かつしかトリオ

 かつしかトリオのライブに行ってきた。かつしかトリオとはかつてのCASIOPEAのメンバーだった向谷実(key)、櫻井哲夫(b)、神保彰(ds)が結成したバンドだ。私的にCASIOPEAはジャス・フュージョンの世界に足を踏み入れていくきっかけとなったバンドだ。中学生の時にFMラジオから流れてきた”Time Limit”という曲に耳を奪われて、すぐに貸しレコード屋に走ってその曲が入っている”Mint Jams”というアルバムを借りてきて初めて聴いた時の正に雷に打たれた様な衝撃は今でも憶えている。あの時私の中で何かが覚醒した。それから高校自体の3年間は聴く音楽の半分はCASIOPEAになりキーボードとギターをひたすらコピーしまくったしコピーバンドを組んでメンバー共々一生懸命練習した。文字通り青春の相当な時間と労力を費やし情熱を注ぎこんだのがCASIOPEAだった。大学に入ってからは音楽の幅が広がりビッグバンドサークルに入ったこともあってCASIOPEAの占める割合は減ったもののそれでも新譜は必ず押さえて聴き込んでコピーしていた。そして大学を卒業するタイミングでCASIOPEAは分裂、櫻井氏と神保氏が抜けてしまった。これはなかなかにショッキングな出来事であったが、1990年に鳴瀬善博(b)、日山正明(ds)が加入し新生CASIOPEAが誕生、1枚目の”The Party”はなかなかの出来でそれなりに聴き込んだものの次作以降は正直つまらなくなってきて印象に残る曲が殆どなくなり徐々に聴かなくなりCDを買っても1、2回聴いてお蔵入りしてアルバムタイトルも思い出せない程になってしまいバンドの動向も知らずじまいとなり私の中の存在がほぼ消えてしまっていた。
 そして月日が流れて去年、youtubeを何の気なしに観ていたら向谷氏、櫻井氏、神保氏の3人が演奏している最近のライブ映像が目に飛び込んできた。何事かと思ってネットを見て回ったらこれからかつしかトリオというバンドを作るらしいという情報に行き当たった。1989年にバラバラになった3人は全員60代半ばになっていたので今更バンドを作ってどんな音が出て来るのだろうかと正直半信半疑だったが、3人で作ったかつしかトリオ名義の新曲”Red Express”を聴いてぶっ飛んだ。


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 今の3人からこんな音が出て来るのか!1980年代のCASIOPEAを彷彿とさせるテンションの聴いた上質のフュージョンサウンドではないか。驚きつつ滅茶苦茶感動して何度もリピートしてしまった。38年前に終わったと思っていたものがまさか今になって新たな音になって聴くことができるとは思いもよらなかった。唐突な過去との邂逅にワクワクしながらその後かつしかトリオの動向を追いかけていた。時たま出来上がった新曲がyoutubeにアップされる度に嬉々として繰り返し再生しつつ早くフルアルバムを作ってくれないかなと思っていたら、フルアルバムを作るというメンバー発表があって狂喜した。そしてついに10曲入りのアルバムが完成しつつこの新譜を引っ提げてのライブツアーが発表された。去年はブルベの日程と重なって行けなかったから今年は是非行こうと思っていたのだが自団体の開催日と重なってしまった。こうなったら事前にスタッフ試走を終わらせて当日朝にスタッフ業務をして中抜けで観に行くという賭けに出ることにしてチケットの抽選に申し込んだら見事に当たった。

 ここまで来たららもう後には引けないのでブルベ開催日の2週間前に雨予報を押して思想に出発、厳しいながら何とか完走を果たしてこれで晴れてライブに行けることとなった。

 さてライブ当日。まずは朝に自団体のブルベのスタッフ業務をこなして一旦自宅に戻る。次のスタッフ業務は明日なので取り敢えず支障は出ない。
 昼過ぎに都心に向けて出発。私的には人混みが苦手でステージに没入することができずライブを楽しめないことが多いので余程のことがない限りプロのライブには行かなかった。最後にライブに行ったのがいつだか全く思い出せないのだが多分25年位前ではないかと思う。今回はこのバンドを応援したいということもありつつ、プロのライブというものがどういうものなのかほぼ完全に忘れている状態なのでどういうことになるのか興味もあって敢えてライブに行くことに決めた次第だ。

 電車を乗り継いで青砥駅にやって来た。ここには以前仕事で来たことがあるので2回目かな。

 線路の高架沿いを10分弱歩いてかつしかシンフォニーヒルズに到着。

 結構な人混みでライブ会場のモーツァルトホールに入っていく。

 ホールに入る前にグッズ販売の列に並んでCDとTシャツを買う。特典の3人のサインカードをゲット。60前のオヤジが高校生時分に戻ってテンションが上がる。

 2階左側のバルコニー席の最前列だが座るとベースが全然見えない。席の良し悪しは余り気にしていなかったし周囲の人が少ないのでむしろ良かった感じ。着席して程なく照明が落ちていよいよ開演。さてどうかな?

 2時間があっという間に過ぎた。2階のバルコニー席は音が回って全然駄目だったので純粋に音を楽しむというわけにはいかなかったが、凄く楽しかった。なかなかに難易度の高い新曲の数々をさらりとやってのける3人は全員60歳を超えたとは思えないテクニックとテンションで新譜の10曲は勿論のことCASIOPEA時代の3人それぞれの持ち曲を織り交ぜて15,6曲を怒涛の如くこなしてきた。向谷氏のシンセとピアノの幅広いサウンドバリエーションといちいちグッとくるコードワーク、櫻井氏の切れ味鋭くダンサブルなベースライン、神保氏のさらにパワーアップして高度化した(そして難解さも増した)ドラミングに圧倒された。特に印象に残ったのは3人のソロパフォーマンスタイム。神保氏は相変わらずの手数の多さだがシンバルワークのアクションが大きくなったように見えた。次の櫻井氏はハーモニクスのアルペジオからのJacoのSlang、これはびっくりニヤリの展開。そして最後は向谷氏のスローバラードなインプロビゼーション、ピアノにPAD系の音を重ねて心の琴線に触れるコードを紡いでいくのは向谷氏の十八番というプレイ。かつてのCASIOPEAのライブでスローな曲の前振りで必ず向谷氏のソロがあってそれがとにかくカッコ良くてひたすらコピーしまくっていたあの感覚を思い出してちょっと鳥肌が立った。3人のこれらの音は往年のCASIOPEAのテンションを彷彿とさせるだけでなくメンバーそれぞれがここまでの歳月の中で得てきたものの幅が加わって進化した音になっていて新鮮さを強く感じた。随分前に忘れてしまっていた無邪気な高揚感と音と技術への憧憬がどっと戻って来た気がした。40年前に無我夢中で背中を追いかけた人達が間違いなくそこにいたことを目の当たりにしたことは正に”ライブ”で会場に行ったことの意義は充分にあった。そしてまた再び追いかけることができる喜びを噛み締めた非日常の有意義な時間だった。

 それにしても今日のライブの客層、予想通りではあるが平均年齢は高かった。ほとんどが1980年代のCASIOPEAに熱中した世代なのだろう。ある意味同窓会的な空気感もあったね。

 久々のライブの高揚感を持ちつつかつしかシンフォニーヒルズを後にして帰途に就く。

 途中、池袋で調整完了した6弦ベースを受け取りに楽器屋に立ち寄る。(この話はまた後日ブログに書く予定)

 楽しく充実した時間の流れついでに池袋でちょっとビールを飲んでいこうかとも思ったが家に帰って楽器を触りたい気持ちが勝って真っすぐ帰ることにした。

 帰路、心地良い満足感に浸りつつも櫻井氏・神保氏が抜けた後のCASIOPEAが何故つまらなくなったのかを改めて考えてみる。私的にまず何が問題かと言えば鳴瀬氏のベースがとにかく頭ノリで全然ノレないのだ。そして野呂氏の書く曲がワンパターン化してきてどれもこれも同じに聴こえる様になって来た。ミディアムテンポの頭ノリ8ビートで仰々しいイントロに取って付けた様なメロディーラインにいまいちすっと流れないコードワークで聴き方によっては幼稚に聴こえてしまうという私的に”野呂テンプレート”という呼び方をしてしまう様な感じだ。そしてサポートの神保氏がかつしかトリオ結成のために脱退した後にCASIOPEA-P4となって出た1枚目の作品”New Topics”を何度も聴き込んでみたものやはり何の発見もなく相変わらず鳴瀬氏のベースは頭ノリで野呂テンプレート的曲ばかりで全然面白くなかった。野呂氏は良くも悪しくも枯れてしまったという結論は残念ながら変わらなかった。
 かつしかトリオの音を聴いて改めて思うのはかつてのCASIOPEAで野呂氏の作曲の幅を広げていたのは向谷氏、櫻井氏、神保氏の存在だったのではないかと思う。特にベースの違いは大きいと思う。今の野呂氏の楽曲がつまらないのは鳴瀬氏の頭ノリのベースが作曲の幅を著しく制限してしまっているのではないかと思う。単刀直入に言ってCASIOPEA-P4はベースを変えた方が良いと思う。まあ野呂氏自身が今の音楽で満足しているのであればそれまでの話だが。
 かつしかトリオはバンドとしての基本コンセプトは既に完成形だと思うので野呂氏は全く必要ないし、私自身今のかつしかトリオに野呂氏が入ることを望まない。今の野呂氏の楽曲をかつしかトリオに押し付けられては台無しになるからだ。しかし、今後彼等自身が再び4人で集まることを決めたとすれば、どんな音が出て来るのか興味がないわけではない。全ては出て来る音次第だ。

 私自身、60歳が目の前に見えて来て、老いとどう向き合うかと考えるうちに守りの姿勢が強くなってきて、音楽的にも今まで得てきたものでのんびりと楽しむという様なことを漠然と考えていたのだが、かつしかトリオを目の当たりにしてまだまだ伸びることができる、攻めることができるということを教えてもらった気がした。

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 ギターは今、人生の集大成とも言えるカスタムギターをオーダー中。

 キーボードは高校時代から使っているDX7とほぼ最新鋭のMODX8の組み合わせを試行錯誤中。

 ベースは遂に6弦ベースに手を出してチョッパー(私の世代はスラップとは言わない)を特訓中。

 ドラムはツインペダルとフットクラーベを導入し左脚特訓中。
 全ての楽器を自分自身で悦に入れる位にはマスターして自分自身をマルチプレイヤーと呼んで恥ずかしくない位になりたいと思っているし、いつかは4人の自分でバンドを作りたいと思っている。高望みではあるが生涯をかけて取り組む価値は充分にある。私の音楽の主戦場はまだまだジャズ・フュージョンと定めて前のめりで向かっていきたい。

 大袈裟な言い方だけれど、かつしかトリオの立ち上がりを見て私自身がこれから生きていく上で物凄い勇気と活力をもらった。これからもかつしかトリオから目が離せないし、昔彼等に引っ張ってもらった様にこれからも引っ張ってもらいたいと思う。