PBP2023/Report 1:序章・出発前日まで

 フランス遠征から戻って丸5日が経過。なかなか抜けなかった疲労がようやくここに来て軽くなってきた感じだ。帰国した翌日は下半身を中心に酷い倦怠感と筋肉痛で歩くのに難儀する感じで、特に両足裏前方の感覚がないのが相当な違和感でそれは今でもまだ残っている。両手の薬指と小指の痺れもまだ残っていてこれは当分治りそうにない。過去4回のPBP後の身体の状態を比較して、今回は初めて参加した2011年の時に近い感じだ。あの時は無謀にも80Hクラスで出走し71時間台で完走し文字通り全身がボロボロになって帰国したがあれから12年経ってその分の加齢による衰えがそのまま完走時間差になって表れた様な気がする。それでもとにかく今回も時間内完走を果たすことができて本当に嬉しいし相応のプレッシャーから解放され心身共にとても軽い。完走というより防衛したという意識が強い。前回できたことを今回もできたことがとにかく嬉しいし安堵している。

 心身共に回復し平常状態に戻ってきたところでPBP2023の走行レポートを書き始めることにする。これをやり終えなければ私のPBPは終わらない。ブログを書く作業は当時をもう一度追体験することだからなかなかしんどいのだがこれも今までやって来たことなので今回もやり遂げなければならない。いつ書き終えられるか分からないがとにかく書き始めよう。

 

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[目次]

エントリー

 2019年のPBPを走り終えた後、次の目標は翌年のイタリアの1001Migliaとなりこれを完走してヨーロッパ4大ブルベをコンプリートするという野望を抱いていたのだが、新型コロナウイルスが世界を蹂躙して1001Migliaは2020年は中止で翌年延期となりその2021年もイタリア渡航不能でエントリーをキャンセルせざるを得なかった。国内ブルベの参加も大きな制約を受けてブルベを走ることのモチベーション自体がかなり低下するという状況に陥ってしまった。2022年になってようやく諸々の制約の緩和が行われ始め翌年はPBPという状況になって、さてどうすると思案が始まった。そこで初めて我ながら気が付いたのだが、まだ私の中ではPBPの参加は当然の位置付けにあり”走る理由”を探すのではなく”走らない理由”を探すことが思案のしどころとなった。ひとしきり考えてはみたものの走らない合理的理由は全く見つからないのでモチベーションのあるなしに関わらずエントリーを進めることになった。

 PBP2023は前回の2019年と同様に、前年に認定完走した最も長い距離の単一ブルベが1000km以上の人から時期的に早くプレレジストレーションできるという、単一ブルベの距離が長い順に優先権が与えられるルールが踏襲されている。即ち最も距離の短い200kmのブルベしか認定されていない人がエントリーできる頃には既に定員一杯になっていてエントリーできないという事態も想定されるが、私的にはRM812北海道1300とBRM918東京1000を完走していたので最優先のプレレジストレーションの資格は得ていた。

 年が明けて今年の1/14に1000km+のプレレジストレーションが始まったけれどACPのPBP公式サイトのエントリーページになかなか繋がらない。このアクセスの集中具合を見ているとやはり今回も競争率は高そうだ。多少時間はかかったがようやくエントリーページに辿り着いて必要項目を入力する。今回も当然90Hクラスを選択。最終的に支払いのページまで辿り着いてエントリーフィーの一部€50をPayPalにて支払う。これでプレレジストレーションは完了した。

 この後は通常のPBP参加の必須条件である200km、300km、400km、600kmの4つの認定を受けて本レジストレーションを行うことになる。本レジストレーションは5/27~7/2なのでエントリー締め切りの7/2までには全ての距離の認定番号を揃えないと本レジストレーションに進めないことになるが、私的には特に意識しなくても例年通りのスケジュールをこなしていけば認定は揃えられると思うので特に不安はない。今年はBRM224近畿600で600kmを先に完走していたのでBRM322埼玉400の完走をもって全ての距離の認定が確定した。

 5/12にACPからメールが来て、プレレジストレーション完了の段階で定員8000名に対して8400名の登録があり順番待ちリストを発行しているとのことで、5/27の本レジストレーションの開始から6/10までに登録を開始しておかないとプレレジストレーションの予約内容を失うことになるという内容だった。前回から更に1000人規模で定員を増やしたにもかかわらずこの競争率はのんびり構えてはいられない。5/27になったら即本レジストレーションを完了させる必要がある。

 本レジストレーション開始当日の5/27に手続き開始 。前回同様に本レジストレーションもPBP公式サイトの参加者個人用に作成された専用ページから行うが、認定番号登録は一部情報を入力すればACPデータベースから自動的に認定番号等が入力されるシステムは踏襲されていた。エントリーフィーは€190、その他にジャージとリザルトブックを購入したいのでそれら費用を含めた総計が€290で既に€50はプレレジストレーションの時に支払い済みなのでを残りの€240をPayPalで支払う。PBP2019の時はエントリーフィーは€135だったので随分と値上がりしている。今の円安も含めてかなりの金額になってしまったがこればかりはどうしようもない。7/1に本レジストレーション確定のメールが届いた。ライダーズナンバーはU003となった。これでレジストレーションの全ての事前手続きが終了、後は現地に行ってスタート前日にチェックインするのみとなった。

フライトとホテル

 PBP遠征中のホテルとフランスまでのフライトについて、コストをできるだけ安く抑えるためにツアーは今回も使用しない。自分で調達すればホテルもフライトもツアーに比べてかなり安く抑えることができる。PBPは過去3度の経験からそれなりに勝手が分かっているので以前程の不安はない。

 まずフライトについては、前回はコスト最優先で乗り継ぎ便を選択したが、今回についてはコロナ過が明けて世界規模で空港の人手不足と旅行需要の回復で空港でのロストバゲッジが多発しているという現状を踏まえ、バイクケースがロストしてしまうというリスクを避けることを最優先にして、円安でコスト的にはかなりつらいが直行便を選択することにした。直行便となると選択肢は限られてANAかJALかエールフランス位しかないので、この中から一番安いものを選択するとANAということになった。前回はPBP後の観光日を入れて旅程を1日延ばしたのだが、今回も1日延ばそうとすると復路8/25発と8/26発では4.5万円違う。とにかく今回は円安でコスト的に非常に厳しいので観光日を確保するのは今回は断念せざるを得ず、結局ゴール後翌日帰りの日程で1/14にフライトの予約購入を完了。費用的にはサーチャージ込みで266,120円、前回のフライトのほぼ倍になってしまったが止むを得ないところか。

 ホテルについて。今回のPBPのスタート地点は前回と同じRambouillet。前回はCDG空港からアクセスが良くRambouilletまで鉄道1本で行けて且つParis中心部に近く観光にも便利といういいことずくめのMontparnasseに滞在拠点的ホテルを確保した。実際非常に都合が良かったので今回も同じホテルにしようと当初は考えていた。しかしその後に空港からMontparnasseまでの直行バスが廃止になってしまったこととPBPで毎回使っている日本のドロップバッグサービスのドロップバッグ集荷がスタート前日ではなくスタート当日の朝に変更されてしまったことで再考を余儀なくされることとなった。空港からMontparnasseまでの移動手段は鉄道を利用することで代替できる目途はついたもののドロップバッグの受け渡しが当日となったのは厄介だ。前回は集荷の時間に合わせてRambouillet駅に行きそのまま前日受付を済ませてMontparnasseに戻ることができたが、スタート当日の朝にRambouilletまで行って集荷を済ませてから一旦Montparnasseに戻り、スタート前に改めてRambouilletに向かうというのはかなり効率が悪いしスター直前までできるだけ睡眠時間を稼いで急用に努めることができないというのはPBP本番に悪影響を及ぼすことになるのでこれは極力避けたいところだ。ドロップバッグの集荷地点に極力近いところでホテルを探すとなるとRambouilletかツアーのホテルのあるSaint-Quentin-en-Yvelinesの二択ということになるが、スタート地点のRambouilletには空きは全くない。次にSaint-Quentin-en-Yvelinesで探し始めて、ツアーで使うホテルそのもの、即ちドロップバッグの集荷場所を調べてみたら空きがあったのですかさずホテルのwebサイトから直接予約。ホテル名はBest Western Paris Saint-Quentinで1泊€72でDNFのリスクも考慮して走行中も通しで部屋を確保し7泊で€500.50、宿泊費は約80,000円となった。

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 移動的にはMontparnasseとSaint-Quentin-en-YvelinesとRambouilletは全て同じ鉄道路線1本で繋がっているので移動のロスはなし。最終的には効率的な行動ができるホテルの選択ができたものと思う。

走行プラン

 今回のスタート&ゴール地点は前回と同じRambouilletでPCも全く同じ。但しPC間のルートが一部変更されている。

<往路>

<復路>

 基本的には前回とほぼ同様のコースという認識で走行プランを考えることになる。これまで同様に1日目は徹夜走行として2日目以降は日中走って夜は寝るという基本的なパターンを踏襲し且つスタート時間を最終21:00を選択すれば自ずと前回の走行プランとほぼ同じものになった。仮眠PCは前回と同じく往復のLoudeacと復路のMortagne au Percheの3か所とする。

 ここで今回の各PCのクローズ時間を確認すると今回は前半の全てのPCでクローズ時間が1時間前後繰り上がっていることが分かった。

 この前回と同じプランに新しいPCクローズ時間を当てはめると往路のCarhaixのクローズ時間に間に合わなくなるのでLoudeacでの睡眠時間を削って出発時間を早めなければらない。これが今回の大きな変更点となる。

 最終的には下記の様な走行プランとなった。

 今回のPBPは往路のCarhaixをクリアできるかというのが重要なポイントになって来る。前回と同じ走りができれば往路のLoudeacの出発時間はこのプラン通りということになるが果たしてどうなるか。とにかくこのプランに基づいて走行時のスケジュール管理を行っていくこととなる。 

装備

 装備についても全体としては基本的に前回と同様だが、何を持って走るかについては今までの経験を生かして更に絞り込みをかけるつもりで検討に入った。往復の宿泊地点のLoudeacでドロップバッグが使えることを考えれば400kmブルベと同等の装備で走ることができるはずだ。補給はPCで売っているものを食べるとすれば補給食は最低限、雨対策・防寒対策を考えるとレインウェア上下とウインドブレーカー・アームウォーマー・レッグウォーマー、走行トラブル対策としてはスペアタイヤ1本とチューブ数本と後はこまごまとしたスペアパーツ類、電装品はPCでの交換・充電を前提とすればバックアップ用ナビとナビ用スペア電池、そしてボトル2本ということになる。これらをフロントバッグとサドルバックに分けて収納することになるがサドルバッグはそれ程大きくなくても対応することができる。前回はTailfinのキャリア付きサドルバッグを使ったがこれでは大き過ぎるのでサドルバッグは日本で使用しているRevelate Designsの2Lのものを使用することにした。フロントバッグは定番のモンベルのものを使用する。それ以外は全てドロップバックに入れる。

 Loudeacでの仮眠については前回同様オフィシャルのベッドサービスを利用しようと考えているが、前回はベッドが埋まっている可能性も考えてツェルトやマットをドロップバックに入れていたのだがベッドが満杯になる可能性はほぼないことが分かったので今回は持って行かない。

 現地での通信環境については、前回使ったOrangeのプリペイド4G通信8GB容量のsimカードが全く問題なかったので今回も同じものをamazonで事前購入(3899円)。今使っているiphoneはsimフリーなので問題なく使えるはずだが念のためNECのモバイルルータ(MR04ln)も持って行くことにする。

 

具体的な内容は下記の通り。

バイク装備
 ①フロントライト:Fenix/BC25R x2
 ②アクションカム:Sony/HDR-AS30V
 ③サイクルコンピュータ:Bryton/Rider750SE
 ④ナビ:Garmin/etrex30x
 ⑤リアライト1:Cateye/TL-LD180-R
 ⑥リアライト2:Cateye/TL-LD155-R
 ⑦リアビューレーダー:Bryton/R300L
 ⑧750mlボトル2本
 ⑨ポンプ:Topeak/RACEROCKET HPX

フロントバッグ(モンベル)
 ①モンベル携帯用ウィンドブレーカー
 ②アームウォーマー
 ③レッグウォーマー
 ④モンベル製レインジャケット
 ⑤チューブ2本
 ⑥タイヤ1本
 ⑦ナビ用単3電池4本
 ⑧カロリーメイト2袋
 ⑨塩タブレット
 ⑩アクションカム:Panasonic/HX-A1H

サドルバッグ(Revelate Designs/Shrew)
 ①モンベル製レインパンツ
 ②バックアップ用ナビ:Garmin/etrex20x
 ③アームウォーマー
 ④ニーウォーマー
 ⑤シフトワイヤー1本
 ⑥チェーン3コマ+ミッシングリンク2個
 ⑦チューブ2本
 ⑧ブレーキシュー4個
 ⑨タイヤ1本
 ⑩タイヤブート2枚
 ⑪応急タイヤパッチ
 ⑫集合工具
 ⑬タイヤレバー3本

ドロップバッグ
1. ウェア類
 ①半袖ジャージ1枚
 ②レーパン1枚
 ③靴下1組
 ④Tシャツ1枚
 ⑤パンツ1枚
 ⑥スウェットジャージ1枚
 ⑦スウェットパンツ1枚
2. スペアパーツ
 ①チューブ4本
 ②スペアタイヤ1本
3. 電装系
 ①モバイルバッテリー4個
 ②各種充電ケーブル
 ③バックアップ用サイクルコンピュータ:Bryton/Rider420
 ④バックアップ用フロントライト:Fenix/BC25R x2
 ⑤バックアップ用リアライト:Cateye/TL-LD155-R x2
 ⑥バックアップ用アクションカム:Sony/HDR-AS30V
 ⑦アクションカム用予備バッテリー2個
 ⑧カメラ用予備バッテリー2個
4. 医薬品
 ①太田胃散
 ②ワカマツ止瀉薬
 ③絆創膏
 ④ウェットティッシュ
 ⑤サロンパス貼り薬
 ⑥サロンパス塗り薬
 ⑦キネシオテープ
 ⑧傷パッチ
 ⑨ティッシュペーパー
5. 補給食
 ①カロリーメイト6袋
 ②塩タブレット一袋
6. その他
 ①耳栓
 ②タオル1枚

出発前日まで

 PBPに限った話ではないがこういう長期間に跨る大型イベントは事前準備をどれだけしっかりやるかで成否が大きく分かれる。ライダーの体力・健康の維持管理、自転車や装備の最適化、走行プラン、フライトやホテルの確保、費用の工面等々多岐に渡るが休暇の確保もその一つだ。

 PBPの開催期間は例年会社の夏季休暇の直後になることが多いが今回は夏季休暇の後1週間の営業日を挟んで再び1週間超の休暇を取る必要がある。週単位の連続休暇を立て続けに取るのは一般的にはそう簡単ではないが、私の場合は上司が私が自転車であちこち出かける人間だということをしっかりと認識してくれているので特に揉めることもなく今回もすんなり取得することができた。

 PBP前の最後のブルベはR東京さんのBRM805東京200、苦手な夜スタートのブルベだがPBPの夜スタートを想定したこの200kmを無難に完走して夜スタートのイメージをしっかりと掴むことができた。確か2019年の時も同じパターンだったと思う。

 8月5~13日の会社の夏季休暇が始まった。この間に溜まった疲れを抜くためにゆっくり休養しながら少しずつ荷物のパッキングを進めて休みの終わりには全てを終わらせておかなければならない。バイクはチタンのTigにするかカーボンのOrbeaにするかちょっと迷ったがやはり今までのPBPで使ってきたチタンを選択することにした。チェーンとブレーキシューを新品に交換し各ワイヤー類を全てチェックし劣化がみられるフロントシフトワイヤーを交換した。ホイールはPBPに向けて前後ともリムを交換したGOKISOハブの決戦用ホイールをしっかりとホイールバランスを取りフリーボディー内を清掃・注油して仕上げた。タイヤはGP4000S2の秘蔵品をここぞとばかりに投入する。

 入魂の整備を終えたバイクの試走でいつもの多摩湖CRを周回し全く問題がないことを確認した。最終日にACORのプラダン輪行ケースにバイクを収納し、携行品を大体揃えて夏季休暇は終了。

 8/14から業務再開。疲労を溜めない様に渡仏前は自転車通勤はやらない。日々携行品を逐一確認しながらバックパックと輪行ケースに振り分けつつ詰めていく。

  8/17、渡航前日になって全ての荷物のパッキングが終了した。明日からPBP休暇に突入する。明日のフライトは羽田空港(何度も確認して間違いなく羽田空港)を9:35発なので朝4時半には自宅を出発しなければならない。体調管理も含め取り敢えずここまでは順調に準備を完了し後はフランスに行くだけのところまで持ってくることができたことにまずは安堵している。今回で4回目となる渡仏は行くこと自体にはそれ程のプレッシャーは感じていないものの、一方で前回から4歳歳を取り4年前にできたことが今回果たしてできるのかという心理的重圧が増してきているのが良く分かる。しかしここまで来たら後に引くことはできない。己の体力と経験値を信じてフランスに行くしかない。もしかしたらこれが最後のPBPなるかも知れないと考えると今回の渡仏の重みが増してくる。期待と不安と使命感が混在した複雑な心境が既に非日常モードに入りつつある。この非日常感を楽しめるようになれればしめたものだがなかなかそういうわけには行かない。明日は早起きして即行動開始なので20時過ぎに就寝する。