シマノクランクのリコール

 多分9月に入ってからのことだったと思うのだが、ツイッターを何の気なしに眺めていたらアメリカでシマノのクランクがリコールになったというニュースを見つけた。何事かと思ってネットで色々と調べたらDURA-ACEとULTEGRAのある時期の製品が接着剥離を起こして壊れる可能性があるらしい。接着剥離とはどういうことなのか!?と、びっくりして調べて見ると9000以降のDURA-ACEと6800以降のULTEGRAはクランクアームが貼り合わせで出てきているとのこと。私的に90DURAと91DURAのクランクを使っていたがそんなことは全く知らなかった。そうこうするうちに日本でもリコールされるという話が聞こえてきて、9月の下旬になってシマノから正式に”無償点検プログラム”なるものの実施が発表された。無償点検プログラムとは取り敢えず対象のクランクを無料で点検して問題が見つかれば交換されるということらしい。点検はどこで誰がやるのかとか問題が見つかったら何に交換されるのかとかが一切不明だったので巷では憶測が飛び交っていた。リコール即ち市場回収・全数交換ではないというのが釈然としないが取り敢えず詳細を待つことにした。

 10月中旬になって点検プログラムの詳細が発表されたがその内容はこれ。

bike.shimano.com

 これによると私の手持ちの該当製品は、

チタンバイクに付けているFC-R9100と、

カーボンバイクに付けているFC-9000ということになる。更に該当製品の特定ロットが点検対象とのことなので対象ロットかどうかを早速チェックしてみたら両方とも点検対象であった。で、点検はどうやって行われるのかを見てみたら、シマノが指定する”協力店”にバイクかクランクセットを持ち込んで店の人間がチェックを行いNG判定されればFC-09という現行ラインナップにはない型番のクランクに交換されるということの様だ。

 これはまた面倒なことになった。今まで両方とも何の問題もなく使えていて壊れる心配など微塵もなかったのだが、崩壊の可能性ありと一旦言われてしまうともし走行中にいきなり壊れたら命の危険に関わると急に不安になって使い続けることにリスクを感じてしまう。こうなったらもう点検に出さないわけには行かないのだが、元々ネット通販でクランク単体で購入して自分で取り付けているので馴染みの店などないのでまずそこを決めてそこに車で持って行かなければならないし一回では終わらず店と最低2往復はしなければならないというのが物凄く煩わしく思える。そうこうするうちにネット上に点検を行う店用の点検マニュアルが見つかった。それがこれ。

si.shimano.com

 これを元にして店に持って行く前に自分でもチェックしてみようと思い立ち、ブルベの合間を縫って2台のバイクからクランクを外してチェック開始。

 2セットともチェーンリングを外してクランク単体にしてそれぞれ左右とも目視で貼り合わせ部分をチェックしてみる。

 すると91DURAの左クランクの締付ボルトの穴の周囲にクラックが入っているのが見つかった。今まで全く気付いていなかったので、これはなかなかにショッキングな発見だった。ツイッター上では既に点検されてこれと同じ場所のクラックで交換となった例があったので、恐らくこのクランクも交換になるだろう。ツイッター上ではシマノが想定している市場不良の発生率は0.1%という情報が流れていたがまさか自分のクランクがそれに該当するとは想定していなかった。91DURAの方はここ以外の接着部分の割れや剥がれはなく、また、90DURAの方は素人目で見た範囲では特に問題はなさそうだった。これで点検プログラムに出すことは完全に確定、持ち込む店の選定に入ったが手間を考えれば通勤路の途中で立ち寄るのが効率が良かろうと以前からたまに立ち寄っていた多摩川傍の某全国チェーンの店に持って行くことにした。行く前にそこの店のホームページをチェックしたら点検プログラムについての特段のアナウンスはなかったのでまずは飛び込みで行ってみることにした。

 11月の半ばの会社帰りに立ち寄って、クランクを持って店の人に点検を頼んでみると店の中のメカニックブースの中にいた2人のスタッフがテンション低めのリアクションを返してきた。「えーと、予約されてますかね?」と来たので「していません」と答えると「予約順なんですよね」と来てそのままどうしろとも言わず沈黙。何となく気まずい空気になって”俺、そんなに拙いことを言ったのだろうか?”と思いつつ「では日を改めて出直してくるので今ここで予約することはできますか?」と聞いたら「できますけど...、かなり先になりますよ」と返された。ここまで来て明らかに迷惑そうな雰囲気を感じ取りここに頼むのは危険だと判断し「そうですか。では他を当たります」と店を出た。私的にこのチェーン店は過去に何度か別の店舗にも行ったことがあるが、毎回店員に物を尋ねる度に何となく迷惑そうな応対をされてこっちが変な質問をしている様な気になって苦手にしていたのだが、今回に限って言えばこれはかなりの数の点検依頼を抱えて嫌気が差して引き受けたくなさそうな態度なのだろうと推測した。シマノの点検プログラムは基本店の人間の目視チェックに丸投げされているので、こういう店はいい加減な作業で見落とされるリスクが高いと判断できるから頼まなくて正解だと思う。改めて店を探すことになったが、自宅から割と近くにそう言えばちょっと前に新しい店ができていたなと思って調べてみたらそこも協力店になっていたので店のホームページからメールで問い合わせしてみたら直ぐに返事が来て予約なしでもOKということだったので数日後の会社帰りに行ってみた。

 多摩湖の直ぐ近くのその店は店の人の対応はとても丁寧で点検に関して詳しく説明してもらえたのでそのままここにお願いするということで2セットのクランクを預けた。点検には数日かかるということで終わり次第連絡をもらえることになった。

 2日後に店から連絡が来て、何と2セットとも不具合が見つかったのでシマノに送るとのこと。私的には90DURAの方は問題ないだろうと思っていたのでチェーンリングは渡していなかったのでそれを持って再び店を訪れた。不具合箇所を見ることはできなかったがまずはシマノに送って判断を仰ぐとのこと、また、代替クランクは現状の見込みでは2~3か月待ちでもしかしたら早く届くことがあるかも知れないとのことだった。

 これは想定外のことが起こってしまった。91DURAの代替品待ちでチタンバイクが乗れなくなっても90DURAのカーボンバイクでブルベを走れば良いと思っていたのに2台共乗れなくなってしまった。1週間以内にブルベがあるので通勤用バイクを急遽ブルベ用に改造して走ることも考えたがそこそこ手間がかかるので、代替品が届くまでの繋ぎのクランクを入手することにした。点検をお願いした店では店独自のサービスでクランク貸し出しをするという話をされたが流石に借り物のクランクを傷付けずに使い続ける自信はなかったので自前で用意することにした。

 ネットのフリーマーケットで適価の105/FC-R7000の中古のクランクを見つけたので急いで購入。ブルベ直前に届いて事無きを得た。

 取り付け見たが見た目にさほどの違和感はない。変速の具合も調整し直すこともなく問題なし。

 このクランクで早速ブルベを走って見たが交換していることを忘れていた程に違いは全く分からなかった。こんなトラブルに巻き込まれる位なら今までわざわざ高い金を払ってDURA-ACEを付けていたのが馬鹿馬鹿しく思えてしまう程だ。

 店にクランクを預けてから3週間ほど経過して、代替品が届いたという連絡が来たので早速受け取りに行った。

 結局2セットとも交換ということになったとのこと。届くのは来年かと覚悟していたが拍子抜けだった。店に礼を言って持って帰って来た。

 家に帰って早速開封。

 FC-09という型名だがクランク部分はFC-R9200だ。

 アウターチェーンリングは9200クランクにマウントするための11速用の専用品がこのリコールのために新規に型起こしされた様だ。

 インナーは9200用の12速のものをそのまま使っている様だ。フィキシングボルト取り付け部分の嵌合部の形状があっていないことからそれが窺い知れる。11速と12速では互換性がないというメーカー見解は一体何だったのか。今後このクランクを使い続けるにあたり、少なくともアウターチェーンリングは専用品が保守パーツとして入手可能でなければ困るのだが、店の人の話では現時点で保守パーツに関するアナウンスはシマノから何もないが恐らく買うことができるだろうということだった。

 

 取り敢えずは代替品が手に入ったということでこの交換プログラムは私的には終了したわけだがどうも釈然としない。数年使ったクランクが両方とも新品になって良かった良かったという話には全然ならない。自転車を動かすための動力が直接伝達されるクランクが軽量化のために接着貼り合わせ構造になっていてこういう剥離崩壊事案が出てきたというのは、これは製造不良というより設計不良なのではないか。しかもULTEGRAやDURA-ACEという上位グレードで発生したというのが長期使用の観点からも不安が付きまとう。そして決定的なのがこの剥離崩壊問題は数年前から既に国内外で何件も発生しその危険性が指摘されていたにもかかわらずシマノが今になってその不具合を認めてリコールし、しかも市場回収全数交換ではないというメーカーの姿勢だ。点検プログラムは簡易的な目視チェックのマニュアルだけで全国の自転車店に丸投げするだけなのでチェックする人間による良否判定に差が出て来るのは必然だし、実際ツイッター上にはある店ではOK判定だったものを別の店で再チェックしたらNG判定で交換になったという事例が幾つも出始めている。シマノの点検責任の店への丸投げによって店の良し悪しが炙り出されるという副作用が出て来てしまいメーカーが販売店を巻き込んで大騒動にしてユーザーは疑心暗鬼が募り結局多くの人間が面倒に巻き込まれている。即ち今行われている対応はユーザーの安全確保が二の次になりメーカー側の都合のみが優先されているというのが明白だということだ。シマノは今回の交換プログラムでの不良率は0.1%だと言っているらしいが、ツイッターを見ていると正しく良否判定されれば10%はあるのではないかと思われる。シマノは今回の点検プログラムで170億円の特損を計上したがそんなものでは収まらないのではないか。特損の額では直ぐに会社の経営に影響することはないだろうが長期的に見てブランドイメージの毀損は避けられないと思う。

 シマノはちょっと前にロードバイクコンポーネントのモデルチェンジを行ったが、105以上の上位グレードを全て電動シフト/ディスクブレーキのみに絞りつつ(105はその後機械式ディレイラーを出して来たが)価格を大幅に引き上げ、TIAGRA以下のグレードには機械シフト/リムブレーキの11速コンポを出す気配はない。即ち今までシマノの機械シフトやリムブレーキを使っていたユーザーが現行ラインナップでの選択肢を完全に失ってしまったということになっている。新型コンポの価格の引き上げは105コンポの載った完成車で5,60万円、DURA-ACEに至っては100~200万円という価格帯まで引き上げてしまった。この値段で一生ものになるのならいざ知らず数年乗ったら劣化したり陳腐化する運動具としてのロードバイクの価格をここまで引き上げて、一体どれ位の人間が買うのだろうか。ディスクブレーキはともかくシフトが高額の電動のみというのはメーカーの市場誘導が余りに強引過ぎると私的には思う。一方でこの市場の変化を突く様に中国系メーカーの廉価コンポが幾つも出て来て大手ブランドの完成車にも一部採用され始めているので、シマノのシェアは確実に減る方向だと予測される。

 今のシマノは企業利益優先でユーザーの安全や供給者責任がかなり疎かになっていると思う。私的にはシマノという国内メーカーに絶対的な信頼を寄せて7800から9100まで4世代20年DURA-ACEに拘って使い続けて来たが、ここに来てその信頼が大きく崩れてしまった。それでなくともバカ高い電動シフト/ディスクブレーキに追従する気は更々ない。自転車は電気がなくても動くことが良いのだ。この先もうしばらくは自転車に乗り続けるが果たしてこの先何を選択すべきなのか、今のところ解決策の目途は付かない。今更シマノ以外の選択肢を模索するというのは私的にはかなり面倒な作業なのだ。

 がっかりですよ、シマノさん。