率はおよそ70%ということになる。また、過去のMGMのデータはこんな感じらしい。

2005年 出走272名、完走188名、完走率69%

2009年 出走173名、完走141名、完走率82%

2013年 出走123名、完走88名、完走率72%

 PBPの平均完走率が80%位なのでやはりMGMは難易度は高めということが言えそうだ。

 走り終えた直後は両手の薬指と小指が酷く痺れ、指の力が思う様に入らず実生活上も多少不都合が出る様な状態になり、2か月経ってようやく大方治ってきたもののまだ右手小指の痺れは残っており感覚も完全には戻っていない。記憶の改竄はそこそこ進んでしまったが、この指の痺れがハードだった走行中の印象を呼び覚ましてくれる。

 ルートについて、基本的なレイアウトということでは小さな街と街を結ぶ車通りも少なく信号も全くない田園の中の道の繰り返しということでは基本的にPBPやLELと似ているが、風景が全く違う。以前からブエルタ・エスパーニャ等のスペインのレース映像で見てきた草木の少ない茶褐色の大地と灰色の岩肌剥き出しの山の風景が非常に印象的で、是非そこを走ってみたいという思いを募らせてきたが、実際に走ってみると正にレース映像で見たまんまの風景が眼前に展開しているのには非常に感動した。砂漠ではなかったが枯草や土の地面が広がっていて荒涼とした風景を作り出していた。PBPやLELは緑も多く日本と似たところがあるがスペインは大きく違っていて非日常性と寂寥感が強調され強く印象に残った。アップダウンに関しては、LELは距離は短いが勾配が急なアップダウンが結構出てきたが、MGMはそんな鋸の歯の様な感じではなく緩やかな丘が続く感じでどちらかというとPBPの方が近いと思う。山岳に関してはPBPやLELでは1000m級の明確な山はなく最高標高地点がせいぜい500~600m程度の高い丘越えが1つ2つという感じだったが、MGMは日本の山岳ブルベの様な標高1000mを越えるはっきりとした山岳ヒルクライムが出て来る。MGMでは距離40kmで1200mを登るという超級ヒルクライムがある一方ではっきりとした長距離の平坦区間も出てくる。PBP、LEL、MGMの総獲得標高差は大雑把に11,000m前後で似通っているが、PBPとLELはずっとアップダウンの連続というのに対しMGMは登りと平地の区別がそこそこあってメリハリのあるルートと言える。MGMの特徴としてはMadridから500km付近のPonton峠までは標高で800m前後の高地をずっと走り、Ponton峠から海沿いの都市Gijonまで下りとなっている。復路はその逆で大雑把にいうと往路は下り基調、復路は登り基調である。また、ところどころで路面状態が非常に悪い区間があった。AtienzaとAyllonの間、Ayllon寄りの20km近い道は舗装路ではあったが路面は穴だらけで非常に走り辛かった。両手に大きなダメージが残ったのは多分この区間の影響だと思う。総合的に考えてルートだけを見ればMGMは簡単ではないがサイクリングには楽しいルートだと思う。

 ルートとしては楽しく走れるはずにもかかわらず、実際にはかなり苦しめられたブルベとなったのは一にも二にも強い日差しのせいだった。事前に暑いという情報はさんざん聞いていてそれなりに覚悟をしていたつもりだったが、予想を上回る日差しの強さで正に悪魔の太陽との戦いがMGMの大筋の印象を決定付けた。東京の暑さは蒸される暑さで不快感を伴うが、スペインの暑さは焼かれる暑さできつく苦しい。汗は勿論掻いているが体外に放出された瞬間に蒸発するので濡れるという感覚が全くない。塩も出るが砂の様にサラサラなので直ぐに吹き飛んで白く塩溜りになることはない。道脇には樹木は殆どなく常に太陽に照り付けられている状態が長く続く。一番暑い時のサイクルコンピュータの温度表示は35℃位だが体表温度は40℃を軽く超えている感じだ。スペインの朝は遅く7時を過ぎないと朝日が見えず、逆に20時を過ぎないと日が沈まない。10時から20時までの10時間暑さとの闘いが続いた。塩分補給のために干し梅の大きめの袋を携帯していたが往路のうちに食べ切ってしまい、塩分補給にはかなり苦労した。私的にはボトルには真水を入れるのだが、喉は乾くが真水を飲みたくないというイレギュラーな状況が発生し結構苦しめられた。仮眠ポイントで寝ようとして横になった途端に全身各所が攣り始め寝るどころではなくなったりと低ナトリウム血症の様な症状が出て、水以上に塩の重要性を嫌と言う程思い知らされた。スペインの酷暑に対する有効策は正直これといって思いつかない。その時間帯に走らないというのが一番だがそれだと走行時間が足りなくなるので現実的には難しい。日焼け止めや全身を覆って肌の露出を防いだ方が結果的に涼しくなるという話は聞くが、サイクリングにおける体熱処理を考えると私的には懐疑的にならざるを得ない。MGM走行中にそこそこ有効だと思った対処法は運動強度を上げずに体温を上げない様にすること。2日目からは心拍をリカバリーレンジから上げない、LSDレンジ後半に入れたらレッドゾーンと決めて走ったのが結果的に有効だった様に思う。もしまたMGMを走ると想定したら、取り敢えず干し梅を10袋携帯し運動強度を上げずに走って1時間から1時間半走ったら必ず休憩するというのが現実的な対処方法ということになるだろうか。
 一方、夜の寒さについては事前情報の通りだった。気温一桁を経験したが最も寒かったと思われる往路2日目の深夜のPonton峠でも5℃を下回るということはなかった様に思う。確かに寒いが私的に寒さにはそこそこ耐性がある身としては半袖ジャージ&レーパンにアームウォーマー&ニーウォーマー、ウインドブレーカー、MGM反射ベストで何とか対処できた。強いて言えば指付グローブは持って行った方が良かったと思う。走行中は何とかなったが、1、2泊目のCistiernaでは毛布がなかったため上に掛けるものがなく寒い思いをした。これはドロップバッグにスエットジャージ上下を入れておけば対処は可能である。総じて、寒暖の差が激しいスペインの気候ではあったが低い方は着る物さえ工夫すれば対処可能、高い方はどうにもならないので耐えて走るしかないといったところだ。

 イベントの内容に関して振り返ってみる。PBPやLELと比べてPCの数は少なく区間距離は長めで100km超の区間が結構あった。これはスペインの酷暑と組み合わさるとハードな設定になる。各PCは基本的にその街にある学校やスポーツ施設、バルに設定されていて基本的にコントロールの機能のみ、飲食物の提供はあったりなかったりという感じだった。コントロールがバルだったり、コントロールの傍にバルの様な店がある所ではそのバルが食べ物を提供していたがその内容は各々のバルのやる気次第という感じだった。折り返し地点のGijonでは主催者がフードコートを用意していて無料だったが、その他のPCでは全て有料だった。食事で量・質共に満足できたのはGijonのフードサービス、次にTortoles of Esguevaの€7の一皿盛り放題のフードコートはかなり充実していて量もそこそこあったが、それ以外は殆ど選択肢がなく御世辞にも充実していると言える内容ではなかった。恐らく多くの参加者はPC以外で補給を摂っていたものと思われるし、私自身もPBPやLELではPC外補給は全くなかったにもかかわらず今回はPC外で何回か補給をすることとなった。PBPの食事はかなり充実していたし、LELではPBPと比べれば少なかったが不自由することはなかったが、それらと比較するとMGMは相当少ないと思う。仮眠施設については今回CistiernaとAyllonを利用したが両方とも体育館にマット運動用のマットがせいぜい20枚程用意されていただけで、Ayllonには毛布が用意されていたがCistiernaにはなかった。ドロップバッグが行われたCistiernaでこのレベルなので他の仮眠可能なPCでもこれを超えるものではなかったものと想像できる。これ位の数でも少なくとも私が利用した時間では埋まることはなかった。他の人達は仮眠施設でまとまって寝ていないか、昼間利用していたのかも知れない。少なくとも寝床を確保できないということにならなかったのは良かった。仮眠施設では両方ともシャワーは利用できた。御湯が出なかったりボディーソープが無かったりということはあったが私的にはそれ程不都合には感じなかった。また、幾つかのPCではそれ程大きくはないが電子デバイスの充電ブースが用意されていた。あと、バイクメカニックサービスやメディカルサービスはなかったものと思われる。まあ、参加者が200名程度のイベントだとこれ位の規模になるのは当然と見るのが妥当ではないか。総じてMGMのホスピタリティは必要最低限、PBPやLELのレベルを期待すると痛い目に遭うことになるだろう。ホスピタリティが充実していなくてもそれもブルベの一部、コースや気候の特性と同じ様にスペインブルベの醍醐味だ。実際走行中も不満に感じたことはなかった。経験不足やリサーチ不足、準備不足は全て自分の責任だし、逆にその場で何とかしてクリアすることが最終的に完走した時の達成感・充実感を増幅してくれる。その他、各PCのオープン・クローズ時間が全て切りの良い数字になっていて厳密に計算されていない様に見受けられたり、スタート前日の受付に時間通り行ってもスタッフが集まっていなくて準備できていなかったり、復路では開いているはずの休憩ポイントが閉まっていたりと、あちこちに良い意味も悪い意味も含めていい加減な所謂”スペインらしい”空気が流れていて、そういう諸々をひっくるめてスペインのブルベを体験することができた。 

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  走行予定と実績を比較してみる。まず、各PCでの休憩時間を含まない走行時間合計を比べてみると予定60時間30分に対して実績62時間21分だった。実績の方では予定では考慮していないPC外での休憩時間が含まれるので実質走行時間合計は予定と同等か若干短いものと思われる。次にPCでの休憩時間合計は予定29時間に対して実績24時間44分だった。完走時間は予定89時間30分に対して実績87時間5分だったので早くゴールした分を予定より差し引いた予定休憩時間合計26時間55分で比較してみる。単純比較だとPCでの休憩時間が予定より短かったということになるが、仮眠PCでの休憩時間合計が予定23時間30分だったのに対し実績17時間38分と6時間近く短くなっていることを考え合わせると、睡眠時間を大幅に削ってそれ以外のPCでの休憩時間を延ばしたということになる。睡眠時間自体は4時間から5時間半位は確保でき、私的には最低限の時間ではあったが走行中に睡魔に襲われるということはなかった。ゴール直後のダメージは全身疲労は勿論のこと、両手の掌の打撲的な痛みと薬指と小指の痺れと握力低下、腰と背筋の痛み、尻は打撲的と擦過傷的痛み、両足の指の痺れと足首から先のむくみ等があり、ノーダメージに近かった2015PBPの時よりLELや2011PBPに近いものがあった。逆にスタート直後に見舞われた右膝痛は走行中に解消し最終的には全く問題なくなっていた。運動強度を落として走ったことにより負荷が軽減されたことによるものと思われる。身体的なダメージもさることながら酷暑の中を時には向かい風や登坂で延々と走り続けなければならなかった精神的な辛さもそれなりに記憶に刻みつけられ、今振り返ってもやはり相当にきついブルベだったと言える。

 総じて、今回のMGMは事前にある程度覚悟していたものの、極悪な太陽、夜は場所によって気温一桁、たくさんの登りと1本40kmのヒルクライム、20km近い悪路、長時間の向かい風等いろいろてんこ盛りの内容で予想よりかなりハードな内容だった。今年のスペインが特別暑かったということでもなさそうなのでこれがスタンダードなMGMのコンディションだと考えるとPBPやLELより私的にはハードルが高かった。スペインブルベの苦し楽しさを嫌と言う程に味わえたと思う。今振り返ってもこれをもう一度走るというイメージはちょっと持てない。リサーチ不足で無謀とも言えるチャレンジではあったが一発完走で来て本当に良かったと思う。もし完走できていなかったらリベンジがかなわない敗北感に苛まれて心の傷を一つ背負うことになっただろう。

 

 今回MGMを何とか完走できたので、ヨーロッパ4大ブルベ制覇まであと一つ、イタリアの1001Migliaを残すのみとなった。ここまで来たら狙わないという選択肢は多分ない。1001Migliaは2020年の開催予定、2年後の話だが確実に完走できる様に少しずつリサーチして準備したいと思う。(ヨーロッパ4大ブルベを4連続でクリアするとイタリアの団体からヨーロッパチャレンジとかいうアワードを授与されるらしいのだが、それは起点がPBPからと決まっていて、もしそれを取ろうと思うと来年のPBPから改めてスタートしなければらならない。そのアワードが欲しくないと言ったら嘘になるが、まあどう考えても無理なので獲りに行くという意識はない)

 以下、備忘録。

1. マドリッド空港からMadridまでは空港バスでバイクケースを運べそうだが、マドリッド市内及び郊外の街への移動は基本的バスになってそれらのバスは基本的に大きな荷物は積んでくれない。鉄道の駅のある街をイベント前後の基地にするのがベスト。
2. 空港からの移動で自走を選択する場合、マドリッド空港のターミナル4には24時間営業の手荷物預かり所があるのでそこにバイクケースを預けられる。
3. 手荷物預かりのコストはそこそこかかるので、それを考慮すると空港からタクシーでバイクケースと一緒に移動するというのも一考に値する。
4. 自走の場合、Google Mapに乗っている様な道でも未舗装路である場合があるので要注意。
5. 主要幹線道路は高速道路である場合がそこそこ多いが、自転車が走れる高速道路もある。見分け方は入口に自転車進入禁止の標識があるか否か。
6. データsimカードはSIM2Flyのヨーロッパ対応版を事前にamazonで購入した。NECのwifiルーターMR04LNで使用したが、現地では設定にちょっと手間取ったものの使用できた。取り敢えず各PCで繋がらないというところはなかったが全行程で使えるかどうかはは未確認。
7. エントリーの注意事項として健康証明書の携帯が義務付けられていたが、受付でも提示の必要はなかったしイベント中も提示を要求されることはなかった。
8. ドロップバッグは専用の袋をスタート前日の受付時にくれるのでそれに詰め替えて預ける。搬送場所はCistiernaのみ。
9. 各PCに用意されている食事は基本有料で質・量共に少ない。普通の人ならPC以外での補給の必要が出てくると思われる。
10. PBPの時はPCによっては便器に便座がなかったり汚かったりしたが、MGMではそんなことはなく私の見た限りにおいてはトイレで不自由をすることはなかった。
11. 仮眠所での夜は寒い。Tシャツ・短パンでは凌げない。毛布がない可能性があるので長袖上下とかエマージェンシーブランケットを持っておく必要がある。
12. 夜間走行時、星空が圧倒的に素晴らしい。高地で気温も湿度も低く360℃視界が開けた場所が多いのでシーイングは抜群。星空が撮影できるカメラや三脚を持って行くべき。
13. 各PCでは充電コーナーが用意されていた。USBケーブルや電源プラグがあれば利用可能。

14. ちょっと大きめの街には大抵バルがあるので休憩ポイントとして使える。

15. バルやスーパーでアクエリアスが普通に手に入る。ノーマルバージョンの他にオレンジ味がある。酷暑の地でスポーツ飲料が簡単に手に入るのは非常にありがたい。

16. 行程中、数は少ないがジュースの自動販売機がある。使えるコインは限られている様だ。(私が立ち寄った自販機は¢50コインしか使えなかった)
17. マドリッド空港のバイクケース預け入れは航空会社のチェックインカウンターで大型荷物専用カウンターがあるので便利。OS-500でもオーバーサイズチャージを取られることはなかった。(但し常時大丈夫かどうかは保証の限りではない)
18. 香港でのトランジットの場合、常に混雑していて通過に時間がかかるので注意が必要。
19. 費用はエアチケット、ホテル、滞在費等の総額で25万円弱だった。大雑把な内訳は下記の通り。
 エントリー:€195
 フライトチケット:107190円
 ホテル代(8泊分):€359.2
 バイクケース預け入れ費用:€120
 滞在中の費用(主に食費、打ち上げ代):€180
 国内交通費:6000円
 データsim:3400円
 健康証明書発行代:11680円

 

 さて、MGMから帰国して既に3本のブルベを走っているので、MGM走行レポートを書き終えても直ぐに次を書き始めなけれなならない。物書きではないから締め切りはないが時間が経てば経つ程記憶が薄れていくのでさっさと片付けないと拙い。今週末は今シーズン最後のブルベが控えており、先週末にやらかした遅刻DNSという失態の汚名をそそぐ意味でも確実に完走して今シーズンを締め括りたい。

 

 随分時間がかかったがこれで2018MGM1200の走行レポートは終了。ようやく物語は完結する。(が、映画の世界では主人公の意に反して続編が作られたりすることがあるので注意が必要だ)