ショートクランク(160mmのクランクを試してみる)の続編。実際に160mmのショートクランクを試してみてどうだったかを書く。
まず結論から述べると、これは大成功だったと断言できる程の体感があった。クランクを交換してからブルベ2回を含む500km程を走ったが、脚がこんなに気持ち良くスムーズに回るのかというのが率直な感想である。
クランクだけを交換した状態で最初に試走に出た時、走り始めてすぐにシッティングの状態で脚が踏み下ろし切れていないままペダルの下死点で脚がつっかえる感覚が出てきた。これは今まで使っていた165mmのクランクを160mmに変えたことで下死点が5mm上がったことで相対的にサドルが下がったのと同じ状態になってしまったために発生したのだとすぐに理解した。こうなることはある程度予測できたがこんなにもはっきりと自覚できるとは思わなかった。すぐに停車してサドルを5mm程上げてリスタートする。ペダル下死点の違和感は消えて、今度はペダル上死点で持ち上がった膝がすっと”抜け”る感じが出てきた。”なんだこれは!?脚を回すってこんなに気持ち良かったっけ?”という良い意味での違和感にちょっと驚いた。この日はいつもの多摩湖CRを1周だけ約20kmを走って戻って来た。
翌日のBRM216あおば200で、交換してわずか2日目での実戦投入となったが、前日に感じた良い違和感はそのままでやはりペダル上死点での膝の抜けの良さがはっきりと実感できこれはどうやら錯覚ではないだろうと思い始めた。この日のブルベはほぼ平坦だったがちょっとだけあった上り坂ではデメリットとして予測されていたトルク不足による踏み負け感は全く感じられず普通に坂を上ることができ、最終的に脚を回すのが楽しいままの感覚を持ったままでゴールした。ゴール後の脚の疲労や痛みも全然なくてクランク交換による身体の変調は何も認められなかった。次の週のBRM223埼玉200でも全く同じ感覚・感想で脚を回す楽しさを感じたままゴールした。500km走って一定レベルの良好な体感が得られているということはこれは気のせいではないと確信するに至った次第。
クランクの回転運動だけに着目すれば、クランクの長さを変化させて回転数を一定に保とうとすれば、短いクランクならば大きい力で踏みつつ作用点の移動距離は短い(移動速度は遅い)けれど長いクランクならば小さい力で踏みつつ作用点の移動距離は長く(移動速度は速く)なる。即ち運動量自体はクランクそのものの質量を無視すれば一定となる。必要とされる運動量がクランク長では変わらないとすれば、ではクランク長の変化で何が変わるのかと言えば”回しやすさ”ということになるだろう。回しやすさというのはかなり感覚的な言い方になるが、人間の脚は股、膝、足首の3つの関節(支点)でそれにペダル軸を加えた4つの支点の構造でクランクを回すわけで、極端な例を出せば例えば脚長約70cmの私がクランク長1mはそもそも回せないし、1cmのクランク長は回転運動を制御するのが極めて難しくなる。と考えると1cm~1mの間に最適なクランク長が存在するというのは自明の理だ。ここで何をもって最適なのかという問いになると再び話が発散するので、私的には体感的な回しやすさに限定する。
今回の160mmクランクの実使用で体感できた一番顕著な部分はペダルが上に回って来て後ろから前に上死点を通過していく時の”膝の抜けの良さ”だが、これが何なのかをちょっと考えてみる。165mmから160mmにクランクを短くして且つ股関節とペダル下死点の位置関係を変えない様にサドルを5mm上げると必然的に上死点のペダルの位置が1cm下がることになる。連動して膝の高さも1cm下がることになるわけだが、膝を折る角度が最も小さくなる上死点が下がった分膝の角度が角が小さくならずに済むのでこれが体感として膝の抜けの良さとして体感できているのだろうと想像する。膝だけでなく足首や股の関節の揺動角の開き具合が関節の開閉のやりやすさを左右しているということだろう。私の場合は結果として165mmよりも160mmの方が良い方向の体感が得られたということになる。160mmクランクに置き換えたブルベバイクと並行して165mmクランクのままの通勤用バイクを併用しているが、今までは何の不都合も感じていなかった通勤用バイクが膝が高く上がってちょっと回しづらいと感じるようになってしまった。
今のところ165mmよりも160mmの方が良いという結果が得られたというだけで、では私の場合の最適なクランク長は何mmなのかとか最適なクランク長の求め方は何なのかという解を得るところまでは全く至っていない。取り敢えず巷で言われているところの”最適なクランク長は身長の10分の1”というセオリーが身長160cmの私にぴったり当てはまったという結果になった。自分の身体のサイズに合ったパーツを使うことの重要性を改めて認識した。
体感的な回しやすさが効率的な(パワーロスが少ない)ペダリングかどうかは私にはわからないが、私的には長時間自転車に乗り続けるブルベにおいては体感的に楽だとかメンタル的に楽しいと感じられることはかなり重要なメリットだと考える。
何やら具体性に欠けるふわふわとした話になってしまったが、それでも私的にはこの160mmのクランクに辿り着いたことは今この瞬間はエポックメイキングという言葉を使ってしまう程に画期的な出来事に思える。もう1台のカーボンフレームのバイクも160mmに置き換えるために既に中古のFC-R9200をオークションで入手したし、いずれ通勤用バイクも置き換えようかと思っている。165mmのクランクはさっさと売り払おうかと思ったがもしかしたらこの先状況が変わるかも知れないのでもうしばらく手元に置いておこうと思う。
私の自転車は色々ともう最終形態になっているだろうと思っていたのでこういうことが起きてびっくりしたしとても嬉しい。この先も何かしら予期せぬポジティブな変化が起きることを期待したい。自転車に乗るのがまた少し新鮮に楽しくなった出来事だった。