坂本龍一

 ブルベ対馬遠征から帰って来てそこそこ疲れて夜になってそろそろ寝ようかと思いつつツイッターを眺めていたら、坂本さんの訃報記事が目に入って思わず”えっ!?”と声を上げてしまった。ちょっと茫然となりその後滝の様に流れて来る各方面からの訃報記事を唯眺めているだけだった。つい先日高橋幸宏さんが亡くなられて、癌闘病中の坂本さんにもいずれそういう日が来るのかという思いが頭をよぎったが、まさかこんなにも早く訪れてしまうとは。頭の中で様々な思いがよぎり眠れなくなってしまったがそのうち疲れて眠りに落ちた。

 

 一夜明けて、その喪失感の大きさに私の中の坂本さんの存在の大きさを改めて思い知る。中学の頃にYMOを聴いて強い衝撃を受けて初めて坂本さんの存在を知った。その後YMOが解散してソロとなった坂本さんは次々と先進的な音楽を出し続けてきたが、私的にはジャズ・フュージョンに傾注してそことクロストークする坂本さんの曲が物凄くたくさんあって曲の中に盛り込まれた斬新なアイディアから多くの刺激と学びを得た。

 坂本さんの音楽の守備範囲は物凄く広い。ロック・ポップス・ジャズ・クラシック・民族音楽やボサノヴァなど手当たり次第に吸収して融合し、シンセやサンプリングなどの様々なテクノロジーを駆使して最良の音を選び出して作り上げられる音楽は常に的確で先進的だった。そしてとてもエモーショナルで絵画的な曲が非常に多い。その曲を聴いた途端に絵が浮かんだり雰囲気に呑まれてしまう程に心が動かされてしまう。感動という言葉とはちょっと違う、その曲が別世界の閉鎖空間を作り上げその中に否応なしに引きずり込まれるという感じか。そうやって様々なたくさんの曲が私の現実体験とオーバーラップして私の記憶の中に刻み込まれてきた。

 また、ソロピアノの曲では聴くだけでなく”弾きたい!”と思う曲がたくさんあって随分と練習させていただいた。今は弾けなくなってしまったけれど”Dear Liz”や”ゴリラがバナナをくれる日”などをコピーして悦に入っていたのを思い出す。

 私の音楽人生の中で強い影響を受けた人は数人いるが、坂本さんは間違いなくその主要人物の一人。私の音楽の審美回路の多くの部分は坂本さんの音楽を通して形成されたと言い切って過言ではない。

 坂本作品は膨大でまだ聴いたことのない曲もたくさんある。これから少しずつ見つけては聴いていこうと思う。

 

 そして晩年の坂本さんは原発・沖縄・反戦・環境問題に向き合い積極的に活動しておられた。神宮外苑再開発にも反対し小池知事に送った手紙が正に遺言となってしまった。正義と倫理と愛を音楽と合わせて発信し行動する姿に私自身も強く共感し、自分達の生活と素朴な幸福を守るために実際に声を上げ行動することの大切さを改めて認識させていただいた。私自身微力ながらその遺志を継がせていただければと思う。

 坂本さんの訃報に触れて”Sayonara”という曲が頭に浮かんだのだが、youtubeでこんな素敵なバージョンを見つけた。原曲もとてもハートフルでじんわり沁みて来るがこちらも優しさが沁みて来る。

 

 坂本さんの音楽のお陰で今まで多くの幸せな時間を過ごせたしこれからも過ごしていけると思う。

 私の人生の40数年間、たくさんの素晴らしい音楽とそれに彩られた感動と記憶を私の心の中に遺してくださって本当にありがとうございました。

Rest in Peace.