オタマトーン

 1月の末のことだ。何となくツイッターを眺めていたらふとひとつのyoutube動画が目に留まった。何やらミュージシャンが演奏している風の動画だったので何の気なしに開いてみたら妙なものを手にしてオーケストラをバックに演奏している。

 何だこれは!?最初は何のパロディーかと思ったが見る見るうちに引き込まれて不覚にも感動してしまった。

 それにしてもこの物体は何だ?おもちゃのようにも見えるが楽器なのか?しかも異様に表現力が高い。即座にネットで検索すると確かに”オタマトーン”という名前で売られている。しかもあの明和電機製ではないか。こういうのを一度知ってしまうと試してみずにはいられなくなるというインチキミュージシャンの悪癖が出て来てすぐさまネットで中古品を探し回りメルカリで見つけて即購入。

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 直ぐに届いた。その名もオタマトーン・デラックス。

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 早速開封。あれ?動画で見たのよりずいぶんデカい様な。ネットで調べてみるとデラックスは普通のオタマトーンよりもかなり大きい。慌てて違うものを買ってしまったのかも知れないがまあいいや。

 取り敢えず色々と見回してみるが外形はオタマジャクシと8分音符を組み合わせたおもちゃ的楽器としてはなかなか秀逸なデザインだと思う。軸の音程を決める部分はスライド式のタッチセンサーになっている。顔の耳の辺りを両側から握って口を開け閉めするわけだが、口の中にスピーカーが入っていて物理的に口が開いたり閉じたりすることで音量や音質が変化するという単純な仕組み。でもまあ人間の口もそういう作りなので発声シミュレートという意味では正しいやり方なのだろう。

 さて、これをどうやって持って演奏すればよいのかさっぱり分からない。トロンボーンだとスライドは右手だがギター・ベースだとフレットは左手で操作する。どっちが都合が良いのが最初は良く分からなかったが数日間試行錯誤して何となく左手で尻尾を持って右手で頭を握るというポジションに落ち着いてきた。スライド式のタッチセンサーは当然無音階なので音程を安定させるのはかなり難しい。指一本で安定的にタッチセンサー上を行き来させるのはそれなりにコツがいる。試行錯誤するうちに左手の親指と中指で尻尾を軽く挟みタッチセンサーを中指で軽く押さえるというのが都合が良さそうという感じになって来た。

 何となくコツがつかめてきた様な気がするので、早速例のあの曲を練習してみた。その成果がこれ。

 曲もちゃんと理解できていないしピッチもリズムもかなり怪しいが何となく女性のソプラノヴォイスっぽい感じが出ているかな?

 それにしてもこの人間の声をシミュレートするという楽器は意外にありそうでなかったし、そもそもそんなものをやりたいなんて今まで思い付きもしなかった。それがあの動画を見た瞬間にちょっと嵌まってしまった感じだ。私自身は声も良くないし歌えないのだが、声で表現したいという願望を実は割と明確に持っていたというのは我ながら面白い発見だった。このオタマトーンを弄っていてちょっとやってみたい曲を幾つか思い付いたのでいずれやってみようかと思っている。この楽器を改良してもっとしっかりと作り込んでいけばもっと本格的なヴォイス・シミュレーターという新たな楽器が生まれるかも知れないという可能性を垣間見た気がする。でもまあそれを本気でやるのはもう明和電機さんの仕事ではなさそうだね。

 

 このNessun Dormaという曲を練習するために色々とyoutubeで聴いてみたのだがこれは凄く良かった。

 パヴァロッティという名前は取り敢えず世界三大テナーの一人ということは昔から知ってはいたがちゃんと聴いたことはなかったし、オペラなんて開けっ広げな抑揚が感動の押し売りみたいで毛嫌いしていてそもそも聴いたことがなかった。でも今回のこの出来事で思わぬ形でこの曲を聴くことになって素直にこの曲の良さを認めて感動している自分に驚いている。この人の声の素晴らしさには本当に感動してしまった。人間の声の表現というのはどの楽器も敵わないというのは本当かも知れないと感じてしまう程に圧倒的な技能・音楽だと思わずにはいられない。

 クラシックとかオペラとかが苦手なはずだったのに、こういうあからさまな感情表現をすんなりと受け入れられる様になったのはやはり歳のせいなのだろうか。まあ今回のこれは一過性なもので、これから直ぐにクラシックやオペラを聴き始めるということはないが、もしかしたら今回埋め込まれた音楽のインプラントがこの先アクティベートすることになるのかも知れない。

 

 オタマトーンとオペラ、ふとした弾みで思わぬ出会いがあった。音楽の世界は広大だ。