32inchのベース

 今日も有休消化で休みで今週末も3連休、私的にはもう完全に週休3日が定着してしまった感がある。午前中に多摩湖CRを4周回していつものつけ麺屋でいつものつけ麺を食べて昼寝して目覚めてinternetradioを聴きながらブログを書きつつうだうだと過ごして今に至る。世の中はもうオミクロン株が充満し、政府は相変わらず何もやらずに医療現場や保健所だけが孤立無援の闘いで疲弊し、健康な人達はそれとは知らずに好き勝手に行動し、社会は秩序を失い崩壊に向かって緩慢に進んでいる。石原慎太郎が死に、彼を愛国者などと持ち上げる輩がわんさか出て来て、この国が本当におかしくなっていることを改めて認識することとなった。まあ、今いきなりこうなったわけではないし、必要以上に憂いても仕方のないことなので、私は私なりに楽しく生きることに注力するのみ。ブルベが再び走れなくなったし、今は音楽への意欲がそこそこ盛り上がっているのでそれに素直に身を委ねている最中だ。前回に引き続き今回も楽器ネタを書く。

 

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 ベース探しの旅が劇的に方向転換してしまった。
 去年の5月にTUNEのスルーネックの5弦ベースを手に入れたところで私のベース探しの旅は終わったと思っていたし、日々適当に弾いていたら何となく馴染んできたと思っていた。それからしばらく経って、長年温めてきた極秘プロジェクトをそろそろ実行に移そうかという機運が高まって来て、ベースのチョッパー奏法(今はスラップ奏法というらしい)をちょっと真面目にやり始めたところで今までそれ程気にならなかったことがはっきりと自覚される様になってきた。チョッパーのためにローフレットを左手人差し指と小指でオクターブを押さえる時に、腕がかなり伸び切って左手首がかなり曲がってしまうので力が入れにくくきっちり押さえられないのだ。簡単に言えば私の腕が短くてローフレットが遠いということだ。今までは手遊び程度に適当なチョッパーフレーズで遊んでいた時には無意識のうちに弾き易い指板の場所しか使っていなかったので全然気にならなかったのだが、いざちゃんと曲を通しで練習し始めて指板上の広い範囲を使う様になって初めて分かった。

 こういうところに行き当たった時、若い頃ならばひたすら練習して克服を試みるのだが歳を取って来ると道具を変えて何とかすることをまず先に考えてしまう。「ローフレットを近付ければよい、即ちネックを短くすれば良いのだ」、即ちショートスケールのベースをベースを試してみたくなった。以前、何となくショートスケールベースを調べてみたことがあったが、大して気分が盛り上がっていたわけでもなくちょっと探して飽きて止めてしまったが、今回は具体的な不都合が明確なのでちょっと真剣にリサーチを続けた。改めて調べてみるとやはりショートスケールのベースはなかなか見つからない。そもそも市場でニーズが殆どない様だ。スペック的に決定的に劣る要因が何かあるのかも知れない。ショートスケールのベースに関する考察記事を幾つか読んでみると「弦のテンションが低くて低音が出にくい」とデメリットがあるらしい。ベースで低音が出なければそりゃあ使われないのは当たり前か。もうこの時点で何となく諦めムードが漂ってきた。

 そんな中で、一昔前に巷で目に付いたYAMAHAのMotion Bというベースが実は32inchだったということが判明した。ベースの標準的なスケールは34inchだから2inch短くなっている。単純計算で34inchベースの1フレットの位置に32inchの0フレットが来ることになるわけで、この差は結構大きい。これが分かってしまったらもう試さないわけにはいかない。ネット上で中古品をあちこち物色すると結構な数の出物が見つかりちょっと試す分には無難な価格帯であることが分かった。そのうちの一本をネットオークションで送料込みで1万円を切る値段で落札することができた。

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 11月4日に届いたのがこれ。早速弾いてみるが、まあびっくりする程小さい。確かにネックは短くて左腕に間違いなく余裕ができたのだが、それとは別にネックは細いし弦間は狭いしでまるでギターの様な感覚、違和感が相当ある。あと、弦のテンションが緩くて今まで使っていたベースの感覚で弾くと弦への当たりが強過ぎでまともに鳴らせないのだ。まあ一言で言ってしまえば下手なだけなのだがそれを直ぐに楽器のせいにしてしまうところが今の私の癖の悪いところだが、「ショートスケールは弦のテンションが低い」というのはどうやら事実の様だ。取り敢えずこのベースに関して言えば楽器というよりおもちゃという感覚が強く弾いていてもそんなに楽しくはないし所有欲も到底満たされるものではないので残念ながら失敗だったと認めざるを得ない。ただ、ローフレットが近くなって左腕が楽になったという事実が確認できたことだけは収穫だった。
 やはり32inchは弦のテンションが低くて駄目なのか、巷にショートスケールのベースが少ないのは必然なのかという結論が見えて来てしまった様に思えたが、今回は往生際悪くもう少しネット上を徘徊してみた。すると、新たにこれが見つかった。

www.rittor-music.co.jp

 Atelier Zの32inchの6弦ベースだ。BASS MAGAZINEとのコラボ企画で製作されたものだということだが、そこそこ歴史のあるベース専門誌とベースメーカーとしてはかなり実績のある会社が一緒になって考えて商品化まで持って行ったということで、それなりに実使用に耐え得るものになっているのではないかと思わされてしまう。例の弦のテンションについては、ボディの裏から弦を通すこともできる様になっていてテンションを稼ぐことができる仕様になっている。でも流石に6弦というのは今までちゃんと弾いたことがなく、私の小さい手ではあの太いネックは絶対に握れないだろうと到底手出しできるようなものではなく黙って見送るしかなかった。
 この6弦ベースの流れを更に辿って調べていったところ、派生モデルとしての5弦ベースがあることが分かった。値段はそう簡単に手出しできるものではないので取り敢えず中古品を探してみたら1本見つかった。新品に比べれば多少安いがそれでもポンと買える値段ではない。しかし、一旦見つけてしまった以上、もう頭から消し去ることができない。悩むというより自分を説き伏せることに時間が費やされた。簡単な話、試さない限り諦めることはできないということだ。このコロナ禍の最中でブルベ遠征は全く行けずに結局イタリア行きも断念し取り敢えずその予算は浮いている。また、ここまでで既にギター・ベースを数本売却しており楽器を処分することのハードルは随分下がったこともあり、これを試して駄目だったら売ればいいやと考えれば取り敢えず踏ん切りはついて2,3日の逡巡の末に結局買うことになった。

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 11月10日に我が家にやって来たベースはAtelier Z/Beta 5-32。早速弾いてみると、これは普通のベースなのではないかと思う程に違和感はない。でも確かに1フレットが近くなって左腕が楽になっている。届いた当初は弦はブリッジ通しになっていて多少テンションが低い感じがあるがそれでも先のYAMAHAのベースに比べれば大したことは無い。試しに裏通しにしたら、5弦はちょっとテンションが低く思えるものの4弦以上はノーマルベースとの違いが分からなくなった。これはいけるのでは、と強い手応えを感じた。これをしばらく弾き続けてみることにした。

 その後も話はまだ続く。

 11月21日にSR600京都に出走、初日の走行中に色々と考え事をしていたら、ブルベ走行中にいつも頭の中に浮かんでくるある曲をいつもの様に口ずさんでいたら、ふとこれをベースのコード弾きでやってみたらいい感じなるのではないかと思い付いた。ベースのコード弾きは独特の響きがあってギターやピアノにはない和みがあって私的にはとても好きなのだが、これを6弦ベースでやるとコードの構成音が増やせて更に深みが出せるかもと思いつつあっという間にあのAtelier Zの6弦ベースに直結してしまった。その思いはその日は右から左に消えてしまったが、SR600の行程が進むにつれてシビアな状況に追い込まれて時間内完走がかなり危うくなってきた時に、半ばやけくそ的に「もし時間内完走出来たらあの6弦ベースを買ってよい」という”ニンジン”を目の前にぶら下げたら結果として時間内完走できてしまった。京都遠征から戻って逆に今度は”ついこの間5弦ベースを買ったばかりなのにまたしても高額出費をしてしまうのか”と強い制止がかかったが、例えそれが自分に対するものであっても約束は果たされなければならないと最終的には購入を決断することになった。早速中古を探してみたら例の限定生産品の1本が見つかったので速やかに発注。

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 11月28日に届いたのがこれ、Atelier Z/Beta 6-32。このルックスは凄い迫力、威圧感は相当なものだしここまで見た目で推して来る楽器はなかった。6弦ベースのネックを握るのは2回目(1回目はバンドの先輩のベースをちょっとだけ持たせてもらったことがあるが正直よく覚えていない)だが、予想していたよりちゃんと握ることができた。ハイフレットだと1弦に指が届かなくなるが、12フレット以下なら私の小さな手でも何とかなる。見た目とは裏腹に実用レベルだったというのは良い方向に予想が外れて良かった。やってみたいと思っていたコード弾きも適当にポロポロやってみたら何となくそれっぽい響きが出て面白くなって来た。勿論32inchネックのローフレットの近さはちゃんとあって左腕は楽。全体的に予想していたよりかなり扱い易い楽器だということが分かった。やはり楽器は触ってみないと何も分からないというのを再認識した。

 

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 そして現在に至るのだが、この6弦ベースを手に入れてからほぼ毎日こればかり弾いている。まだまだ全然まともに弾きこなせないし、同じフレーズを弾くならAtelier Zの5弦の方が上手く楽に弾けるのだが、この6弦は取り敢えず触っているだけで凄く楽しい。見た目も含めたこの6弦ベースという楽器の存在感がなかなかに大きくてこれを何とか弾きこなせるようになりたいというモチベーションが持てているのが大きい。正直買っても全く弾けなくて直ぐに投げ出してしまうのではと思っていたが、ここまで気に入るとは予想外だった。SR600京都を完走していなかったら多分買っていなかったと思うので、その意味でSR600京都を完走したというのは大きかった。正に結果オーライだね。

 

 気が付いてみれば去年11月のひと月の間に結果的に3本のベースを一気に買い集めるという無茶をやらかしてしまったが、32inchそして6弦という新しい領域に踏み込んでベースという楽器に対する新たな知見と可能性を得ることができたことは私にとって非常に有意義な出来事だった。相応の出費が発生したが、まあ金はまた稼げばよいだけだしある程度方向性が見えてくればいずれ取捨選択をして手元に置いておくべきベースを決めてそれ以外を売却すれば埋め合わせはできる。当面はTUNEのスルーネックの5弦との比較が続くことになるし、TUNEのボディサイズとスルーネック構造の32inchベースをオーダー...なんてことを考えてしまう私がここにいる。ベース探しの旅はまだ終わっていないのかも知れない。