PBP2023/Report 22:総括

 PBPを走り終えてフランスから帰国して1か月が経過した。帰国してしばらくの間残っていた両足裏の痺れもようやく解消し身体的にほぼ元通りの状態に戻った。自転車通勤も含めて普通に自転車に乗りつつ平常時の日常を送っている。

 4回目のフランスはCDG空港からRambouilletまでの移動の間に通過した場所、PBP走行中に通過した場所それぞれが更に印象深く記憶に刻み付けられてもう夢の場所ではなく私の行動範囲の一部として日常に組み入れられた気がする。フランスが夢の場所ではなくなったというのはちょっと寂しい気がするが、一方で私の活動範囲の一部として組み込まれたというのは私という人間の進歩拡張の証の一つとなるだろう。

 ブルベのイベントとしてのPBPも過去3回完走して、自分の中ではコースが毎回ほぼ同じであれば完走して当たり前という意識が定着してしまい、4回目の今回もやはりそれがプレッシャーとなった。2019年から4年分の加齢を含む57歳という年齢の心身の衰えが、4年前にできたことが今回はできないのではないかという意識がプレッシャーを更に大きくする中でスタートラインに立つこととなったが、走行中はそれなりにきつい場面が幾つかあったものの終わってみれば事前に構えていた程にギリギリまで追い込まれたことにはならずに無難に完走できたことに拍子抜けした。勿論ここに来るまでに相当の労力をかけて準備をし走り出してからはそれなりに頑張ったつもりなので充分な達成感はあるのだが、それよりも安堵感・開放感が大きくそして自分をネガティブに見積もり過ぎていたことを反省することにもなった。

 ブルベカードを眺めて改めて完走の証を確認する。

 ブルベカード上ではゴール時間は8/24の11:05、スタート時間はU組の8/20の21:00なので完走時間は86時間05分ということになるが、ゴールコントロールで特にブルベカードの内容を控えることもなくそのまま返されたのにはちょっと驚いた。要するにブルベカードの記載は基本的に判定基準にはしないということの様だが、そうなるとフレームナンバーに貼付されているタグのセンサー通過時間が判定基準ということになる。

 トラッキングアプリケーションでのリザルトを改めてチェック。取り敢えず全てのCPをクローズ時間内に通過しているのでこれを基準に判定されたとしても問題ないはず。しかしタグやセンサーの不調で実際には通過しているのに時間計測されていない場合や、DNFして途中のCPには行かずにゴールを時間内に通過した時間計測がなされた場合にきちんとした判定が出せるかどうか素朴な疑問が残る。ゴールコントロールで参加者が激しい口調でスタッフに詰め寄る姿があって何ごとかと思ったがもしかしたらそういうトラブルが既に現場で発生していたのかも知れない。

 今回の自分の走行記録を振り返ってみる。

 まずは実走結果の計画対比。赤い塗り潰しの部分が計画を下回ったところだが、これを見ると2日目と3日目が計画より遅れて推移していることが分かる。2日目はLoudéac-Brest間のルートが前回とは異なりアップダウンがきつくなっていたことが大きい。事前の地図読みでは当該区間の標高差がそれぞれ100m前後大きくなっていたが、実際走って見るとそれ以上に難易度が上がっていた。それに加えて日中の好天による直射日光と30℃を超える暑さにやられたことがあげられる。3日目はコース自体の難易度は従来通りだったが両足裏の痛みと暑さによるものと考えられる。超長距離ブルベを走る場合いつもならまず尻が痛くなってそれを庇ううちに両足裏と掌が痛くなるという順番だが、今回は後半の早い段階からまず両足裏が痛くなり始めてそれを庇ううちに尻と掌が痛み始めた。これは恐らくフランス初日の鉄道トラブルでVersaillesからSaint-Quentin-en-Yvelinesまでの9km近くを徒歩移動した時のダメージが影響したものと思われる。

 逆に事前に前半の各CPのクローズ時間が1時間ずつ早くなって往路のLoudéac到着及び出発時間を早めなければならなかったことについては、過去の実走実績と同様に今回も予定以上の前倒しができたので時間的にシビアな状況になることはなかった。次回もし走ることがあれば往路Loudéacまではもう少し過去実績に合わせた予定を立てても良いかも知れない。

 仮眠ポイントは設定通り往復のLoudéacと復路のMortagne-au-Percheの3か所で睡眠時間はそれぞれ4時間半、4時間半、3時間となった。絶対時間としては充分ではないが走行中に眠気が来ることは1度もなく走行に支障が出ることはなかったのでブルベ中の仮眠という意味ではまずまずうまくいったのではないかと思われる。食事を含む補給についても従来通り各CPでの食事を主体に過不足なく摂取できハンガーノックや塩分・水分不足による脚攣り等に見舞われなかったこともうまく走れたのではないかと思われる。

 次に過去実走結果との比較。

 実走時間・実走速度に着目し2019年と比較すると3%弱の悪化がみられる。これをどう見るかだが、2019年も暑さにやられてかなりきつい思いをしたが、天候的なきつさのレベルは感覚的に同等なのではないかと思う。そう考えるとこのレベルダウンは主にLoudéac-Brest間のアップダウンの難易度アップと両足裏の痛みによるペースダウンなのではないかと考えられ、加齢による劣化はそれ程大きくなかったのかも知れない。いずれにしてもそこそこきつい思いをしたが、きつくなった分ペースダウンして心理的に追い込まれる状況を作ることなく結果として時間内完走を果たすことができたということは今回そこそこうまく走れたのではないかと思う。

<Photo by Mr. Morou>

 今回のPBPの非公式リザルト(pbpesults.com)を見ると参加者全体の完走率は75.7%であるのに対して日本人の完走率は68.5%と今回も平均を下回っている。基本的に参加者は全員日本国内でSRを取得しているので基本走力は相応にあるはずなので、もう少しだけステップアップできれば完走できると思う。その辺りの私的分析についてはPBP2019/Report 23:総括に詳しく書いているのでまずはそちらをお読みいただきたい。内容については今でも大筋その様に考えているのだが、この総括では的を絞って具体的に簡潔に書いてみようと思う。

 レベルアップすべき項目は色々あるけれど、ブルベはスポーツなのでやはり基本は走力のアップをまず考えるべきだと思う。PBPのコースの様に区間距離が80km~120kmのアップダウンがあって補給ポイントの殆どない道を何本も繋いで最終的に1200kmを走るためには、”頑張らず休まず100kmを走る能力”が要求されると私的には考えている。そのためにどういう練習をすればよいかというのを私なりに提案してみたい。とにかくブルベはスポーツなので練習しなければ始まらない。どこかで苦労して頑張らないと上達しない・強くならないという意識をまず持つことがとにかく重要。苦労する・頑張るのは練習で、ブルベ本番では逆に頑張らずにどれだけ走れるかの確認の機会にするのか良いと思っている。

 

①目指すべき目標

 私が考えるブルベのための走力の確保は、

「平地・無風の道を心拍LSDレンジで巡航25km/hを無停止無補給で4時間連続で走れるレベル」

を目標とすべきと考えている。この練習は私的には荒川CRや入間CRで休日によくやっていた。100km以下のサイクリングならば家を出てから帰って来るまでとにかく止まらず休まないことが重要だと思う。

②心拍計の活用

 心拍計を使っていない人は是非使ってもらいたい。今自分がどれだけ頑張って走っているかを把握するには心拍計が手頃で確実。運動強度を低く保てればより長く走り続けられるのでまず強度を抑えるために心拍を目安にするのが良いと思う。

③月間達成目標を設定しクリアすることを自分にしっかり義務付ける。

 日頃の苦労はこれしかないと思う。難しいことを考えずに分かりやすい数値目標を設定してそれを毎月クリアすることを自分に課すことが大事。私的にはstravaのマンスリーチャレンジ(月間走行距離1250km、標高7,500m)をずっとクリアし続けている。私的には自転車も楽器もそうだが”練習は嘘を吐かない(Practice makes perfect)”というのは真理だと思っている。

④暑熱順化をしっかりやる。

 2019年と今回は酷暑と呼べる程に暑かった。今後もこのままの暑さが続くことが十分に予想されるので暑熱順化をしっかりやっておくことが肝要。早い時期から日中日差しの下を数時間走る練習をした方が良い。私的には荒川CRの鴻巣熊谷辺りを昼間走って早めに毛穴を開いて汗をすんなり掻ける様に練習した。暑熱順化が完了すると水を飲んで直ぐに全身の毛穴からぶわっと汗が噴き出てくるようになる。

 

 上記が最適解だというつもりは毛頭ない。自転車に乗り始めた20年前の私は夜な夜な飲み歩き煙草を日に2、3箱吸い運動は全くせず身長160cmで体重は70kg目前までいってBMIが30を超える肥満体で、初めてロードバイクを買って多摩湖CRを20km/hにも満たない速度で1周走っただけで家に帰って心臓が口から飛び出る程の鼓動で倒れ込んでしばらく起き上がれなかった。そういう人間が曲がりなりにもブルベを走る様になりPBPを4回時間内完走するまでになって、そいつが今まで一体何をやって来たのかということが一つの参考になればと思う。

 4回目のPBPを走ってみて、その魅力は全く色褪せていなかった。

 広大で美しいフランスの自然と大地の中に延々と続く長い道、道々に現れる歴史に裏打ちされた美しく落ち着いた街並み、カーニバルの様に賑やかで華やかなスタート・ゴール地点やCP、走行中の他国のサイクリストとの異文化交流、スタッフや地元の人々の歓迎とリスペクト等々、フランスの自転車とブルベの本場の雰囲気に満たされた時間と空間の中に同化して過ごす数日間のその全てが非日常体験の連続でまるで夢の中の様な出来事に思える。その夢の国で1200kmという途方もない距離を自らの脚で走り抜け完走を果たした時に湧き起こる無上の達成感と充足感は一生に一度できるかできないかという他に代え難い貴重な体験になると思う。このプライスレスな体験を得るために大いなる情熱を傾け何かを犠牲にして努力を積み上げて挑戦するだけの価値は十二分にあると思う。

 私的には4年後は60歳を超えている。正直その時にどういうモチベーションを持っているか予想がつかない。今の時点では4年後のことを語るのは取り敢えず止めておこうと思う。

 今回のPBP遠征の備忘録的要点を幾つか挙げておく。(2019年の加筆的内容になると思うので2019年総括も参照されたし)

*バイク・装備チェックはスタート直前に変更されたのでスタート地点に入るのは1時間半前には入っておきたい。

*LoudéacとMortagne-au-Perche仮眠所はそこそこ空きがあったので確保できないということはないと思う。

*コントロールポイントでの食事は前回とほぼ同じ内容。それぞれのCPでのメニューの濃淡もほぼ同じ。全てのCPでの飲食は自腹。しっかり食べると大体€15位が目安。

*各CPではフードコートやベッドブッキングなどでクレジットカードが使える様になっていた。タッチ決済にも対応していたのでかなり便利だった。

*フランスでは相変わらず飲み物の選択肢が少ないまま。スポーツ飲料の類は相変わらず全く見かけなかった。

*今回はスタート前日の受付で道案内の矢印ボードが全員に配られたので道中のボードはほぼそのまま残っていた。盗難防止の効果は充分。

*今回はCPやスタート・ゴール地点でのバイク装備や携行品の盗難の話を幾つか耳にした。相応の注意が必要。

*輪行ケースはACORのバイクポータープロを使用したが往復ともANAでの超過料金は発生しなかった。

*CDG空港からMontparnasseのまでの移動手段はCDGVALとRER B線を使ったが非常に快適だった。スリに注意という情報があったが快速に乗れば常識的な身辺注意をすれば問題ないレベル。Port-Royal駅で降りてMontparnasse駅までは徒歩移動で1.3kmなのでバイクケースを引き摺っても移動可能。

*走行中も含む現地での経費は8日間で約€320だった。

*今回の費用総額は、航空運賃、ホテル代、交通費、現地経費等込々で約40万円位だった。

 

 PBPが終わって日常が戻って再び自転車に乗り始めてブルベも走った。PBPを乗り越えて燃え尽きていなかったことが確認できて良かった。来年の夏に向けて新しい1年が始まったという感じだ。来年の夏は1001Migliaが開催される。2020年、2021年とコロナ過で参加できなかったので満を持しての再トライとなる。年齢的にもこれが最初で最後の挑戦となるだろう。ヨーロッパ4大ブルベの最終ステージに向けてこれからの1年は私のブルベ人生の集大成のつもりで臨みたいと思っている。

 

 PBP2023の走行レポートはこれで完結した。最後まで御読み頂いた皆様、本当にありがとうございました!

 

 次回ブルベ走行レポートはBRM916埼玉200。我がオダ埼玉清水班の9年振りとなる秋田遠征だが、近日詳報の予定。